「crossing」3.
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
未来の自分はローレンツの部屋に戻ると丸机に小さな籠を置いた。籠の中には小さな葡萄酒の瓶、麺麭、干し肉と干し葡萄が入っている。セテスかレアに命じられた誰かが持ってきてくれたらしい。彼が先程クロードが座っていた場所に腰を下ろし、黙々と籠の中身を食べているのでローレンツは給茶器からお茶を汲んでやった。自分が喉の渇きを癒すためだけの気楽なものだ。飲みやすい濃さになるようお湯で薄めて飲む。
「僕のクロードと何か実りがある話し合いは出来たのでしょうか?」
「口止め料を少々」
先程ローレンツが未来のクロードには飲ませなかった気軽な紅茶を飲むと未来の自分はとんでもないことを口にした。クロードの好奇心を押さえこめるような何かを身ひとつで、この時代にやってきたであろう未来の自分が持っているとはローレンツには考えられない。
「彼が多少の金子で動くとも思えないのですが」
見当違いであると分かった上でそういうと過去の自分に情報を与えない為、ずっと無表情を貫いていた未来のローレンツが微かに口の端を上げた。ではクロードにはこの先、未来で何が起きるのか教えたというのだろうか?過去の自分には黙秘を貫いているというのに。
ローレンツは自分の言葉に自分で動揺してしまった。眉間に思わず深い皺が寄ってしまう。確かに未来のクロードは信用に足る人物ではあった。今のクロードと違って優秀さが鼻につかない。人を馬鹿にするようなところを表に出さなくなった───そんな印象を受けた。先程の茶会でも話を聞くふりではなくきちんと話を聞いていたように感じる。だが現在のクロードは斜に構えているのが丸わかりだ。きっと彼の目に適わないと判断されれば、ローレンツですら切り捨てられる。
「僕相手だから良いものの外で他人の目があるときにそんな顔をしてはいけない」
「ですがレア様の指示は元の時代に戻るためのものでしょう?それは貴方も理解している筈だ」
「そこは色々とやりようがあるのだ。今の君にはまだ想像もつかないだろうが」
菫青石のような瞳が真っ直ぐ自分を見つめた。自分にもし兄がいたらこんな感じなのだろうか。諭すようにそう言い聞かされると退くしかなかった。未来の自分は籠の中身をきっかり半分残し、手持ちの手巾で麺麭や干し肉を包んでいる。おそらく明日も食糧の差し入れはあるはずだが不測の事態に備えているのだ。
「明日の分ですか?」
未来のローレンツは黙って頷くと床に敷布を敷いた。この堅牢な修道院を襲撃する者がいるとも思えないが、それでも万が一のことに備える心構えは素晴らしい。先のことを一切伝えてはならない、という縛りが彼になければきっと興味深い話が聞けたかもしれないと思うと些か残念だった。
「僕が床でも構いませんが」
「いや、今日のところはこれで構わない。数日続くようなら貸してもらうかもしれないが」
未来からやってきたローレンツは毛布に包まると壁を背にしてさっさと眠ってしまった。しかし今の自分と同じく手足が長いのではみ出てしまっている。身体を休めておくのも重要な仕事のひとつではあるがものの三秒で本気で眠りに落ちて、すうすうと寝息を立てている姿が年若いローレンツには信じがたい。確かにローレンツは野営の訓練の際にクロードから揶揄われるほど寝つきが良い方だが将来、これほどになるとは想像もしていなかった。
好奇心に負けてそっと未来の自分の顔を覗き込んでみれば特に無理をしている訳でもなさそうだった。きっと自領の本宅にある天蓋付きの寝台で寝る時と同じようにすやすやと寝ているのだろう。自分はどんな顔をして寝ているのか、知りたいような知りたくないような気がした。
翌朝、ローレンツはいつもの時間より少し早めに起きたがそれでも未来の自分に先を越され水差しの水を殆ど使われていたので丁度よかった。
「背丈は僕と変わらないようなので肌着や襯衣などは自由にお使いください。場所はもうご存じでしょう?」
そういうとローレンツは寝巻きから普段着に着替え顔だけ拭いた。彼も自分の寝顔を見たのかもしれない。
