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雑多です。
初版の表紙
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台詞抜粋
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誰からも文句を言われずに銀雪ルート(コンスタンツェ以外スカウトなし、マイユニットはベレト)の現パロが書きたかったので8世紀分の歴史をスケッチしました。

「flow」第1部1〜3「店じまい」
#完売本 #flow #表紙 #台詞まとめ #フレン #セテス #アネット #ギュスタヴ

───
一二九〇年
 隕石が轟音を立ててぶつかり、その勢いは光を発するほどであった。

 金属が溶け、あるものは浮かびあるものは沈み、やがて大地と海が生まれた。

 虚空を漂っていた神祖はまず海に降り赤い土を掴むと息を吹き込んだ。
───
 フォドラ統一国家の王ベレトは先代の大司教であったレアの命日に、なんとか時間を作った。側近セテスの妹であるフレンを自室での茶会に招いている。すでにベレトの治世は一世紀弱に及んでいた。しかし女神の恩寵を受けたのか、彼と彼の側近であるセテスとその妹は若々しい姿を保っている。
 ベレトが山のように積まれた、フレン好みの茶菓子を無言で食べ終わったのでようやくフレンも口を開いた。
「先ほどから食べてばかり。お話ししていただかなくては用件が分かりませんわ、先生」
 共に戦い大陸を統一した黒鷲の教え子たちも二十年ほど前に全てこの世を去っている。いまやベレトを先生と呼ぶのもフレンだけとなってしまった。
「フレン、何年おきにどれくらい眠っている?」
 ヒトとしても眷族としても異物、としか言いようのないベレトは距離感が少しおかしい。茶菓子をフレンに殆ど食べさせず、全て自分で食べてしまうくらい言い淀んでいたのならもっと差し障りのない問い方もあったろうに。そんなフレンの内心の動揺の表れだろうか彼女の茶器はがちゃん、と音を立てた。
「法則性は掴めておりませんわ。そして休眠期と活動期は自分の意志では選べませんの。起きた時の環境設定はお父様と枢機卿達に任せていましたが……」
「枢機卿か。そういえば枢機卿の亡骸はあれで全部なのかな」
「共鳴現象にも有効範囲がありましてよ。亡骸がガルグ=マクにない方もいらっしゃいますわ」
 レアが暴走した際、彼女の血を分け与えられた者たちの亡骸が蘇った。しかしあの時ベレトの父ジェラルドの亡骸は蘇っていない。おそらく同時に紋章石の欠片を与えられたかどうか、そして与えられた血の量や濃さ、頻度や儀式によってどう影響が出るのかが変わるのだろう。
「まあ暴走する〝白きもの〟もレアが最後の個体なんだろう。セテスもフレンもあの姿になる力は失っているんだよな?俺は元からその力を持っていない」
 フレンは黙って引き続き、取り留めのないベレトの言葉に耳を傾けた。
「フレン、アビスの書庫を知っているだろう?いずれ女神の恩寵で長生きできる、という言葉でごまかしが聞かない時代が来る。その時に備えておかねば、と俺は思っている」
 レアはそういう牧歌的な世界が末長く続くことを望んでいた。だがベレトの教え子という少ない母数の中ですら、それは欺瞞だと言い切る者が複数いた。言い切った者のうち天寿を全うできたのはリンハルトのみで、ヒューベルトとエーデルガルト、それにベレトと縁が薄かったクロードは戦場に散った。
「私は安定性に欠けるので、長期的な計画に関わることは出来ませんわ」
「そこだ」
「どこですの」
「自分が自分をあてに出来ないのは辛いな。でも自分が万全なら、全て完璧に出来るかと言ったらそれは違うぞフレン」
「無理だったとしても完璧を目指さなくては自堕落になるだけですわ」
 ベレトはすでに出がらしになった茶葉にお湯を注いで、無理やりお代わりを作った。もはや色しか付いていない。かつての教え子フェルディナントとローレンツが見たら眉間にしわを寄せるだろう。
 助けられたものと助けられなかったもの───二人はとても仲が良かった。彼らのことを思うと、未だに胸が引き裂かれそうになる。ベレトがヒトとして過ごした、今思えば貴重な時間を共にした若者たちだった。
「ヒトが白きものより生き物として劣っているのが明らかだからと言って、社会を完璧に制御しようとした結果が百年前の大戦だ。今後も我々……俺は頭数にいれていいのか分からないな。とにかく眷族が繁栄していくのならともかく、撤退について考えねばならない」
 かつて幼いながらもネメシスと戦い、不可逆な障害を負った聖セスリーンことフレンは誰にも見せたことのない表情を浮かべた。たかだか百二十年程度しか生きていない若造が生意気なことを、とでも言っているようだった。
「私、これで失礼しますわ」
 しばらくの睨み合いの末、そう言った時のフレンはいつものフレンに戻っていた。少々時代錯誤な服に包まれた去りゆく彼女の背に返答を期待せず、ベレトは声をかけた。
「フレン、負担は大きいが殿(しんがり)は武人の誉だよ」
 フレンが去った後にベレトがテーブルから手を離すと、テーブルクロスに手の形の汗染みが出来ていた。灰色の悪魔と呼ばれ、フォドラ大陸を統一したベレトにもまだ恐ろしいものはある。

