-horreum-倉庫

雑多です。

2025年7月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

2025クロード誕生日

 パルミラから祖父を頼ってデアドラにやってきたクロードはいまだに一人での外出を許可されていない。
「こっちにくればもうちょっと好きにやれると思ったのに」
 クロードが頬を膨らませて苦情を言うと母方の祖父であるオズワルドは苦労が刻まれた手を伸ばし、髪がくしゃくしゃになるまで頭を撫でた。幼児のように扱われることで互いに何かを取り戻している。だから祖父と自分は共犯なのだ。
「もう少し上手く振る舞えるようになったら、な」
 そう言って笑う祖父の顔が好きなのでクロードは未だにリーガン家の本宅から抜け出したことがない。限られた召使と教師に囲まれて静かに時を待っている。デアドラでは数年ぶりに安心して眠ることができた。安心して食事を摂ることができた。母はなぜここから逃げ出したかったのだろう。今はまだ把握したくない。

 数日後、祖父から中庭に呼び出されたクロードは目を見開いて驚いた。目の前には立派な飛竜がいて、すぐに飛び立てるようきちんと装備が整えられている。
「えっ?!なんで?!」
 人口が密集しているデアドラの市街地では糞害を出さないため市街地では消火隊と産婆以外は飛行が禁じられている、とクロードは習った。理屈としては完全に正しい。
「来なさい。物事には例外がある、と教えてやろう」
 鞍が二人乗り用であることは少し気になったが、クロードは祖父に言われるがまま、飛行用の外套を着て鞍に腰を下ろした。手綱は後ろに座る祖父が握っている。装備にリーガンの紋章をあしらった飛竜は祖父の指示通り上昇しはじめた。波の煌めく青い海には船がたくさん浮かんでいて、煉瓦造りの街は水路と橋で出来た網に捕えられている。
「誕生日おめでとうクロード!これがリーガン家の特権だ!」
 パルミラでは同じ月に生まれたものたちをまとめて祝う。そこで不愉快な何度も嫌な思いをさせられた。だがフォドラでは誕生日に対するこだわりが強く、個別に祝う。
「もっと早く教えてくれたらよかったのに!」
「飛べるのは十六才以上のものだけだからな!」
 上空なので声を張り上げないと会話が成立しない。クロードを驚かせるため、今日まで皆わざと秘密にしていたのだろう。自力で特権に気が付けなかったのは少し悔しいが───気分は悪くなかった。畳む
7/4〜5のイベントを終えて在庫がどうなったのかまとめました。どの本も残り5部は切っています。
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booth
2025クロロレウェブオンリー匿名小説企画(匿名でお題にあった小説を書いて提出し、誰がどれを書いたのか予想する遊び)参加作品「月」
#クロロレ

 夢の中で久しぶりに■■■■に会った。
「■■■■!そんなところにいたのか!」
「よう、ローレンツ」
「久しぶりだな。皆、君に会いたがっているぞ」
「そうか、すまんなあ……」
 これが現実なら、申し訳なさそうな顔をするくらいなら連絡をよこせ、と怒っていただろう。だがこれは夢だ。
「無事でいてくれるならなんだっていいさ」
 僕がそういうと■■■■は安堵のため息をついて手を差し出した。
「良かったら少し一緒に歩かないか?」
 特に断る理由もないので僕は■■■■の手を取った。夢の中は何もかもが支離滅裂なので彼の案内なしに歩けない。行き先の分からない階段は上っていたはずなのにいつの間にか下りになっていた。扉を開けると部屋の様子を描いた絵があるだけで中には入れない部屋もどきがそこらじゅうにある。右側の窓から手を出すと雨粒で手のひらや袖が濡れるのに左側の窓から手を出すとなにもない部屋もあった。食堂に生けられた花は木彫りで皿の上の果物は布製だったので食べ物もない。夢の中では飲食できないという話は本当らしい。

「どうして地下の酒蔵に硝子で出来た窓があるのだ?土しか見えないではないか」
「まあこんな感じでことごとく奇妙なわけだ」
 そういって■■■■は踊り場の扉を開けた。その先には渡り廊下とその先に煉瓦造りの塔が見える。星空に照らされた渡り廊下は途中から完全に闇に沈んでいるのにかなり大きな塔だけは松明で明るく照らされていた。
「夢の中とはいってもめちゃくちゃだ。一体どうなっているのだ、ここは」
「まあまあ、そんなに気にしないでくれよ。気を取り直してあの塔に行ってみようぜ」
「だがこの渡り廊下があの塔に繋がっているとは限らないだろう」
 暗闇の中に足を浸した■■■■が手を叩くと三日月がまるで懐いた飛竜のように目の前に着地した。
「だからこれに乗っていくんだよ。詰めれば多分二人くらい乗れる」
 落ちないように背中から抱きしめられながら、三日月に跨ったので僕は生まれて初めて馬に乗った時のことを思い出した。乗り心地は飛竜とほぼ変わらず、三日月はどんどん高度を上げていく。空の色は青、橙、紺、と目まぐるしく変わっていった。全てが歪んでいるが美しい。
「すごい景色だな!」
「そうだろ?だから退屈はしないんだ」
 今は見事な星空なのにあの渡り廊下だけは途中から完全に闇に沈んでいて、それがやけに不自然だった。空の途中に窓があるような夢の中でそんな風に感じるのは無意味かもしれないが。
 塔の周りをぐるぐる飛んでから僕たちはバルコニーへ降りることにした。だがバルコニーから中に入る扉が存在しない。
「この塔の中には何があるのだろう。大きさから言って、階段だけということはありえない」
「この塔は危険なもの、物騒なものを封じ込めてあるのさ」
「どうやって中を確かめたのだ?」
「塔の外に出てこられたのはこいつだけでね。まあ何処にいてもこいつが俺にまとわりつくから俺はここに囚われているのかもしれないな……」
 ■■■■は聞き捨てならない愚痴をこぼしたが、それでも僕たちを乗せてくれた三日月をそっと愛おしげに撫でた。夢の中には月がふたつある。僕たちを乗せてくれた、■■■■に懐いている月と空に浮かぶ月だ。
「この、君によく懐いている三日月が危険……?」
「世間ではそういうことになってるんだよ。残念ながら、な……」
 二つの月に照らされた■■■■は何故か泣きそうな顔をしている。