水を汲みに行くため扉を開けると籠が置かれていたので未来からやってきた自分に託し、学生共用の大きな水瓶まで身支度用の水を汲みに行った。この時間帯には珍しくクロードも起きて水差しを持参している。隣室もおそらく似たような展開を辿ったのだろう。
「おはようクロード。君が早起きになるとは本当に意外だよ」
「必要なら早起きもするさ。教室に行く前に渡したいものがあるから俺の部屋に来てくれるか?」
今日はもう朝の鍛錬を諦めたのでクロードの部屋に行くのも特に問題はない。このぼやかした言い回しから察するに、受け取るのはローレンツではない。基本、受け取るのは他者の目を避けるため、かつての自室に籠っている未来のローレンツだろう。ローレンツは首を縦に振った。食欲もあったしよく眠っているように見えた未来の自分だが、体調不良を隠しているのかもしれない。
ローレンツが新たに汲んできた水で身支度を整え、制服姿で隣室の扉を叩くと制服姿のクロードが片手に何かを握りしめたまま扉を開けた。白い手のひらだけ中に差し出すと小瓶をそっと握らされる。渡せばわかるのか、を問うとクロードは無言で頷いた。小瓶の中身もこの行為の意図もローレンツには見当もつかなかった。
「僕はこのまま講義に出ます。戻るまでこの部屋の中のものは何もかも自由に使ってくれて構いません。それと僕のクロードからこれを預かりました」
クロードから渡された小瓶を受け取ると未来の自分はローレンツの目の前で白い手の甲に小瓶の中身をほんの少し垂らし、中身を検分し始めた。毒物や薬学に詳しいのはクロードの方だが、未来の自分も彼に意見が述べられる程度には詳しくなっているのかもしれない。自分たちにはどんな未来が待ち受けているのか見当もつかないが、その未来に備えて今のローレンツが出来ることは真面目に講義を受け、鍛錬を続けることくらいしかなかった。
「もう少し粘り気がある方が良い、と君のクロードに伝えてくれたまえ」
早めに着いた教室は人が疎らだったが、用心して言われた通りのことをクロードの耳元で囁いた。未来の自分が何を伝えんとしているのかローレンツには全く分からない。だがクロードは何故か耳まで真っ赤にして机に突っ伏してしまった。畳む
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
未来の自分はローレンツの部屋に戻ると丸机に小さな籠を置いた。籠の中には小さな葡萄酒の瓶、麺麭、干し肉と干し葡萄が入っている。セテスかレアに命じられた誰かが持ってきてくれたらしい。彼が先程クロードが座っていた場所に腰を下ろし、黙々と籠の中身を食べているのでローレンツは給茶器からお茶を汲んでやった。自分が喉の渇きを癒すためだけの気楽なものだ。飲みやすい濃さになるようお湯で薄めて飲む。
「僕のクロードと何か実りがある話し合いは出来たのでしょうか?」
「口止め料を少々」
先程ローレンツが未来のクロードには飲ませなかった気軽な紅茶を飲むと未来の自分はとんでもないことを口にした。クロードの好奇心を押さえこめるような何かを身ひとつで、この時代にやってきたであろう未来の自分が持っているとはローレンツには考えられない。
「彼が多少の金子で動くとも思えないのですが」
見当違いであると分かった上でそういうと過去の自分に情報を与えない為、ずっと無表情を貫いていた未来のローレンツが微かに口の端を上げた。ではクロードにはこの先、未来で何が起きるのか教えたというのだろうか?過去の自分には黙秘を貫いているというのに。
ローレンツは自分の言葉に自分で動揺してしまった。眉間に思わず深い皺が寄ってしまう。確かに未来のクロードは信用に足る人物ではあった。今のクロードと違って優秀さが鼻につかない。人を馬鹿にするようなところを表に出さなくなった───そんな印象を受けた。先程の茶会でも話を聞くふりではなくきちんと話を聞いていたように感じる。だが現在のクロードは斜に構えているのが丸わかりだ。きっと彼の目に適わないと判断されれば、ローレンツですら切り捨てられる。
「僕相手だから良いものの外で他人の目があるときにそんな顔をしてはいけない」
「ですがレア様の指示は元の時代に戻るためのものでしょう?それは貴方も理解している筈だ」
「そこは色々とやりようがあるのだ。今の君にはまだ想像もつかないだろうが」
