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雑多です。
「flow」第1部4〜5「フェルディア総合大学」
#完売本 #flow #セテス #フレン #シルヴァン #アッシュ #ディミトリ #フェリクス

4.
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一三八五年
・細胞内のマグネトソームは外部磁場に反応し鞭毛を回転させシャーレの内部で激しく運動している

・鉱石の粉末を与えれば与えるほど移動速度が増していった
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 執政官フェルディナント三世を宗教面から支える補佐として多忙な日々を送るセテスに代わって、フレンは熱心に勉強会に顔を出した。フォドラ中から評判を聞きつけて参加希望者がやってくる。規模が拡大し続けているため、いつまでも法学と信仰魔法の勉強会という形式を取っているわけにはいかなかった。ガルグ=マク司教座付属の学校となることが正式に決定し、セテスとフレンはその準備に追われている。
 眷族は長命だが少し老いたせいか近頃のセテスは髪の色が黒に近い緑になっていた。大地を癒してなくなった頃のソティスよりも更に髪の色が濃い。ヒトならば色が抜けていくのだが、眷族は老いれば老いるほど髪の色が濃くなっていく。若草色の髪のまま亡くなったレアが生きていたらあの美しい声でセテスをからかったかもしれない。これがセテスとフレンという名で行う最後の活動になる予定だ。校舎の工事が終わり開校するその日まで眠らずにいたい。礼拝の時にフレンはいつもそう、祈っている。
 セテスは基本、心配性でかつてはフレンの全てを管理したがった。ところがここ最近は、疲れやすいとこぼす娘が単身でペガサスに乗って遠出をしても止めようとしない。紺色に染めた飛行用の外套に身を包み、休眠中に世話になった修道女たちと次は何をする予定なのか、楽しそうに話す娘の姿を微笑んで見ている。
「良いお友達がたくさん出来ました。もし叶うなら次もあの修道院で眠りたいですわ」
 おそらくそうなるだろう。そして次に娘が長い眠りについて目覚めた時に自分がまだ生きているかは分からない。その辺りのことをフレンも察している。セテスとフレンは悔いのないよう、お互い話すべきことは全て話すようにしていた。
「いいことだ。気をつけて行っておいで。その件について話せるなら話してくるといい」
 歳の離れた修道女たちの中にいるフレンは孫のように見える。だが、実際は逆だ。フレンは彼女たちを孫のように思っている。そんな彼女たちの暮らす修道院では果物を収穫する時期が近づいていた。附属の果樹園で採れた果物を一年分のジャムに加工するので、今度は泊まりがけで手伝いに行くと言う。
 フレンが老女たちに皆さまお若いのですからもっとお食べにならないといけません、と言うと奉仕活動に来ている地元のセイロス教の信徒たちは愉快そうに笑う。だがそれは一言一句間違いなくフレンの本心だった。
 軽く浮かんだペガサスに跨ったフレンは地上で見送る父に手を振ると、友人たちのいる修道院へ向かって飛び立った。いつも青空に娘を乗せたペガサスの白い馬体が溶けて見えなっていくまでセテスは手を振っている。出来る限り元気な娘の姿を覚えておきたい。自分の今際の際に思い出すために。
 セテスはフレンと共にいない時は自炊をしない。食事は全て修道院の食堂でとっている。一人で黙々と食事をしてそろそろ皿も空っぽになろうか、と言う時にフェルディアから帰ってきた修道士がダブネルシチューを載せた盆を手にセテスの隣に座った。
「セテス様、お久しぶりです。ご存知ですか?今度フェルディアの魔道学院が改名するそうですよ」
 皆セテスとフレンが学校を作ろうとしているのを知っているため、少しでも彼らの役に立とうとしてくれる。ありがたいことだ、とセテスは笑みを浮かべて続きを促した。
「知らなかった。詳しく教えてもらえないか?」
「総合大学、という名前に変わるそうです。なんでも魔道以外も研究するようになるとかで」
「何を学べるようになるのだ?」
「文法学・論理学・修辞学・幾何学・算術・天文学・音楽です。元々はどの学問も魔力の質を高めるため魔道を始める前に学んでおくべき、とされるものですね。魔道学院時代はそれらを修めた者しか受け入れていませんでしたから、より初心者向けになったと言えるのかもしれません」
 士官学校は戦場で確実に発動できればそれでよし、という考えだ。紋章持ちの学生が英雄の遺産に侵食されないかどうかという重大事案には気を配るが、その他の多少の粗には目をつぶってしまう。
「門戸は広がるな」
「ですがファーガス地方はあまり豊かな土地ではありません。そんなことをしても学生が増えないでしょう。短期間で即戦力を育成していた従来の方針があちらには合っていた様な気がします」