 数節後、フレンが眠りについた。干渉されずに眠りにつくための場所は地方にあって、老いた修道女ばかりで修道院が選ばれることが多い。今回は旧ファーガス神聖王国にある修道院だった。
 この手の遠出から帰ってくるセテスは、いつも少し顔色が悪い。ベレトが呑みながら話したい、というと一杯だけなら、と条件をつけて夜に時間を作ってくれた。
「フレンは一生、こんな風に長い眠りを必要とするのか?もしそうだとしたらセテスの死後はどうなる?俺は生物として歪だからフレンより長生き出来るのかわからないし、何か起きた時のために教えてもらいたい」
 そもそもフレンはセテスより長く生きることが出来るのか。ベレトは以前から疑問に思っていたが、流石に聞けなかった。だが、引き伸ばしにも限界がある。
「私は本来の姿に戻る力を失ったが、寿命はまだ尽きない」
「セテス、以前フレンに話して怒らせてしまったのだが、いずれ女神の恩寵で長生きなんてごまかしが効かなくなる日が来る。俺はそれに備えたい」
「何をするつもりだ?ベレト」
「俺個人のことだけならとりあえず退位して、ヒトに王位を譲って……後はそうだな。将来的には学校に通ってみたいが、まずは南方で調べ物がしたい。知っておきたいことがあるんだ」
「調べ物はともかく学校など……。髪を染めてほとぼりの覚めた頃にガルグ=マクの士官学校にでも入るか?」
「いや、フェルディアかアンヴァルかデアドラに行く。皆の墓ならまだ残っているだろうしな」
 ベレトが百年前に救えなかった若者たちの出身地を澱みなく挙げるのを聞いて、セテスは眉間にしわを寄せた。
「王の候補者はいるのか?」
「フレンが起きるまでに探すさ。これはフレン言うところの〝長期的な計画〟だからな。寂しいかい?」
 フレンを怒らせたのでセテスも自分を怒るだろう。ベレトは内心で身構えたが、その予想は外れた。ヒトを何千年も導いた経験のある存在は、ベレトの想像より遥かに懐が深い。
「だが育てた子供が親に反抗し、親を拒絶して出て行かねば大人にしてやれたとは言えない」
 フレンは戦傷が理由でもう、そういう大人にはなれないのだ───ベレトは悟った。だから彼は娘の全てを管理したがる。
「年の功、だな」
「ああ、一気に老いた気分だ。もう一杯だけいただこう」
 ベレトは大司教レアにより創り出され、ジェラルド・アイスナーによりヒトとして育てられている。レアが弱ってしまった後、眷族としての教育はセテスから受けた。だからベレトは彼を今では親のようなものだと思っている。
 そのセテスに自分の希望は伝えた。自分の心臓に入っている紋章石がいつまで保つのか、実際には全く分からない。だが、仮に今すぐ死んだとしてもあまり悔いはない、とベレトはそう思った。

2.
───
一三五〇年
 海の中は神祖の恵みに満ち溢れていた。

 息を吹き込まれた赤い土は広がり続けやがて海の底にある赤くかがやき溶けた金属があふれる泡だらけの裂け目へと至った。

 海の底があまりに熱かったので赤い土は泡の中に隠れた。
───
 統一王と呼ばれたベレトは長い治世の終盤で六大貴族の力を借り、様々なものを聖なる教会から俗世間に取り戻した。六大貴族なくしては彼の改革はひとつもなし得なかっただろう、と言われている。騎士と貴族の叙任権はセイロス教会が握っているが、セイロス教会の土地や財産などの世俗的な権利を守護し、与えるのはフォドラ統一国の国王だった。