菫青石のような瞳が真っ直ぐ自分を見つめた。自分にもし兄がいたらこんな感じなのだろうか。諭すようにそう言い聞かされると退くしかなかった。未来の自分は籠の中身をきっかり半分残し、手持ちの手巾で麺麭や干し肉を包んでいる。おそらく明日も食糧の差し入れはあるはずだが不測の事態に備えているのだ。
「明日の分ですか?」
未来のローレンツは黙って頷くと床に敷布を敷いた。この堅牢な修道院を襲撃する者がいるとも思えないが、それでも万が一のことに備える心構えは素晴らしい。先のことを一切伝えてはならない、という縛りが彼になければきっと興味深い話が聞けたかもしれないと思うと些か残念だった。
「僕が床でも構いませんが」
「いや、今日のところはこれで構わない。数日続くようなら貸してもらうかもしれないが」
未来からやってきたローレンツは毛布に包まると壁を背にしてさっさと眠ってしまった。しかし今の自分と同じく手足が長いのではみ出てしまっている。身体を休めておくのも重要な仕事のひとつではあるがものの三秒で本気で眠りに落ちて、すうすうと寝息を立てている姿が年若いローレンツには信じがたい。確かにローレンツは野営の訓練の際にクロードから揶揄われるほど寝つきが良い方だが将来、これほどになるとは想像もしていなかった。
好奇心に負けてそっと未来の自分の顔を覗き込んでみれば特に無理をしている訳でもなさそうだった。きっと自領の本宅にある天蓋付きの寝台で寝る時と同じようにすやすやと寝ているのだろう。自分はどんな顔をして寝ているのか、知りたいような知りたくないような気がした。
翌朝、ローレンツはいつもの時間より少し早めに起きたがそれでも未来の自分に先を越され水差しの水を殆ど使われていたので丁度よかった。
「背丈は僕と変わらないようなので肌着や襯衣などは自由にお使いください。場所はもうご存じでしょう?」
そういうとローレンツは寝巻きから普段着に着替え顔だけ拭いた。彼も自分の寝顔を見たのかもしれない。
水を汲みに行くため扉を開けると籠が置かれていたので未来からやってきた自分に託し、学生共用の大きな水瓶まで身支度用の水を汲みに行った。この時間帯には珍しくクロードも起きて水差しを持参している。隣室もおそらく似たような展開を辿ったのだろう。
「おはようクロード。君が早起きになるとは本当に意外だよ」
「必要なら早起きもするさ。教室に行く前に渡したいものがあるから俺の部屋に来てくれるか?」
今日はもう朝の鍛錬を諦めたのでクロードの部屋に行くのも特に問題はない。このぼやかした言い回しから察するに、受け取るのはローレンツではない。基本、受け取るのは他者の目を避けるため、かつての自室に籠っている未来のローレンツだろう。ローレンツは首を縦に振った。食欲もあったしよく眠っているように見えた未来の自分だが、体調不良を隠しているのかもしれない。
ローレンツが新たに汲んできた水で身支度を整え、制服姿で隣室の扉を叩くと制服姿のクロードが片手に何かを握りしめたまま扉を開けた。白い手のひらだけ中に差し出すと小瓶をそっと握らされる。渡せばわかるのか、を問うとクロードは無言で頷いた。小瓶の中身もこの行為の意図もローレンツには見当もつかなかった。
「僕はこのまま講義に出ます。戻るまでこの部屋の中のものは何もかも自由に使ってくれて構いません。それと僕のクロードからこれを預かりました」
クロードから渡された小瓶を受け取ると未来の自分はローレンツの目の前で白い手の甲に小瓶の中身をほんの少し垂らし、中身を検分し始めた。毒物や薬学に詳しいのはクロードの方だが、未来の自分も彼に意見が述べられる程度には詳しくなっているのかもしれない。自分たちにはどんな未来が待ち受けているのか見当もつかないが、その未来に備えて今のローレンツが出来ることは真面目に講義を受け、鍛錬を続けることくらいしかなかった。
「もう少し粘り気がある方が良い、と君のクロードに伝えてくれたまえ」
早めに着いた教室は人が疎らだったが、用心して言われた通りのことをクロードの耳元で囁いた。未来の自分が何を伝えんとしているのかローレンツには全く分からない。だがクロードは何故か耳まで真っ赤にして机に突っ伏してしまった。畳む
「crossing」4.