 セテスはファーガス地方がまだファーガス神聖王国だった頃、ガルグ=マク士官学校にいた生徒たちのことを久しぶりに思い出した。皆、傷ついていたが我慢強く優秀な若者だった。あの時もう少し長く丹念に様子を見て彼らを導けたら、救えた者も中にはいただろう。その記憶がある者からすれば在籍年数が長くなるのは納得できる方針変更だった。
「いや、貧しい土地であればこそ、だと思う」
「引き札を貰ってあります。後でお届けしましょう。執務室で構いませんか?」
 そういうと修道士は早く渡したいと言う気持ちで焦ったのか、あからさまに食事をかき込みはじめた。身体に良くないのでよく噛んで食べなさい、とたしなめてから修道院の執務室へ逆戻りするためセテスは席を立った。
 ランプの灯りのもとで執務室に置いてあるわずかなファーガスやフェルディア、それに魔道学院の資料を眺めてセテスが待っていると扉を叩く音がした。先ほどの修道士が引き札を持ってきてくれたらしい。茶を入れて彼の労をねぎらうべきだろうかと思ったが、移動の疲れからか大欠伸をし、その非礼をセテスに詫びる姿をみてやめた。
 居室に戻るか迷ったが念のため書庫に近く、調べ物がしやすい執務室で中身を検分することにした。四つ折りされた引き札を開くとまずブレーダッド家の家紋を取り入れた校章が目につく。今はもうない国を悼む気持ちがある者が選んだのだろうか。その下には修めることのできる学問の一覧と授業料が書いてある。
 ヌーヴェル家中興の祖、と言われるコンスタンツェには魔道学院に強い思い入れがあった。そのためヌーヴェル家からこれまでかなりの資金援助があった筈だが、今後はどうやら学生たちから得た授業料で運営されていくらしい。
 授業料を払いたくなるような教授陣を用意できるのかが肝心だが、そこはどうなのだろう。続けて読んでみるとさすがに元から名門なだけあって魔道の教授たちは魔道にはあまり詳しくないセテスですら半分は名を聞いたことがある。彼らから魔道を習えるなら通う期間が多少長くなろうと学生が集まるだろう。
 めくって裏側を見ると片面には所在地と学内の地図が描かれている。入学後の生活が想像しやすくて参考になるとセテスは思った。もう片面には教師たちが書いた開学への思いを一言ずつ書いていて、それで全ての紙面が埋まっていた。目で追っていくとある一文がセテスの目に止まり、鼻からふっと息が抜ける。

「己を高めこの地を高めてほしい」B・アイスナー

 ほとぼりが冷め、同一人物でないかと考える者が修道院からいなくなるまで一切連絡はしない、と言ってベレトはガルグ=マクを去っていった。そんな事情があるとしても眷族としても百年は長い。その間、何をやっているのかと思ったらこんなことをしていたとは。フレンが戻ったらベレトも似たようなことをしていた、とすぐに知らせてやらねば。久しぶりに愉快な気持ちでセテスは眠りについた。

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 神祖は陸に上がった赤い土を手に取って捏ね、初めに羽根の生えたものを作った。