 旧アドラステア帝国の首都アンヴァルはセイロス教の聖地として名高い。そのアンヴァルで黒髪に緑の目をした青年が焼き菓子を頬張っていた。親方に頼まれて仕上げた蹄鉄をアンヴァル駐屯部隊の厩舎に納めてきた帰りなので、少しだけ自由時間がある。
 彼が腰掛けているのは、名高きミッテルフランク歌劇団の本拠地である大劇場に至る長い長い階段だ。ミッテルフランク歌劇団と六大貴族アールノルト家の関係は深く長い。初代当主ドロテアが歌劇団に所属していたことから始まったため、アールノルト家は政治や軍事には関わらず芸術関係の道を歩むものも多い。劇場の支配人室には初代当主を称えるため、歌姫だった頃の彼女ではなく晩年の老いてもなお、強く美しかったドロテアの肖像画が飾られている。
 ベレトは染めた黒髪をかきあげた。最初の百年間は伸びなかった髪の毛が長い時間をかけ少しずつ伸びてきている。自分では分からないが根元が少し緑に戻ってしまっているようだ。時の流れがベレトの肉体をどう始末するのか、百五十年たった今も分からない。
「マヌエラ先生御用達に間違いはないな」
 ベレトは百五十年前の同僚の名を久しぶりに声に乗せた。彼女を直接知るものはこの場に自分しかいない。ミッテルフランク歌劇団の人気歌姫だったマヌエラは劇場周りの名店にも詳しく、アンヴァルに視察に行くならと言って色々教えてくれた。そのうちのひとつがこの店の焼き菓子で、天寿を全うしたマヌエラ亡き今も、昔と変わらぬ味を伝えている。ベレトの死後もこの店なら続くのかもしれない。この焼き菓子からはそんな頼もしさを感じる。
 セイロス教会の鐘が鳴り響き、午後一時であることを街中に知らせた。この時間に市役所の壁に貼られている官報や引き札が最新のものに交換される。それらを確かめるため、ベレトは膝に落ちた食べかすを払って立ち上がった。
 この街でかつて激しい戦闘があったことを直接、知る者はこの世にもうベレト、セテス、フレンの三人しか存在しない。美しく整然と敷き詰められた石畳の隙間をなぞるように流れていった血の跡は消え去った。しかしベレトの脳裏にはあの赤がまだ残っている。もう少し時が経ち、セテスとフレンが名を変えた時にでも思い出話をしたい。だが、彼らにいつどうやって連絡を取るかベレトはまだ考えていなかった。
 ベレトは髪の根元が目立たないようにフードをかぶり直し、市役所へと向かった。市役所の壁の前には人だかりができている。日を追うごとに官報や引き札の情報量は増えていった。平和な世では、戦争にすり潰されていた物資や人材が一斉に建設的なことへ振り分けられる。そうして戦争では役に立たないと思われていた分野が伸びていくのだ。
 官報や引き札で埋め尽くされた自由闊達な市役所の壁面はヒトの活動を可視化したものだ。もっと遠くへ、もっと早く、もっと沢山という欲求を傲慢と感じるか切なる願いと感じるか。立場の違いで解釈も異なるだろう。

 デアドラからアンヴァルに戻った商人による引き札には何を売り、何を仕入れてきたのかが書いてある。細密画の大量印刷に耐える銅板での印刷が流行っているせいか、デアドラで仕入れた異国の品物が目立つよう絵にしてあった。
 フェルディアからやってきた商人は毛皮製品を売りたいらしいが、加工前の毛皮もあるのでそれは仕立て屋に優先して売りたいと書いている。
 官報には最近、アンヴァル郊外で鳥型の魔獣が多く発生しているので、〝見かけた場合は近寄らず最寄りのセイロス教会へ連絡せよ〟と書いてある。ベレトにしてみれば報奨金を得る良い機会だ。ついでにミスリルがいくつか手に入ればもっといい。今、世話になっているアンヴァルの鍛冶屋の親方への良い置き土産となるだろう。気の良い親方で今日も納入したらその後は少しなら好きにして構わない、と言ってくれた。
 ベレトは死を装って退位した後に半世紀ほど土地を転々として様々な鍛冶屋で働いてみた。鍛冶屋と言ってもどんな土地で商売をしているかによって作る物が全く違う。兵舎のある土地や武具を揃えねばならない貴族のいる土地では武器や防具を作り、農地のある田舎では鍬や鋤を作る。田舎でも都会でも馬や天馬のための蹄鉄は絶対に必要だ。体力的にも辛い仕事なので常に人手を必要としている。
 顧客として出入していた時には気にすることすらなかったが、鍛冶屋の中では危険で暑くて辛い鍛冶場で働くしかないものたちがたくさん働いていた。立場の弱い彼らは体に不具があっても分担して仕事にあたる。一人で全てを完遂しようとすれば高い技術力を必要とされる仕事であっても、細かく工程を分けて協力しあえばどんな非力で未熟な者でも成し遂げられるのだ。
 今の職場で働いて十年くらい経つ。そろそろ滞在先と仕事を変えるつもりだが、鍛冶屋はベレトに大きな気づきを与えてくれた仕事だった。感謝しても感謝しきれない。
 先の大戦後、あの時一体何が起きていたのか知るためにセイロス教会はアガルタの民が遺したものを詳しく調べた。仕組みはともかく動機が殆ど理解できないものが多く回収されている。例えばリンハルトが感心していた小さな金属の発射装置だ。火計でも使う火薬を小さな金属の球を弾き飛ばすために使う。弓か魔法を使えばいいだけのことなのに何故あんな精巧な装置を作ったのか。
 大戦後、すぐにはアガルタの民を全く理解できなかった。しかし紋章や魔法と関係ない職に就き、日々それまで習得したことのない技術を学んでいくうちにアガルタの民が何を重視していたのか、ベレトは初めて理解できたような気がした。
 彼らは再現性を何よりも重じていたのだ。弓を引く強い腕を持たないものでも魔法の術式を理解しないものでも遠くの敵を攻撃できる。条件さえ整えば。

