「贈り物」 #クロロレ #クロロレワンドロワンライ参加作品 続きを読む クロードは盤面遊戯が好きだ。しかしフォドラとパルミラでは微妙に遊び方が違う。駒自体の形も駒の進め方も奪った駒をどう扱うのかも異なる。だが彼はすぐに馴染み、ガルグ=マクにいた頃はかなり強い打ち手になっていた。 ローレンツは外交官としてパルミラにやってきて初めてパルミラ式の盤面遊戯に触ったが、やはり故郷での癖が出てしまい殆ど勝てたことがない。元からフォドラ式の盤面遊戯であってもあまり強くはなかった。だがパルミラで唯一勝てたのが盤面遊戯の遊び方を学んでいる最中の子供であった、というのはかなり情けない。 初めて勝ってしまった時は通詞や王宮の召使からも感慨深げに様々な祝いの言葉をもらってしまい、これなら負け続けの方が良かったような気すらしたものだ。 「ローレンツ先生は本当にめげないな」 「自分でも何をやっているのだろう、と思う時もある」 盤面遊戯の駒は通常であれば軽い木で作られ着色される。だが彼らの間に置いてある駒の素材は通常のものと全く異なる。ローレンツが面白いことをしていると通詞から聞いたので彼に頼んで王宮まで持参してもらったのだ。 「いやこれはすごい手間だ」 褐色の手がローレンツからの贈り物となる予定のもの、を摘んで目の前にかざした。ローレンツは体格に相応しく大きな手をしているので、持っているものが小さく見える時が多い。彼が作らせた駒は彼の体格に合わせてあるので大ぶりだ。そして翡翠を削り出して作られている。つまり大ぶりな翡翠を駒の数だけ用意して職人に削らせたのだ。贈り物からは贈り主の人格や感情が伝わる。 「全ての駒が完成したら君に贈ろうかと思っているのだが加工するにふさわしい翡翠を入手するのはなかなか難しくてね」 「良かったらもう半分は俺に用意させてもらえないか?」 パルミラを視察する際の楽しみとして素材を探そうと思っていたローレンツだがクロードの提案に乗ることにした。 ローレンツはおそらくパルミラ産の濃い緑が特徴である翡翠を買い求め、その濃淡をもって黒と白の代わりとして使う予定だったのだろう。だがクロードはもっと良い素材がパルミラにあることを知っていた。その石の産地の太守に献上しろ、と言えば首都まで届けられるだろう。 月明かりが眩いある夜のこと、ローレンツはクロードから呼び出されていた。何でも見せたいものがあるらしい。庭に敷いた絨毯で寛ぐクロードの背には大きな座布団、傍にはいつものように酒や肴を載せた大きな丸い銀色の盆がある。ただ今晩はそれだけでなく、こんな明るい晩であるというのに火のついていない蝋燭と預からせてほしいと言われた盤面遊戯の駒が一揃え置いてあった。ローレンツが用意した駒は翡翠で出来ているので影は黒いがクロードが用意した駒の影は緑色だ。 「硝子じゃないぜ。それなら普通すぎてつまらないだろ。まあ座ってよく見てくれよ」 ローレンツは靴を脱ぎ彼のために用意された大きな座布団の上に座り込むとクロードが用意したという駒を手に取った。 「緑色の水晶か?」 「いや、違うんだ。ちょっと蝋燭に火をつけてくれ」 こんな明るい晩に何故と思いつつクロードに言われるがままローレンツはファイアーの魔法で蝋燭に火を灯した。 「駒を蝋燭の炎に近づけてくれ」 再び言われるがままに駒を炎に近づけると駒の色が何と紫色に変化した。 「おお……すごいな!これは!何かの魔法なのか?」 確かにローレンツの言う通り、コンスタンツェが飲み物の色を変える魔法を開発している。 「魔法でも何でもないから不思議なんだ。当たる光の種類によって色が変わる」 「これは何と言う石なんだ?」 「そうだな、無理矢理フォドラ語に訳すなら飛散石かな。加熱すると砕けるんだ」 クロードの言葉を聞いたローレンツは慌てて紫色に輝く駒を盤の上に戻した。こんな珍しい宝石が発見された、という報告があったのも今年のことでこれから国外に向けて売り出していくのだと言う。透明な緑の影を作る不思議な石の群れを菫青石のような瞳でローレンツがじっと見つめている。久しぶりに純粋に彼を驚かすことに成功したクロードはその姿を眺めて手元の杯を空けた。 「完成した記念に一局打とうぜ。負けた方は勝った方のいうことを何でもきくっていうのはどうだ?」 「嫌だ、僕は君に勝てたことがないのだぞ!」 その後、何があったのかは彼らを照らしていた満月しか知らない。 パルミラの首都にある国立博物館にはカリード王が愛用していた、という盤面遊戯の盤面と駒が散逸することなく一揃え展示されている。細面だったが大柄であった、と伝えられるカリード王の夫ローレンツに合わせて作られた大ぶりな翡翠の駒に準じて飛散石の駒が作られた。これほど大きな飛散石の結晶は現在では採取することが出来ない。市場に出回る五カラット以上の飛散石は全て人造だ。贈り物には贈り主の感情や人格が伝わる。 現在でもパルミラの人々は人造飛散石を白熱灯の光にかざす時カリード王の内に秘められた感情に思いを馳せるのだという。生涯愛したと伝えられる夫の瞳の色を内に秘めた宝石で盤面遊戯の駒を作らせた王の思いは深く、一言では表しにくいせいか詩の題材として人気がある。 当時、鉱脈が発見されたばかりの飛散石を使用したこの盤面遊戯のセットはパルミラの栄華を象徴する国宝として国外にも広く知られている。畳む 小説,BL 2025/07/24(Thu)