 次に泳ぐもの、地を歩くものを作ったがそれらは皆、言葉を持たなかった。神祖は次に言葉を持つ者を作った。
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 ガルグ=マクで新たな付属学校が設立されるかという頃、時を同じくして遠く離れた地フェルディアに在り、高い専門性を持つ魔道学院が大きな変化を迎えようとしていた。ヌーヴェル家、それに統一王国やセイロス教会からの寄付金は受け入れるが今後は学生から徴収する授業料を中心として運営される。
 学内の倫理委員会の監査さえ通過できれば、という条件付きだが研究内容や教育内容が完全に自由化されることとなった。加えて学生や入学希望者からの要望があり、資金さえ集められれば学科も学部も学内の認可を取るだけで増設可能になった。
 魔道を極めるには元から文法学・論理学・修辞学・幾何学・算術・天文学・音楽その全てを必要としていた。奇しくも統一王と同じ名を持つアンヴァル出身の教師がこれら七科は人間すべてが持つべき技芸だ、として魔道を学ぶ前の段階である者にも門戸を開くことにしたのだ。学生が増えれば授業料収入も増える。二年間七科を学んで学業を終わりにするもよし、七科のうちどれかを専攻しても良し。魔道専攻の学生達も二年間は必ず七科を学ぶ事になった。この七科のうち何を得意とし何を苦手とするのかで魔道の傾向も分かりやすくなる。
 こうして魔道学院はその名をフェルディア総合大学と名を変えた。だが発案者は役職には就かず、入学式のその日までひたすら研究と開学の下準備に邁進していた。
 入学式当日、新入生たちは緊張と期待の混ざった面持ちで壇上の教師による説明に耳を傾けていた。彼らは皆、出身地の違いはあれどファーガス地方を表す青い揃いの外套に身を包んでいる。この青はファーガスブルーと呼ばれ、軍隊においてファーガス出身者で作る部隊や騎士団などで鎧や武具の意匠に必ず取り入れられた。近代以降は学校の制服やプロスポーツのユニフォームにも使われるようになる。
 首都となったフォドラ大陸の中心ガルグ=マク、南方貿易で栄えるアンヴァル、東方貿易で栄えるデアドラと違い特産品もなく貧しいファーガス地方はフェルディア総合大学をきっかけに優秀な人材を数多く輩出するようになった。そして後にこのフェルディア総合大学の学生が〝黒い水〟の謎を解き明かした。
「ではこれで説明を終わります。最後に私ベレト・アイスナーから個人的に言いたいことをふたつだけ。ひとつ目ですが専攻や所属学科がなんであれ心身共に健康であることを目指してください。精神の健康が魔力の質をはじめ、人生のあらゆる事に関わってきます。勿論学業にも関わってくることでしょう。この学校、失礼、大学は学業に関して厳しい目標を掲げますが我々教師たちも達成させるために全力を尽くします」
 開学の準備が忙しすぎて、髪を切る時間も髪を染める時間も取れなかったベレトは壇上で若草色の髪を隠すため頭巾を目深にかぶって学生達に向けた話を続けている。
「ふたつ目です。皆さんがどこ出身の何者であれ、そうですね、例えばアドラステアやレスターに領地があろうと実家がガルグ=マクにあろうとフォドラ大陸以外の出身であろうと……今後はここフェルディアの誇り、ファーガス地方の誇りとなります。勉学に励む皆さんの助けとなれることを我々教師もまた誇りに思います。では寮に移動して荷物を置いたら食堂に集まってください。食事会を楽しんで!」
 会場にいる人々から万雷の拍手を受けたベレトは軽く、頭を下げてから壇上から引っ込んだ。これでようやく食事ができると思い、薄い腹を撫でる。入学式の後に開催される食事会は食堂で大規模にやって親しみを持ってもらおう、という方針だ。賑やかしに卒業生たちも呼んでいるし、新入生も家族を連れてこられる者は家族を連れてきている。ベレトは皆の家族を見るのを楽しみにしていた。
「先生、妻と娘です」
「はは、先生なんて言わずに名前で構わないのに。久しぶりだな!ギュスタヴ、わざわざお祝いに来てくれてありがとう」
 大勢の卒業生や新入生とその家族でごった返す食堂で、皿を手にどの料理を食べるか物色していると急に声をかけられた。振り向くと家族を連れたギュスタヴが笑って立っている。まだギュスタヴの腰くらいの背丈しかない娘が恥ずかしがって父親の服に抱きついて隠れていた。奥方が娘をたしなめると橙色の髪をしたアネットそっくりな子供が顔上げ自己紹介をした。
「はじめまして、アネットです」
 なんてことだ。名前まで同じなのか。
「はじめまして、ベレトです。アネットも大きくなったらここでお勉強をしますか?」
 はい、先生!と元気に返事をするアネットの頭をベレトはそっと撫でた。もし自分の心臓がきちんと動いていたら、激しい鼓動のせいで周りの音が一切聞こえないだろう、と思った。長く生きていれば望外の良いことがある。もしかしたら教え子たちに再び会えるのかもしれない。勿論このアネットはあのアネットではない。
───だが。
「ベレトは髪の長さ以外は学生の頃とちっとも変わらないな」
 ギュスタヴがフェルディアの街中で魔道士として働き、結婚し子育てをしている間もずっとベレトは魔道学院にいて研究をしていた。英雄の遺産が子孫に与える影響について徹底的に調べられるのが、基礎研究を重視する魔道学院だけだったからだ。コンスタンツェはエーデルガルトから呆れられていたが、液体の色素を変える魔法は実用化しようと思えば実用化できた。ただそれが当時、戦争の役に立たなかっただけだ。
 実学志向のガルグ=マクでは紋章持ちの若者が出陣し帰国して跡継ぎを作るまで生きていれば、死ななければそれで良しとされていた。戦地から戻って四、五年で人生を畳めと言われるのは人間らしい扱いではないし、根本的な解決ではない。その命を差し出せば戦況を有利に出来るからこそ紋章を受け継ぐ者たちは貴族として讃えられるのだ、領民や兵士たちを守るために己の命を惜しんではならない。ローレンツならそう言っただろう。彼もまたメルセデスのように諦めたが故の強さを持つ若者だった。
 闇に蠢くものたちはもういない、と信じたいが何かをきっかけとして戦争が起きた場合、また紋章を受け継ぐ若者たちがすり潰さへてしまう。その前にどうしても回避の為の道筋を作っておきたかった。僅かばかりの手がかりは掴めたが道は遠い。
「そのうち切るさ。見た目が変わらないのは暮らしぶりが変わらないからだろうな。知りたいことがまだまだ尽きないよ」
「その調子では娘が大きくなる頃もまだ大学に居そうだな。その時は娘を頼むよ」
 そういうとギュスタヴはアネットを連れて他の学友に妻と娘を紹介するべく、ベレトの前を去って行った。橙色の髪の毛が人混みに消えていくのを見届けたベレトは空腹だったことを思い出し、ゴーティエチーズグラタンを求めて皿を手にギュスタヴたちとは逆の方向に向かって歩き始めた。