 紋章の力で実行できることの代替手段としては紋章学の父と呼ばれたハンネマンが開発した魔道具がある。しかしアガルタの民が目指していたものは魔法すら必要としない。彼らは魔法術式の代わりにフォドラの民が全く知らない思考法のようなものに基づき、全てを表現していた。
 それ、を何と呼ぶのかベレトは知らない。リンハルトとハンネマンが生きていたら一緒に考えてくれただろう。
 とりあえず官報で絶対に行くな、と書かれていた方角を目指してベレトは歩み始めた。自分が打った剣を使って、独りで魔獣を狩ると次に打つ時にどのようなものにするか考えがまとまり、地域社会への貢献が出来た上に金を稼げる。一石三鳥だ。
 次はフェルディアの魔道学院で学ぶつもりのベレトにとってたまに出没する魔獣は開けるのに少し手間のかかる貯金箱のような存在と言える。

───
一三七〇年
 やがて神祖の恵みは海の中だけでなく陸地にも至った。

 地に満ちた恵みによりありとあらゆる植物が生まれた。

 泡と共にあった赤い土は神祖の恵みを求めて陸地へ向かうことにした。
───
 ベレトは予定通り旧ファーガス神聖王国の首都フェルディアに来ていた。今まで滞在していたアンヴァルより遥か北にあるせいか、やたらと肌寒く感じる。ローブの上から襟巻きを巻いていると地元民からそんな有様では真冬はどうするのか、と揶揄われる。その度に冬が来る前に凍死しないように巻いてるんだよ、と言い返した。

 ベレトには魔道学院でやりたいことがいくつかある。鍛冶屋時代、余暇に魔獣退治をして蓄えた報奨金に加えて貯め込んだ素材を全て売り払い、魔道学院の入学金を作った。潜り込めさえすればなんとでもなる。学費や生活費が足りなくなったら、今度は魔法縛りでフェルディア近辺の魔獣を狩るつもりだった。地域社会へ貢献し報奨金が得られ、学んだことの実践ができる。
 かつての教え子であるコンスタンツェ、メルセデス、アネット、ローレンツの後輩となるのは不思議な気持ちだった。毎日ローブを着て、紋章がないふりをしながら術式を模写し、魔道書を読んでいる。魔道学院の教育方針は実学一辺倒の士官学校と違って、理論と基本が最重要とされているからだ。
 ベレトが鍛冶屋をしていた頃にタタラ場で使って、便利だったのはファイアーとウインドだった。鋼にもう少し熱量を与えたい時にファイアーとウインドで後押しする。狭い空間で発動させても誰も怪我をしないように効果範囲を極小にするのがコツだ。結構便利に使っていたのだが自己流にも程がある、危険すぎる、と教授たちからの評価は散々だった。
 それでも鍛冶屋でついた妙な癖を直せ、と教授たちから言われなくなる日はやってくる。そしてようやくベレトは学院の資料室へ入ることを許された。珍しくはしゃぐ学生の姿を見て、教授達は魔導書を読めることを喜んでいると誤解していたがそうではない。真実を伝える必要もないので特に訂正はしなかった。ベレトは過去、魔道学院に在籍していた生徒に関する資料に目を通すためここに潜り込んでいる。
 魔道学院での生活は人体をより一層魔道になじませ体内の魔力を高めると言う目的がある。そのため前期課程では士官学校より堅苦しい生活を強いられた。まるで修行僧のような暮らしだが、精神性を高めるにはそれが最も早いのも確かなので学生たちは皆、大人しく従っている。
 瞑想する時間はあれど自由時間はあまりない。飲食物は肉体と精神が繋がっているため、完全に指導教官に管理される。そんな生活を送っていたかつての教え子たちの様子が知りたかった。
 カスパルやリンハルトのようにはじめての団体生活が士官学校だった生徒は士官学校の生活が堅苦しい、とこぼしていたがメルセデスたちからすればガルグ=マクの暮らしは気楽だったろう。制服が着崩せて台所が使える。食事の選択肢が豊富で許可さえ取れば外出もできた。
 資料室の窓を開け、ウインドを慎重に使って本の埃を外に排出する。くしゃみで本を汚さないためだ。紐で綴ってある生徒名簿の束を取り出して閲覧台に乗せる。ベレトは魔道学院での彼らの担任教師が残した記録をめくって見知った名前を探していった。