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
扉の隙間からそっと紙が差し込まれた。これまで聞こえてきた物音から察するに学生たちは皆、寮から出払っている。しかしそれでも念には念を入れて廊下に極力出ない方が良いだろうに、クロードは何をやっているのだろうか。腕を伸ばして拾い上げてみればそこにはクロードからの伝言が書かれていた。きっとローレンツが昨日黙っていろ、と怒ったからこんな手段を選んだのだろう。
《もう少し自分にも優しくしてやれ》
口の中で小さくファイアーの呪文を唱え、白い手のひらに乗せた紙を燃やす。如何にも、昔のローレンツにすっかり情が移っているクロードが言いそうなことだった。分かっていたことだが若い頃の自分はとにかく堅い。コナン塔で見たもののせいでもあるが一線を越え、自分が自分でなくなることが何よりも恐ろしかったから、若い頃の自分はこの時期のクロードに遊びのような口付けと甘い言葉しか与えなかった。だが人間は望んだ人を相手に純潔を失った程度で個を失ったりはしない。クロードに身体を割り開かれた後も、良いと感じるものも悪いと感じるものも変化しなかった。閉ざされた扉が開いたせいで好きなものが増えたことは確かだが。しかし彼はそんな怖がりで頑なであったローレンツを本心から可愛い、と言う。
一方で若い、というか今のローレンツの目から見れば幼いクロードはとにかく魅力的だった。ローレンツの頬を撫でていた三つ編み、今と比べると少し華奢な身体、何と言っても頭の上から爪先まで舐めるようにローレンツを見ていたあの目付きが素晴らしい。あの目付きを昔は怖いと思っていたが、あれは自分を求める熱だ。あの熱を身体の内に受け入れることでしか味わえない快楽がある。
幼いクロード相手に先程のようなことをする必要があったかなかったか、で言えばする必要は全くない。同じく未来からやってきたクロードは今のお前が口付けのひとつでもくれてやって黙るように頼めばあっさり黙るだろう、としか言っていない。だがローレンツは幼い彼の熱を味わう望外の機会に恵まれてしまったのだ。
かつて人手不足の際に寝台の上でもう一人自分がいたらどうなるか、という益体のない話をクロードとしたことがある。その時のクロードはもう一人の自分と上手くやる自信がないと言い、ローレンツはきっと弟のように可愛がるだろう、と言っていたが実際は逆だった。自分であればこそ色々と粗が見えてしまう。ローレンツは勝手に取り出した新しい手巾で手についた灰を拭いた。年若い自分が暮らすこの部屋のどこに何があるのかなど当たり前だが手に取るようにわかる。ローレンツもこの部屋の主人だったからだ。
誰もいない空間で大あくびをするとローレンツは寝台の上に寝転がった。滲んだ涙を白い指の腹で拭う。元の時代に戻るための魔法陣が完成するまでの待ち時間は良い骨休めになりそうだった。敵襲も進軍も盗賊退治もない。枕はあったが頭の後ろで腕を組み、うとうとしていると扉の外から咳払いの音がした。自室の扉を外側にいる自分が叩くのもおかしな話ではあるから、中に人がいると分かっていても若い頃のローレンツは扉を叩けない。戻ってきた、と彼なりに工夫して知らせているのだろう。
本や書字板を小脇に抱えた制服姿の自分は寝台に寝そべったままのローレンツを見て目を丸くした。きっと咳払いで知らせたはずなのに何と不調法な、と思っている。
「野営よりはるかに楽だったがやはり腰が辛くてね、寝台で少し休ませてもらっているよ」
腰に負担がかかった理由は昨晩、床に寝転がっていたからではないのだがそれを若い自分が知る必要はない。何なら横たわって身体を休める必要すらなかった。
「それは……戻られてからすぐにまた身動きが取れるようにしておかねばなりません。僕はすぐに訓練場に戻りますのでどうかお寛ぎ下さい」
そういって過去の自分が開けた棚で、彼が何を取りに来たのかローレンツは察した。籠手だ。現在でも愛用している籠手は、この時点ではまだ人の血を吸っていない。好ましいと思っていた友人たちの亡骸を確認する日が来るとは夢にも思っていない若い自分に親切にしてやるとしたら……。
「近接戦闘の際にも籠手は役に立つ。素手で殴るより楽だからベレト先生から習うと良い」
「……未来ではそれほど追い詰められることがあるのですか?この僕が?」
騎馬職を目指している時期なので若い自分の疑問はもっともだった。将である自分が馬から降り、槍も魔法も使わず殴り合いをする羽目になるなど負け戦も同然なので想像したこともないはずだ。だが籠手をつけたまま相手を殴ると確実に怪我を負わせることができる。