───
 最初に神祖と同じ緑の髪をした者たちが作られた。

 次に畑を耕し糸を紡ぎ神祖を讃えるべき者たちが作られた。
───
 フォドラ統一戦争から二百年近くを経ても、はぐれ魔獣、帝国系魔獣の被害はいまだに出ている。ヒトの時間感覚で言えば遥か昔だが、フォドラ統一戦争は眷族とアガルタの民の代理戦争でもあったため時間の尺度が異なっていた。フレンの友人たちが生活する修道院近くにも踏むと魔獣が発生する罠のような装置が誰が踏んでも構わない、と言った投げやりさで何百年も前から仕掛けられている。
 ベレトは地域社会への貢献、研究の実践、資金調達の手段としてはぐれ魔獣や帝国系魔獣を狩っていた。しかしそれは彼が炎の紋章を持ち、単独行だったから出来たことだ。今のフレンのように白きものの姿に戻る力を失い天馬は厩舎に繋いだまま、守るべきものたちを背後にして装備は手槍だけ、という状態では無理な話なのだ。
 フレンは咆哮を上げ威嚇するはぐれ魔獣に向かって手槍をなげつけ、自分だけに集中するように仕向けた。修道女たちが必死で回復魔法を掛けてくれるので均衡が保たれている。しかし彼女たちを逃さねばならない。もしフレンが魔獣の攻撃を防ぎきれず、逃げる彼女たちに当たってしまったら。そのことを考えると何度もライブをかけてもらうわけにはいかなかった。
「皆さま!私のことはお構いなく!早くお下がりください!」
 フレンの気迫に押されて逃げ始めた老女たちはやはり足が遅い。額から流れる汗と血を手の甲で拭ったフレンは最後の手槍を握りしめ、魔獣を睨みつけた。最後に一投しようと腕を振り上げた時、フレンが思いもよらない方角からライナロックが放たれた。頭に直撃を喰らった魔獣は体勢を崩している。
「逃げろ!」
 赤毛の青年は声のした方向を探しもせず一目散に若草色の髪を振り乱し、修道院の方角へ向かって駆け出すフレンの姿を見た赤毛の青年は感心したらしい。馬上で口笛を吹いた彼に追いつくため、必死で走ってきた雀斑の目立つ青年もフレンの後ろ姿を見て一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに魔獣に向かって矢を放った。
「連携お願いします!」
「おうさ!絶対にミスリルを手に入れるぞ!」
 馬を駆り、魔獣をどこから攻撃すべきか吟味すると赤毛の青年は今度は槍を握りしめて魔物の懐に入りこんだ。魔物の自重を利用して貫く技は真に勇敢な者にしか使えない。
 その背にゴーティエの紋章が浮かんで消える。二人は重い音を立てて倒れた魔獣から使った武器とミスリルを回収するために近づいた。
「見てみろ、アッシュ。可愛い顔してたのにあの子はすごいな」
 浅い傷しか負わせられなかったとはいえ、手槍が全て急所に刺さっている。それにあの場合、礼も言わず振り向かず言われた瞬間に駆け出すのは戦場においては正しい行為だ。青年は相棒の弓使いよりも若そうな少女が古兵のように振る舞うことに興味を持ったが、連れの呆れたような視線に負けた。無言で魔獣の亡骸を私物の短刀で切り裂いて自分の槍を引き抜く。任務でアンヴァルへ行った時に古道具屋で買った短刀で、魔獣の亡骸を切り裂くのにも果物の皮を剥くのにも使える。
「ねえ、シルヴァン。あの状況で可愛いとか可愛くないとか関係あるのかな」
「いいや絶対に可愛かった!真っ直ぐあっちに向かったってことは修道院の子かな。壊れた手槍を届けに行くついでに泊めてもらえないかな。宿代が節約できる」
「ダメだよシルヴァン。女子修道院は男子禁制だもの」
 それでも回収した手槍は返却する必要があった。買い直すより鍛冶屋で修理してもらった方が安いからだ。自分の槍に続けてフレンの手槍も引き抜く。短刀で魔獣の皮を切り裂き、ミスリルを含んでいる内臓のあたりを突き刺したシルヴァンはしまった、というような顔をした。