 コンスタンツェ
 豊かな発想と魔道への情熱と不屈の精神を持つ。能力に不安はないが、弱点になりうるほどのヌーヴェル家復興への焦りには注意が必要。しかしこの焦りが不屈の精神の源でもある。指導の際には精神状態を見極めなくてはならない。
 ローレンツ
 テュルソスの杖と相性が良すぎるため、肉体を守らねばならない。早急に自他の境界線を強固にする必要があり、本人が理解しやすい伯爵家嫡男としての自我に注目をさせた。しかしそのせいで身分という分かり易い殻に篭る傾向がある。成熟した大人になるにはそこからの解放が必要。
 メルセデス
 諦めた結果得られる物があるという強かさを身につけていることが素晴らしい。しかし複雑な家庭環境故に植え付けられたの無力感にどう抗うのか、その方法を彼女自身で確立し選び取る意志の強さが必要。
 アネット
 明るく振る舞っているが父親の失踪が無意識下で精神に影響を及ぼし、術式発動の速さに問題が生じている。本人の努力ではどうしようもない領域なので時が経ち衝撃が収まるまでは命中率を高めるように指導。

 ベレトと出会う前の生徒たちの姿が脳裏に浮かぶ。この記録を作った魔道学院の教師はヌーヴェル家の復興を見届けてくれただろうか。ローレンツは理由があってあのような態度だったのだ、とわかって微笑ましい。あの振る舞いで自分を守っていたのだろう。フェルディナントによるとその後かなり柔軟な思考をするようになったらしい。だが最後まで伯爵家嫡子としての責務に忠実で、その誠実さ故に戦死した。
 メルセデスと死神騎士について、ベレトはヒューベルトが残していた記録で知った。メルセデスはグロンダーズで戦場で弟を探していた可能性が高く、その後は消息不明となっている。ヒューベルトは目標への最短距離を取りたい面ばかりが目立ったが、利害の絡まない無関係な場では善良な青年だった。マルトリッツ家の姉弟についてもヒューベルトは当然、同情的だった。行きすぎた紋章主義と血統主義に批判的な彼の気持ちはベレトにも痛いほど理解出来る。父ジェラルドのことがなければエーデルガルトの手を取ったかもしれない。
 アネットもダスカーの悲劇がなければ父親が失踪することもなく、落ち着いてフェルディアで魔道が極められただろう。その場合ベレトの教え子にはならないが。
 記録の中の教え子たちは皆、ガルグ=マクにいた頃より更に幼かった。だがこの時点で大人の事情や家庭の事情に振り回されている。当時の教師たちが持つ、生徒たちへの真摯な思いと歯痒さと社会情勢への苛立ちが伝わる記録だった。
 こんな記録を今、読んだところで取り返しはつかない。戦後すぐであろうと、コンスタンツェとフェルディナントを失って久しい現在であろうと変わらない。だが戦後すぐにこの資料を読んでいたら───感情が昂ったベレトはメルセデスと仲の良かったコンスタンツェ、それにローレンツと仲の良かったフェルディナントに話さずにいられなかっただろう。二人ともまた喪失感に苦しむことになったはずだ。だから今で良かったのかもしれない。
 ベレトは室内が無人かどうかも確かめず、資料を目の前に開いたまま閲覧台に肘をついた。熱くなった瞼を押さえ、声を押し殺したが涙が止まらない。落ち着くまでかなりの時間を必要としたが、なんとか持ち直た。涙を古い紙の上にこぼすわけにはいかない。人差し指の第二関節で目を擦ると緑色の睫毛がついた。どうやらかなり強い力で目を擦ってしまったらしい。
 無意識に親指で人差し指をさすった際、抜け落ちた睫毛が名簿の喉部分に挟まったが、ベレトはそれに気づかないまま名簿をそっと閉じた。
 夜、ベレトが学生寮に戻ると同級生にそっと肩を叩かれた。彼は魔力を高めるため数日間無言の行に取り組んでいる最中なので、聞くことはできるが話すことができない。橙色の髪をした同級生は自分の青い眼と鼻を指差した後に首を傾げてベレトの目元に触れた。どうやら目の腫れが引いておらず、泣いていたのが丸わかりらしい。精神の乱れは魔力の乱れと言われるので心配してくれたのだろう。
「大丈夫だよギュスタヴ」
 そう言って親切な隣室の住人の肩を叩いて自室に戻った。寝台に横たわり、眠りかけた瞬間ベレトはとあることに気付いて軽く叫び声を上げた。
 まさかそんな。
 だが今日見た資料によるとアネットの父親の名はギュスタヴだった。