「……どういうことだ?説明したまえ!クロード!!」
「ローレンツ、お前夢の中でも俺と一緒だったのか?」
 瞼が上がって真っ先に目に飛び込んできたのは腰に布を一枚巻いたきりのクロードだった。
「え、あ?夢……?」
「どんな夢だったんだ?俺は何をした?」
「支離滅裂で言葉にしにくいな……それに今、君と話したせいか殆ど忘れてしまった」
 ローレンツは基本的に寝つきが良く、夢も見ないほど深く眠ってしまう。
「やっぱり現実の俺が良いだろ?」
 だからクロード、いや、カリード王はやたら機嫌がいい。苦労して連れてきた王配が文字通り自分に夢中だったからだ。
「そうだな、君と共にいられるだけで安心する。もう勝手に消え失せてくれるなよ」
 そういうとローレンツはクロードの頬を撫でた。畳む

2025年6月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

クロロレワンドロワンライ第121回:赤面・紫陽花

 紫陽花は土の質によって色が変わる。もしクロードがローレンツと同じく首飾りの西側で生まれ育っていたら、彼の恐怖や憤り、それにもしかしたら悲しさを真に理解することができたのだろうか。勿論クロードも破裂の槍に関する教会の沙汰には苛立ちを感じた。だがクロードはそもそも教会を信頼したことがない。だから教会は不誠実だ、と断言できてしまった。
 もしローレンツがクロードと同じく首飾りの東側で生まれていたら教会の沙汰には苛立ちしか感じなかっただろう。そこには千年近い蓄積が一切ない。
 コナン塔でおぞましい物を目撃したローレンツはひどく感情的になっていて───多少飲んだとは言え顔は真っ赤だし目の縁には涙が滲んでいる。安堵のせいなのか後悔のせいなのか、は本人にも分からないだろう。
「知ってるか?理由によって涙は味が変わるらしい」
 クロードは白い頬を伝っていく涙をそっと拭ってから指を口元に運んだ。甘いような、気がする。だがこれは観察者の主観に過ぎない。
「これだけだと何とも言えないな」
「それは……そうだろう……比較する対象がなければ……」
 生来の気の強さがそうさせるのか、混ぜ返してくるが、まだ頬は赤く伏し目がちになっている。先ほどとは違う理由で頬を染めて欲しい。
「比較させてくれるのか?」
「嫌だ、僕はもう二度と君の前で泣かない」
「何でだよ、慰めてやるよ!」
 ふざけて肩を組もうとした時に姿勢が崩れたのはどちらの意志だったのか、追求するのは野暮というものだろう。クロードの寝台に倒れ込んだ彼はどこもかしこも良い匂いがして滑らかで温かかった。畳む
2025ローレンツ誕生日

 物資不足は解消されつつあるがそれでも新生軍を率いる軍師として、ベレトは無駄遣いをする訳にはいかない。倹約家のレオニーが蜂の巣を見つけてくれたおかげで蜂蜜が取れるようになった。リシテアの指導で焼いた菓子には砕いた木の実がいれてある。改良を重ね、なかなか良い味になった。
「お招きありがとう、先生」
 育ちの良いローレンツは優雅に微笑みかけてくれた。学生時代の茶会で彼はこれまでの誕生日の思い出について語ってくれたことがある。五歳の時に貰った馬のこと、十二歳になった時はテュルソスの杖に触ることを許されたという。そんな彼の背後では兵たちが瓦礫を片づけている。
 ここは中庭だ。ローレンツの背後では兵たちが大きな瓦礫に綱をかけ、どこかに運び出そうとしている。あれはおそらく吹き飛んだ屋根の一部だ。セイロス騎士団はいつか来るであろう、レアを迎え入れる日のために修道院全体の修復を開始している。
「誕生日おめでとう、ローレンツ」
「忙しいのに時間を作ってくれたことに感謝するよ」
 そう言いながら彼は真っ白な手巾を広げ、ベレトの作った焼き菓子の上にかぶせた。飛んできた埃や砂が掛からないように、というさり気ない心遣いが心に沁みる。
「ローレンツとゆっくり話をしたくて」
 ベレトの本心だ。本心ではあるのだが───今頃、ローレンツの部屋はヒルダたちの手で勝手に飾り立てられているし、食堂ではクロードたちが彼には秘密で宴の支度をしている。ベレトはローレンツの目を食堂と自室から逸らしてくれ、とクロードたちから頼まれたのだ。
「そうか。だが……何故、屋外なのだろうか?」
 確かにいつもは静かな中庭が今日に限って掛け声がうるさいし埃も出る。
「天気がいいから」
 無理やり捻り出した理由だ、と悟られないよう食い気味にベレトは返答した。そう言えばあとどのくらいローレンツを足止めしておけばいいのか、ベレトは知らない。

 悪いことは重なるもので遠くから雷鳴の音が耳に届いていた。畳む