「でも門前に置いておくくらいはしておこうぜ。それとアッシュ、悪いけど剣を貸してくれ。刃が届かない」
 アッシュは腰の剣をシルヴァンに渡してから手持ちの布で、魔獣から引き抜かれた手槍の刃についた血を拭った。修道院に返す物が穢れているわけにはいかない。シルヴァンはアッシュから借りた刀を使ってミスリルを含んだ内臓を切り離し、袋に入れ馬の鞍に乗せた。アッシュが綺麗にして紐で括ってくれた槍は折れて軽くなっているので手に持つ。
「あの子が顔出してくれたらミスリルも半分こしてやりたいね。本当に半分はあの子の手柄だから」
 二人は軍人をしている。これからデアドラヘ行き、研修を受けてからパルミラとの国境を護るフォドラの首飾りへ行くのだ。国境警備の任に就く。
 問題は宿場町の物価が魔獣の出没により思ったより高くなっており、路銀が心許なくなってきたことだった。整備された街道を外れると出没するという魔獣を討伐してなんとかしよう、と言い出したシルヴァンにアッシュは最初いい顔をしなかった。だがここで稼いでおけばデアドラの本屋で本が買い放題だ、と言われてしまっては折れるしかない。
 修道院に向かって、荷を乗せた馬を引き歩き出した彼らの帯にも馬具にもファーガスブルーが使われている。パルミラとの国境警備はレスター地方の部隊や騎士団が任にあたるのが基本だ。しかし人事交流の一環で他の地方から派遣される者がいる。地元に戻れば出世が約束されているが、家族を置いていくことになるので皆あまり行きたがらない。しかしシルヴァンとアッシュは進んで手を挙げた。
 二人とも独身だったし、別の土地に興味があった。彼らにとって修道院の周りにあるこの森が、最後の見慣れた森になるだろう。ここから更に南下すると植物相が変わっていく。森の外れに建つ修道院の尖塔に気づいたのはシルヴァンより目が良いアッシュだった。錆び付いた呼び鈴の紐を引くと思ったより大きな音が鳴り響く。渉外担当であろう枯れ枝のように老いた修道女が門の前にやってきた。
「勇敢な手槍のお嬢さんはご無事ですか?」
 ファーガスブルーの帯や馬具をもってしてもシルヴァンの如何にも遊び人です、と言った風情は拭いきれていない。修道女からは完全に不届者を見る目で見られている。居た堪れなくなったアッシュが紐で括ったフレンの手槍を手に、無言で二人の間に割り込んだ。槍の柄を見てようやく門前の二人が恩人である、と信用したのか修道女は門を開けた。
「確かにこれはフレン様の手槍です。ご親切にありがとうございます。どうかあなた方に女神の御加護がありますように」
「あの方のおかげで魔獣が倒せました。ミスリルが採れたので半分お分けしたいのです。僕らはこれから任務でデアドラまで行かねばなりません。道中の安全を祈っていただけませんか?」
 デアドラと聞いてさすがに思うところがあったのか少しお待ちを、と言って修道女は中に引っ込んでしまった。誠実そうな自分の見た目を利用するアッシュに比べたら、見るからに遊び人な自分の方が実は誠実で初心なのではないかとシルヴァンは思う。
 枯枝のような修道女が額に包帯を巻いた若草色の髪をした少女を連れて現れた。壊れた手槍を受け取り、シルヴァンとアッシュの名を聞いた彼女は何度も瞬きをしている。どうやら声も出せないほど驚いたらしい。
 それでも彼女の古めかしい言葉での祈祷は、シルヴァンたちの故郷にいる司祭よりも堂々たるものだった。祈祷を終えるとフレン、と名乗った少女は何もかもが釣り合っていない。フレンはシルヴァンが言ってもアッシュが言っても小さな弟を相手にするかのように私からの餞別だと思いなさいと繰り返し言っミスリルは受け取ろうとしなかった。