3.
───
一三八〇年
・培養した微生物に鉛、硫黄、鉄の粉末を与えると細胞内の赤い粒が増加。磁鉄鉱と思われる

・磁鉄鉱によるマグネトソームが形成されている───
 過ぎ去ってしまえば全ては一瞬のことだ。寝ぼけ眼のフレンが目覚めると世間はいつものように様変わりしていた。寝室に用意されていた古風な服を身につけ、控えていた修道女に礼を言う。老いた修道女は言い伝え通りの現象が起きた感動を年の功で隠していたが、喜びにほおを染めていた。空腹を覚えたので軽食と飲み物も用意してもらう。こういった素朴な人々をレアは愛していた。
 フレンは一二九〇年ごろに眠りについた。今は何年なのかと壁に貼ってある暦に目をやる。一三八〇年と書いてあった。それなのにアドラステア帝国成立以前のように節ではなく月、と書いてある。古びた修道院といえども、いくらなんでも懐古主義が過ぎるとフレンは思った。
「何がありましたか?」
「ベレト王は若々しい見た目の長命な方でしたが大改革の後、命数を使い果たすかのようにお亡くなりになりました」
「まあ、ベレト先生が…」
 ベレトは本当に死亡したのだろうか。それともフレンたちが定期的に名前を変えるように死亡を装って王を辞めたのだろうか。今のフレンには判断材料がない。自然死ならば眷族としては驚くほどの早死にだが、心臓を持たないヒトの身体に紋章石を埋め込んだ歪な肉体の平均的な寿命は何年くらいなのか?それもフレンには分からない。
 先生、というフレンの呼びかけを聞いて老婆は驚いたようにぴくりと眉を動かしたが、口調に変化はなかった。
「王には血で繋いだ後継者がいらっしゃらなかったので大戦の頃、王と共に戦ったヘヴリング家、ベルグリーズ家、エーギル家、アールノルト家、ヴァーリ家、ヌーヴェル家、の中から代表を出し政は彼ら六大貴族による合議制で行われています」
 ペトラは戦後、ブリギッドの女王になるため帰国してしまったのでその中に入っていない。フォドラとブリギッドの友好条約はカスパルがフォドラ側の責任者となって締結されている。それは統一王国にとって最初の外交交渉で、フレンが眠りについた時期においてはブリギッドがフォドラの一番の友好国だった。
「まあ。まるでかつてのレスター諸侯同盟のようですわ。代表はどなたが?」
「執政官はエーギル家のフェルディナント三世様です。残されたフェルディナント一世の肖像画に生き写しのお顔をしていらっしゃいます」
 橙色の髪の一世とその孫くらいまではフレンの記憶にも残っている。一世は明朗快活を絵に描いたような人物だったが、息子と娘の名付けには正直驚かされた。

 ヒューベルトとエーデルガルトと名付けたのだ。

 かなり物議を醸し出したがその名を聞いてもベレトは一切、動じなかった。運命が切り開けるように、君らの功績をもってその名が纏うものが上書きされるように、と言って二人へそれぞれ銘の入った短剣を贈っている。後にそれはファーガス神聖王国の風習だ、とフレンは聞いた。救えなかったディミトリのことが念頭にあったのかもしれない。
 ベレトは結婚して仮に心臓の動かない子が出来た場合は必ず、母シトリーがしてくれたように自分の紋章石を子供に譲ると明言していた。そして戦争で傷ついたフォドラをまとめあげられる者は彼以外に存在しなかった。
 安定を求めた社会に応えた彼はどうやら家庭は持たずに生涯を終えたらしい。その代わりベレトは臣下の子供たちをとてもかわいがった。しかしフレンの知る限り、彼があのような贈り物をしたのはエーギル家のあの二人だけだ。フェルディナントとベレトの願い通りエーギル家の子供たちは統一王国の礎となったらしい。修道女がいう通りならば今もその状態は続いている。
 現在の執政官がヒューベルトかエーデルガルトの直系の子孫ならば、あの剣は受け継いでいるのだろうか?そしてフレンの記憶が確かならばヒューベルトは自分のような苦労をさせたくない、と言って息子にはフェルディナント二世と名付けた筈だ。
 眠りにつく前の記憶を手繰っていると下働きの者から軽食と飲み物を持ってきた、と声を、かけられた。何年振りの咀嚼と嚥下だろうか。白湯と細かく刻んだ季節の果物がフレンの身体に染み込んでいく。
「代表選出の際に三世が配った引き札には自分だけでなく、先祖の功績をまとめフェルディナント一世の肖像画を載せてありました。斬新な行いが騎士たちの間で評判を呼んだようでございます」
「引き札?騎士?どういうことですの?」
 フレンには騎士に引き札を配ると元首になる仕組みがよく分からない。
「セイロス教会から叙任された騎士たち全員が入れ札を行って、六大貴族の代表が決まります。騎士たちは候補者の功績を考慮して誰に札を入れるのかを決めます」
 騎士の叙任権を独占できているならば、この時代もセイロス教会の権威は保たれているのだろう。
「驚きました…」
「他にも何か気になることがございましたらこの修道院にもささやかな書庫がありますので、お父上の到着までどうぞお使いください」
 修道女は一礼すると空いた皿を下げるため、フレンの寝室から退室した。今回は眠った後に連れてこられたのでガルグ=マクからここまでどれくらいかかるのかフレンは知らない。少し肌寒く感じるのでガルグ=マクより北方なのかもしれない。
 フレンが書庫に入ると埃っぽい書庫特有の匂いがした。稀覯書は閉架にある、と壁に表示されている。一世紀近く経っているなら起きていた頃、親しんでいた本は全て稀覯書扱いになっているはずだ。
 そう思っていたのに書棚を眺めてみると見覚えのある題名がいくつも目に入ってくる。ガラテア家のイングリットやロナート公の養子アッシュも好んで読んでいた本だがあからさまに版が違う。手に取ってみると裏表紙に値段が書いてあった。まずそれが信じられない。フレンが眠りにつく前と比べて書物の価格は五十分の一程度になっているようだった。かつて肉筆の写本は一冊で家一軒分の価値があったし、木版印刷の本もとても高価なものだった。
 フレンが身を隠せるような田舎の修道院にこれだけの書物があることが信じがたい。書物の値段が下がった証拠といえるだろう。しかも書庫の存在を教えてくれた修道女はささやかな、と表現したのだ。眠りにつく前のフレンの常識で言えばこの蔵書量はささやかではない。
 どうやら眠りについている間に印刷と製本で技術革新があったようだ。大改革、のうちのひとつだろう。フォドラの現生人類が闇に蠢く者たちと同じ道を歩み始めているのではないか、とフレンは恐ろしくなった。そして書棚のある一点に彼女の緑の目は釘付けになった。背表紙を眺めただけで動悸がおかしくなる。自然と目から涙が溢れた。
 書物の価格は妥協できるとしてこれは本当に問題がある。セイロス教会は秩序を担う役割を失ってしまったのだろうか。
「レア様がご存命ならこんなこと許されませんわ。お父様、お気づきにならなかったの?」
 ベレトも亡くこの流れを止める力をセテスが失ってしまった、というのならば今までのように体の不調に甘えてはいられない。かつてベレトが言ったように滅びていく種族だとしても、長きに渡りヒトを導いてきた種族の最後の生き残りとして、フレンにも出来ることがある。
 まずフレンはこの修道院の書庫にある信仰魔法の専門書と医学書のうち、読んだことのないものを手に取るところから始めた。