クロードは盤面遊戯が好きだ。しかしフォドラとパルミラでは微妙に遊び方が違う。駒自体の形も駒の進め方も奪った駒をどう扱うのかも異なる。だが彼はすぐに馴染み、ガルグ=マクにいた頃はかなり強い打ち手になっていた。
ローレンツは外交官としてパルミラにやってきて初めてパルミラ式の盤面遊戯に触ったが、やはり故郷での癖が出てしまい殆ど勝てたことがない。元からフォドラ式の盤面遊戯であってもあまり強くはなかった。だがパルミラで唯一勝てたのが盤面遊戯の遊び方を学んでいる最中の子供であった、というのはかなり情けない。
初めて勝ってしまった時は通詞や王宮の召使からも感慨深げに様々な祝いの言葉をもらってしまい、これなら負け続けの方が良かったような気すらしたものだ。
「ローレンツ先生は本当にめげないな」
「自分でも何をやっているのだろう、と思う時もある」
盤面遊戯の駒は通常であれば軽い木で作られ着色される。だが彼らの間に置いてある駒の素材は通常のものと全く異なる。ローレンツが面白いことをしていると通詞から聞いたので彼に頼んで王宮まで持参してもらったのだ。
「いやこれはすごい手間だ」
褐色の手がローレンツからの贈り物となる予定のもの、を摘んで目の前にかざした。ローレンツは体格に相応しく大きな手をしているので、持っているものが小さく見える時が多い。彼が作らせた駒は彼の体格に合わせてあるので大ぶりだ。そして翡翠を削り出して作られている。つまり大ぶりな翡翠を駒の数だけ用意して職人に削らせたのだ。贈り物からは贈り主の人格や感情が伝わる。
「全ての駒が完成したら君に贈ろうかと思っているのだが加工するにふさわしい翡翠を入手するのはなかなか難しくてね」
「良かったらもう半分は俺に用意させてもらえないか?」
パルミラを視察する際の楽しみとして素材を探そうと思っていたローレンツだがクロードの提案に乗ることにした。
ローレンツはおそらくパルミラ産の濃い緑が特徴である翡翠を買い求め、その濃淡をもって黒と白の代わりとして使う予定だったのだろう。だがクロードはもっと良い素材がパルミラにあることを知っていた。その石の産地の太守に献上しろ、と言えば首都まで届けられるだろう。
月明かりが眩いある夜のこと、ローレンツはクロードから呼び出されていた。何でも見せたいものがあるらしい。庭に敷いた絨毯で寛ぐクロードの背には大きな座布団、傍にはいつものように酒や肴を載せた大きな丸い銀色の盆がある。ただ今晩はそれだけでなく、こんな明るい晩であるというのに火のついていない蝋燭と預からせてほしいと言われた盤面遊戯の駒が一揃え置いてあった。ローレンツが用意した駒は翡翠で出来ているので影は黒いがクロードが用意した駒の影は緑色だ。
「硝子じゃないぜ。それなら普通すぎてつまらないだろ。まあ座ってよく見てくれよ」
ローレンツは靴を脱ぎ彼のために用意された大きな座布団の上に座り込むとクロードが用意したという駒を手に取った。
「緑色の水晶か?」
「いや、違うんだ。ちょっと蝋燭に火をつけてくれ」
こんな明るい晩に何故と思いつつクロードに言われるがままローレンツはファイアーの魔法で蝋燭に火を灯した。
「駒を蝋燭の炎に近づけてくれ」
再び言われるがままに駒を炎に近づけると駒の色が何と紫色に変化した。
「おお……すごいな!これは!何かの魔法なのか?」
確かにローレンツの言う通り、コンスタンツェが飲み物の色を変える魔法を開発している。
「魔法でも何でもないから不思議なんだ。当たる光の種類によって色が変わる」
「これは何と言う石なんだ?」
「そうだな、無理矢理フォドラ語に訳すなら飛散石かな。加熱すると砕けるんだ」
クロードの言葉を聞いたローレンツは慌てて紫色に輝く駒を盤の上に戻した。こんな珍しい宝石が発見された、という報告があったのも今年のことでこれから国外に向けて売り出していくのだと言う。透明な緑の影を作る不思議な石の群れを菫青石のような瞳でローレンツがじっと見つめている。久しぶりに純粋に彼を驚かすことに成功したクロードはその姿を眺めて手元の杯を空けた。
「完成した記念に一局打とうぜ。負けた方は勝った方のいうことを何でもきくっていうのはどうだ?」
「嫌だ、僕は君に勝てたことがないのだぞ!」
その後、何があったのかは彼らを照らしていた満月しか知らない。
パルミラの首都にある国立博物館にはカリード王が愛用していた、という盤面遊戯の盤面と駒が散逸することなく一揃え展示されている。細面だったが大柄であった、と伝えられるカリード王の夫ローレンツに合わせて作られた大ぶりな翡翠の駒に準じて飛散石の駒が作られた。これほど大きな飛散石の結晶は現在では採取することが出来ない。市場に出回る五カラット以上の飛散石は全て人造だ。贈り物には贈り主の感情や人格が伝わる。
現在でもパルミラの人々は人造飛散石を白熱灯の光にかざす時カリード王の内に秘められた感情に思いを馳せるのだという。生涯愛したと伝えられる夫の瞳の色を内に秘めた宝石で盤面遊戯の駒を作らせた王の思いは深く、一言では表しにくいせいか詩の題材として人気がある。
当時、鉱脈が発見されたばかりの飛散石を使用したこの盤面遊戯のセットはパルミラの栄華を象徴する国宝として国外にも広く知られている。畳む