5.
───
一四一〇年
 緑色の髪を持つ者たちは聖人として神祖の代わりに畑を耕し糸を紡ぐ者達を導いた。

 しかし最初の畑を耕し糸を紡ぐものたちは神祖を称えることをやめ、聖人と神祖に逆らったので神祖はこれらを大水で滅ぼされた。
───
 ガルグ=マクは首都機能を持った新市街とセイロス教会総本山である聖堂と付属の修道院や教育施設を中心とした旧市街に分かれている。旧市街の一角、セイロス教関係者の墓地にファーガスブルーのローブを身にまとった墓参者がいた。
 彼だけが目の前の墓が伽藍堂であることを知っている。二十年ほど前、墓に入っているはずの人物たちと会った時は不思議な再会を肴に、それはそれは盛り上がった。フレンの出会ったシルヴァンとアッシュ、それにベレトの出会ったアネット。
 ヒト相手だと稀にあることらしい。しかしセテスによると、眷族とそのようにして再会できたことはないのだという。
 その後、髪が真っ黒になったセテスはフレンを伴って奥方の墓がある西海岸へ移住していった。眷族の肉体は本体の死後も武器に移植された血と骨は生き続けるくらい頑丈で、単なる火葬では亡骸が悪用されてしまう。妻の亡骸を守り娘を看取るのがセテスの、いや、キッホルの生涯最後の仕事なのだろう。ではキッホルの亡骸は誰が守ってくれるのだろうか。
 眷族の亡骸を武器へ転用させないため、ベレトは紋章石を与えられた聖職者の埋葬における禁忌を調べた。その真逆の行為をすれば良いという仮説を立てたからだが、実験には至ってはいない。
 ベレトは父ジェラルドと先代大司教レアの手により作り出された母シトリーの息子だ。母のことは全く覚えていない。戦後、自分に紋章石を譲って命を落とした母シトリーの墓を若き日のリンハルトと共に調査した際、ベレトは言葉を失った。
 枢機卿アルファルドが正気を失ったの彼が愚かだったからではない───戦場育ちで人の亡骸など見慣れた身の上であればこそ、ベレトにとって両親の亡骸はあまりに異様だった。しかし調査したことは後悔していない。
 レアから血を与えられただけのジェラルドの亡骸ですら、死後十年以上経っていたのに大して傷んでいなかった。関節を楽々と曲げることができた時に感じたものは恐怖だけではない。それに流石に青ざめたリンハルトが震える手でベレトの手を握って〝先生、大丈夫。死ぬなら生き物だから〟と慰めてくれたことは今でも覚えている。

 フェルディア総合大学の名で、何度か聖廟への立ち入り調査を依頼したが全て断られている。だが、現地入りすれば何か思いつくかもしれない。そう考えたベレトは彼を直接知る者がもう誰も残っていないガルグ=マクに戻ってきた。聖廟は年に一度しか開かないが持ち出し厳禁の資料はその場で読むことが出来る。図書館に入る前に墓前で気合を入れたベレトは懐から入構許可札を取り出して首にかけた。フェルディア総合大学の一員であることを示す金属の札と合わさってかちゃかちゃと音を立てる。かつてガルグ=マク旧市街にベレトが入れない場所など存在しなかったので中々に新鮮な体験だ。
 旧市街はまだベレトが王だった当時の面影を色濃く残している。それは街中を歩く学生たちの制服が元のままだからかもしれない。背中に背負った矢筒の矢羽と髪の毛が絡まった、と言ってきゃあきゃあ騒ぐ紫色の髪をした甲高い声の女学生とすれ違ったベレトは微かに笑った。きっと声からしてベルナデッタの子孫だろう。
 六大貴族の子女たちは毎年必ず誰かが士官学校で学んでいる。初代たちは戦後「当主は戦争の際に必ず先陣を切り、前線から離れない」という誓いを立てた。勇敢に戦わぬ者に当主の資格なし。そしてこの誓い故に当主は己の命を危険に晒してまでやる価値がある戦争なのかどうか、深く考えられるのだ。散発的な残党による反乱はあったが、戦後二世紀を経てもなお内戦は起きていない。そして他国からの侵略も防げている。
 昔は大聖堂二階の片隅に書庫があった。だが手狭でアビスの資料が収蔵できない。いちいち地下まで降りて読みに行くのが面倒だったベレトとリンハルトはレアの死後に修道院の敷地近くに図書館を作ってしまった。そしてなし崩しにアビスの存在を公表した。公表してしまったからにはアビスにも外部の目が入る。
 アビスに逃げ込んでいた寄る辺なき人々のうち、法に触れていた者は法に則って処罰を受けた。しかしそれ以外の者たちは元住民であったコンスタンツェ、ベレトと共にアビスで戦ったリンハルト、それと意外なことに彼らに深く同情したベルナデッタを庇護者として生きることになった。
 こんな逸話がある。フェルディナント一世が何かの会合で統一王の御代をどう表現するか問われた時、彼は無言で手袋を外し両手の掌を見せた。この逸話からわかるように徹底的な情報公開が統一王ベレトの治世の特徴と言われている。単純な育ちで権謀術数の類に慣れていなかったからなのか、秘密だらけのセイロス教会にうんざりしていたからなのかは本人にも分からない。
 ベレトが図書館入口の壁にリンハルトの字をそのまま拡大して彫らせた碑文〝真理は汝を自由にする〟を撫でていると背後から声をかけられた。
「俺もその文が好きだよ」
「いきなり後ろから話しかけるせっかちな猪にふさわしいのは〝光陰矢の如し〟だと思うが」
 〝光陰矢の如し〟は士官学校の書庫入口に掲示されている。軽く苛立っている学生の仕草に合わせて剣帯が少し音を立てた。そしてもう1人黙って控えている者がいる。
「士官学校の生徒がこちらの図書館に用があるとは珍しい。戦術書なら向こうにもあるだろうに」
 ベレトがリンハルトの字から目を離さずに答えると後ろの三人は少し驚いたらしく、息を飲む音が聞こえる。振り向けばそこには懐かしい顔があった。フレンが出会ったシルヴァンとアッシュは成人していたが、ベレトが出会ったアネットは幼児で今、目の前にいる三人はベレトが知っている年齢のままだった。
 彼らの腰にはファーガスブルーの帯が巻かれていて、だから碑文に触る怪しい男に話しかけてきたのだろう。ベレトは首から下げたフェルディア総合大学の身分証明札を取り外した。検分し難いだろう、と金髪の青年に渡すと水色の左目だけが落ち着きなく札とベレトの顔を行き来している。だが、全く右目は動かない。おそらく義眼なのだろう。ベレトが最後に見たディミトリの姿が影響しているのか、生来のものなのか事故なのかは判らないが今生ではあんな風に追い詰められた人生を歩まずに済むと良いのだが。そしてそのためにベレトにできることが何かあれば良いのだが。
 ディミトリは札をベレトに返しながらどうして、と小さく呟いた。
「魔術を学ぶものは五感を研ぎ澄まさねばならない。名前は?」
「アイスナー教授、俺はディミトリです。こちらが同じくファーガスから入学したフェリクスで幼なじみです。こちらはドゥドゥ。片目が見えない俺を心配した父がダスカーの者はよく尽くすから、と言って付けてくれた従者です」
 次にベレトは掌を顔の前でひらひらと動かし移り香を嗅いだだけで、ディミトリの右側に無言で佇む彼が温室で育てていたダスカー産の花の名を言い当てた。ご存知でしたか、と驚く今の彼も園芸が好きらしい。はしゃぎ過ぎた気がしたベレトは急に真顔になった。
「種も仕掛けもない手品の時間はこれでおしまい。読みたい資料があるのでね。君らも理学魔法や信仰魔法を学んでみるといい」
 こんな風に教え子たちにたまに再会出来るなら、滅びるしかない一族のなり損ないの最後の一人として長い長い一生を送るのも悪くない、とベレトは思った。