───
・微生物の培養に成功

・空気中では細胞膜が白色に変化。水中に戻すと透明に戻り中に赤い粒が確認できた
───
 フレンが目覚めたという連絡をうけ、セテスはベレトが首都と定めたガルグ=マクから娘の元へ向かった。眠ってしまった娘を運ぶ必要がなければ飛竜に乗って向かうのが一番早い。帰りにフレンを乗せるため、二人乗り用の鞍をつけられた飛竜は違和感を訴えるように鳴いたがなんとか宥めた。この飛竜はフレンを知る程に老いた個体なので、後でたっぷり労ってやらねばならない。
 眼下に見える、首都として拡張されていったガルグ=マクは上昇するにつれてどんどん小さくなっていった。手綱を片手で器用にさばきながらセテスは外套の襟を上げて鼻を隠す。冷たい外気を体に取り込まないためだ。
 空から街道を眺めると百年に及んだベレトの治世で道幅が広くなったことがわかる。以前は都市と都市を繋ぐ街道も道幅を広げないように教団の教えで規制していたが、ベレトはそれを自由化してしまった。
 大戦後、レアは大司教の座を辞してカトリーヌを伴い赤き谷に居を構えた。彼女は基本、世情のことは知らぬよう関わらぬように療養生活を送っていたが、それでも耳に入ってしまうことがある。
 道路の幅に関してもそうだった。ベレトは事情を知らないもの特有の大胆さで、心配するレアを〝強い意志を持って攻めてこようという敵は道幅が狭くても広くても気にしないから大丈夫〟という突飛な物言いで慰めていた。当時の焼け野原のようなフォドラにガルグ=マクへ進攻するような勢力は存在しなかったし、手際良く物資を運べたおかげで復興はセテスの目から見ても手早く進んだ気がする。
 道幅の規制することによって物資の供給量を管理出すると各地方で人口を調整できる。学問に専従可能な人材の人数を一定以下に保つこと、学問に専従する人材をガルグ=マクとフェルディアの魔道学院に集中させて管理すること、という目的があったのだがそれもなし崩しになってしまった。
 上空の強い風でセテスの外套がはためく。飛竜で訪問する際の目印になる、と言われた森が目に入ったので手綱を取って高度を下げた。久しぶりの遠出はいつになく時の流れや社会情勢の変化をセテスに感じさせてくる。
 修道院の庭に降り立つと、セテスと飛竜に気付いた修道女が飛竜のために水の入った桶を持ってきてくれた。久しぶりに目覚めた娘が手を振りながら近づいてくる。あと何度こんな風に目覚めてくれるのだろうか。今回も無事に目覚めてくれたことにセテスは感謝した。
「おはようフレン」
「お父様!まあ!それにこの子!私覚えてますわ。また会えて嬉しいわ。あなた私のこと乗せてくださるの?」
 笑顔で父親を抱きしめ、顔馴染みの飛竜を撫でたフレンだが図書館で見た本のことが忘れられない。早く自分が寝ている間に何があったのか話し合いをせねば、と焦ってしまう。
 セテスとフレンが出発前に修道女たちにお礼を言うと皆、口々に女神の奇跡に触れられた私どもの方がお礼をしたいくらいだ、と言った。この修道院の修道女たちがフレンの眠りを守っていた百年弱の間に付けた記録が後世において〝白きもの〟の存在を証明する一端を担うのだが、それは数世紀後の話になる。
 本来の姿を失い、自力で空を飛ぶ力を失った親子は飛竜にまたがると彼らに向けて手を振る修道女たちに手を振り返した。セテスことキッホルは娘にしっかりつかまるように言うと、手綱を操り飛竜をガルグ=マクの方へ向けて羽ばたかせた。フレンことセスリーンが何か話しかけてくるのだが、上空は風が強く声をうまく拾うことができない。ガルグ=マクに戻ってから改めて聞く、と言うとセテスはある方角を指さした。
 フレンがそちらを見ると自分が百年近く眠っていた修道院があった。後日改めて礼を言いに行かねばと思う。その時はきちんとペガサスに乗って自分一人で訪問したい。陸路で三日かかろうとも空路であればひとっ飛びだ。懐かしいガルグ=マク修道院を目にしたフレンは降下に備え、振り落とされないように父の背中にしがみついた。

 二百年前は門前町でしかなかったガルグ=マクの街並みは更に発展し、大陸全土の首都に相応しいものとなっている。ベレト王と六大貴族による最初の改革は遷都だった。百年前、政治の中心はガルグ=マク、南方貿易の中心はアンヴァル、東方貿易の中心はデアドラが担っていた。しかしその一方でフェルディアは北方貿易で栄えることが出来ず、それ故にファーガスの辺境がフレンが眠りにつく場所として選ばれた。
 年老いた飛竜はああ疲れた、と言わんばかりにどさり、と音を立て勝手知ったるガルグ=マク修道院の竜舎前に着陸した。セテスの顔見知りであろう厩務員が二人の姿を認めて、踏み台を持って近寄ってくる。気遣いが不本意だったフレンは自分で降りられる、と言わんばかりにさっさと飛び降りてしまった。娘が使わないのなら自分も要らないとばかりにセテスも飛竜から飛び降りた。大人気ない二人の姿を見て厩務員がお若いことで!とからかってくる。
 揃いの紺の外套を身につけた親子は修道院の敷地内にあるセテスの居室へと向かった。フレンが長い眠りから目覚めると、いつも父から社会情勢や現在の立場についてすぐ説明される。いつもは聞く一方だが今回はフレンにも話したいことがあった。
「ベレトは百年ほど前に死を装って王をやめ、やりたいことがあると言ってここを出て行った。何かあれば連絡が来るはずだ。今は先の大戦で活躍した六大貴族の子孫が交代で統一国家の執政官を勤めている」
「その話は修道院の方から教えていただきました。騎士たちの入れ札の件も。それよりお父様、百科事典についてお聞かせくださいな」
 現生人類がアガルタの民のように科学を進歩させることを望まなかった眷属とセイロス教会は細心の注意を払っていた。植物や鉱物は悪用されないように百科事典は分野別に編纂され、大項目と小項目を教会が指定した物しか印刷や製本が出来ないようにしていた。セイロス教の秩序がなんであるのか、を体現したものが百科事典だったのだ。ところが今流通しているものは正に機械的に綴り順に項目を並べ、各項目間の相互参照も可能になっている。教会の検閲なしに印刷を可能にしたのもベレトの改革の一つだったらしい。
「先生はレア様がお嫌いだったのかしら」
 一世紀ぶりに父が入れた紅茶を口にしたフレンが嘆く。レアが存命の頃から教会の検閲なしに本を作ること自体は可能だった。しかし検閲を通していない本は印刷を拒否され、肉筆で作るしかない。経費が高すぎて検閲なしの本は広く読まれることがなかった。
「もしそうならあの時エーデルガルトを守っただろう」
「でも自由に考えさせた結果、闇に蠢くものたちが今のヒトから生じたらと思うと私…」
「ベレトはレアから株分けされた野菜ではないから違いが生じても仕方がない」
 眷族とベレトは体験してしてきたことも違う。彼の教え子とその子供たちは死ぬまで彼に忠実で、ジェラルドの亡骸は冒涜されることはなかった。
「お父様、今後どうなさるおつもりですの?」
「私はお前と違ってレアとベレトの考えが違うことを問題視しようとは思わない。ベレトのやることにも基本的には賛成してきた。だがアガルタの民のような集団が生じた時のために出来ることはいくつかあるのも確かだ」
 翌週、修道院の中である勉強会が始まった。信仰魔法とセイロス教による秩序、つまり法学を研究する勉強会だった。畳む