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・マグネトソームの向きが揃う性質があり、これにより群れた時にN極とS極が発生する。

・両極が引き合う事によって高速で回転している
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 ベレトとリンハルトが作らせた図書館は旧市街にある。新市街で働く文官たちからは遠いと言って不評だった。立地の都合上か何故か教会の文書も保存している。最も古いものは巻物で次に蛇腹状の折本、そして冊子状に綴じられた本の時代が始まる。肉筆写本、銅板印刷、活版印刷と全ての形式の本が収められていて、どの本もベレトの父ジェラルドが教会に不信を抱いた時期に起きた大火事でも焼けなかった強運の持ち主だ。
 ベレトはフェルディナントのためにセイロス教会がかけていた印刷技術についての規制を解除している。彼が生涯を捧げた義務教育制度のためには大量の教科書が必要だった。労働力を奪われるという理由で導入は大揉めに揉めたことは記憶に新しい。
 当時、意思の疎通が取れるようになった子供は大人と同じように働くべき、と言われていた。王はエーギル公に甘い、と言われてもどこかへ巡幸する度に必ず学校に立ち寄ったことをベレトは後悔していない。子供が子供のままでいられる期間をわずかばかりと言え、引き伸ばせた。それに王として子供は親が消費するものではない、と示せたのは良いことだった───ベレトは今でもそう思っている。
 読み書き可能なものがそれまでになく、増加したおかげで出版が大きな産業になった。巻物も折本も冊子本含め、肉筆で作られた本は殆ど活版印刷で出版され直している。ベレトが今、手に取っている薬草の本も活版印刷で刷り直しされたものだ。製本技術の進化をひしひしと感じる。
 そんなご時世でも聖廟の埋葬記録は刷り直しされることがなく、肉筆のものが残るのみだった。やはり禁帯出なので参考調査室で読むしかない。ペンを持ち込むとインクで肉筆の本を傷めてしまう可能性がある。このため参考調査室で肉筆の本を読む際には蝋引きの書字板と鉄筆以外の文具は持ち込めない。
 ベレトが紐解いた記録や史料によるとアンヴァルで布教を始めたばかりの頃、初期のセイロス教では身分の分け隔てなく黒魔法を使わない火葬が望ましい、とされていた。しかしある時を境に紋章を宿している貴族は火葬が望ましく聖職者と薪を用意できない平民は土葬が望ましい、と規範が変化した。
 大都市での人口増加に伴う木材の大量消費が問題視されたこととレアの禁術が絡んでいるのだろう。
 薪が用意できる平民といってもその格差は激しい。最後の親孝行としてふんだんに薪を用意する跡取りもいれば金がないのか金を使うのがもったいないと思ったのか、誰かが他に死ぬのを待って他家と共同で亡骸を燃やす遺族もいる。飢饉や流行病、夏の暑い盛りや冬の寒さが厳しい時には必ず道連れができるものだ。全身にきちんと布を巻きつけておけば骨が混ざることはあまりないらしい。
 聖職者たち以外が亡骸に軟膏を塗り、布で全身を包みこむのは薪の上に乗せて燃やした時の効率を考えてのことだ。しかし聖職者たちの亡骸に塗る軟膏は配合からして違う。
 目的が違うからだ。本棚から持ち出した埋葬記録と葬礼と薬草学の本で作った山に埋もれてながら、ベレトは必死で必要な部分を書き出した。
 聖職者の亡骸に塗る軟膏は蜜蝋の割合が不必要に多く、土に還すまいという意志を感じる。与えた紋章石を後で摘出する場合、門外漢のベレトからすると完全に土に返した後の方が楽な気がした。しかし実際に行動に移すなら元の形を保っている方が取り出しやすい可能性もある。
 身内であったが故に死後、素材としてもレアに仕える羽目になった聖職者たちのことを考えるとベレトはいつも考え込んでしまう。彼らが望んでいたこととは思えないからだ。そしてレアが孤独で心を病んでいなければこんなことはしなかっただろう。ナバテアの民の亡骸を十傑の遺産の素材にされた時に感じた怒りと悲しみと同じ怒りと悲しみをヒトも感じるのだ。
 すっかり陽が落ちて辺りは暗くなっている。持ち込んだ洋燈に火を灯すとつかれた目がガラスの中の炎から離れなくなった。フェルディナントが今のベレトを見たらローレンツを火葬した時のような顔をしている、と言うだろう。

 ローレンツが戦死したミルディン大橋と彼の実家のあるグロスタール領までの経路が当時は確保できなかった。亡骸が傷む可能性があったので彼の亡骸はミルディンで直ちに火葬されている。今際の際の言葉を尊重し彼だけのために糸杉だけで薪を組んだ。
 平民の亡骸を燃やす時は油を含んでよく燃える松も混ぜて薪の本数を減らす。黒鷲の教え子たちとベレトで検分したローレンツの私物には死装束と亡骸。完全に燃焼させるため死後に塗る軟膏、煙が焦げ臭くならずにするための香料が入っていた。これが戦地に赴く貴族の心得なのだな、と当時感心した覚えがある。形式に根拠があって非常に不愉快だ、と動揺したリンハルトがこぼしていて珍しくカスパルがたしなめていた。
 フェルディナントはローレンツの遺骨を納める骨壺として美しい白磁の壺を選んだ。光が当たらないように正絹の布に包み、清めたローレンツの槍と鎧と共にフェルディナントがグロスタール家へ直接届けている。嫡子であったローレンツの埋葬式では祭壇には彼の髪の束が飾られていたと聞く。だから片側は髪が短かったのだろう。
 戦後、ローレンツの弟が家督を継ぐ許可を求めてきた際にベレトはすぐに許可を出した。フォドラ統一戦争の際にセイロス教会と敵対した家は断絶させるべき、という意見を出すものはベレトの強烈な罪悪感を理解する気がない。
 継ぎたいと名乗る者がいて血のつながりが確認できればベレトは全て許可を出した。流石にフレスベルグ家とブレーダッド家だけは改めてセイロス教会ではなく統一王の名において伯爵家として叙任し直している。これにより彼らは王族ではなくなりアドラステア帝国皇帝の継承権、ファーガス神聖王国国王の継承権それと免税の特権を完全に失った。しかし断絶するよりはずっとましと思ったのだろう。喜んで譲歩してくれた。だから先ほど会った三人もかつて出会ったアネットと同じく、名字まで前と同じ名前だろう。
 ぼんやりしているうちに洋燈の火も消えてしまったので、再び灯りを点そうと詠唱していたら司書から声がうるさい、とベレトは怒られた。素直に切り上げ時と認め図書館を後にする。
 旧市街の警備をする衛兵たちは嘘か本当か分からないが顔立ちの審査があるという。ベレトがガルグ=マクで教師をしていた頃も女子学生たちが門番の兵士に差し入れなどをして、よくかまっていた。ベレトが札を見せ修道院の宿坊に泊まっている、と告げた衛兵も親しみやすい顔をしていた。
 門を開けてもらい構内を歩いていると訓練場から物音がする。入り口の松明が燃えているから誰かが訓練をしているのだろう。耳を済ませて聞いているとどうやら先程の三人が手合わせをしているようだった。
 扉を開けて訓練場の中に入った瞬間、時が巻き戻った様な気がした。間取りも全く変わっていない。訓練用の模造剣の置き場所も変わっていなかった。ベレトは剣を手に取りそうになったがそれは止めた。図書館入り口でやったような芸当はフェルディアの同僚なら半分がやってのけるが剣だけは下手な振りができない。
 ゆっくりと、わざと大きな音を立てて拍手をした。これが熱心で真面目な三人に向けての拍手なのか彼らと再会できたことへの拍手なのかベレトには分からなかった。畳む