「それと従士なしで籠手を外せるようになっておいた方が良い。それくらいクロードに振り回される」
手首を口に寄せるローレンツの姿を見て、胸元に籠手を抱えたままの若い自分の眉間に皺が寄った。口で紐を咥えるのが気に食わないのか、将来のクロードを貶されたような気がしたのか、はたまたその両方か。
「信じられません。少しだけお話しさせていただきましたが貴方のクロードがそんな頼りない方であるようには感じられませんでした」
頼り甲斐はあるのだ。だが三つ編みが可愛らしかった彼はとんでもない悪癖も身につける。戦で昂った心を落ち着けるために身体を重ねる際、クロードは勝手にどんどん他人の甲冑を外していく癖に籠手だけはわざと残す。クロードに怪我を負わせてしまうことを恐れたローレンツが動けなくなるよう、追い詰めてから身体を好き放題弄ぶことを好むようになるのだ。口や手だけならまだ良いのだが、伝書フクロウの羽まで持ち出すので助言してやっている。しかし怖がりで寝台の中の世界を知ろうとしない自分には通じない。
「訓練場に行かねばならない者相手に無駄口を叩いてしまったな」
「はい、クロードをしっかり支えられるように鍛錬を重ねることにします」
最後に発言すれば勝ちというわけでもないのに、若い自分は一方的に会話を打ち切り部屋を出ていった。優しくしてやれ、とクロードに頼まれたから将来、真に必要になることを教えてやったのに全く聞く耳を持っていない。きっとアリルの谷で未来の自分から言われたことを思い出すだろう。いや、思い出せないかもしれない。何せクロードに弄ばれると何も考えられなくなるのだから。畳む
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
扉の隙間からそっと紙が差し込まれた。これまで聞こえてきた物音から察するに学生たちは皆、寮から出払っている。しかしそれでも念には念を入れて廊下に極力出ない方が良いだろうに、クロードは何をやっているのだろうか。腕を伸ばして拾い上げてみればそこにはクロードからの伝言が書かれていた。きっとローレンツが昨日黙っていろ、と怒ったからこんな手段を選んだのだろう。
《もう少し自分にも優しくしてやれ》
口の中で小さくファイアーの呪文を唱え、白い手のひらに乗せた紙を燃やす。如何にも、昔のローレンツにすっかり情が移っているクロードが言いそうなことだった。分かっていたことだが若い頃の自分はとにかく堅い。コナン塔で見たもののせいでもあるが一線を越え、自分が自分でなくなることが何よりも恐ろしかったから、若い頃の自分はこの時期のクロードに遊びのような口付けと甘い言葉しか与えなかった。だが人間は望んだ人を相手に純潔を失った程度で個を失ったりはしない。クロードに身体を割り開かれた後も、良いと感じるものも悪いと感じるものも変化しなかった。閉ざされた扉が開いたせいで好きなものが増えたことは確かだが。しかし彼はそんな怖がりで頑なであったローレンツを本心から可愛い、と言う。
一方で若い、というか今のローレンツの目から見れば幼いクロードはとにかく魅力的だった。ローレンツの頬を撫でていた三つ編み、今と比べると少し華奢な身体、何と言っても頭の上から爪先まで舐めるようにローレンツを見ていたあの目付きが素晴らしい。あの目付きを昔は怖いと思っていたが、あれは自分を求める熱だ。あの熱を身体の内に受け入れることでしか味わえない快楽がある。
幼いクロード相手に先程のようなことをする必要があったかなかったか、で言えばする必要は全くない。同じく未来からやってきたクロードは今のお前が口付けのひとつでもくれてやって黙るように頼めばあっさり黙るだろう、としか言っていない。だがローレンツは幼い彼の熱を味わう望外の機会に恵まれてしまったのだ。
かつて人手不足の際に寝台の上でもう一人自分がいたらどうなるか、という益体のない話をクロードとしたことがある。その時のクロードはもう一人の自分と上手くやる自信がないと言い、ローレンツはきっと弟のように可愛がるだろう、と言っていたが実際は逆だった。自分であればこそ色々と粗が見えてしまう。ローレンツは勝手に取り出した新しい手巾で手についた灰を拭いた。年若い自分が暮らすこの部屋のどこに何があるのかなど当たり前だが手に取るようにわかる。ローレンツもこの部屋の主人だったからだ。
誰もいない空間で大あくびをするとローレンツは寝台の上に寝転がった。滲んだ涙を白い指の腹で拭う。元の時代に戻るための魔法陣が完成するまでの待ち時間は良い骨休めになりそうだった。敵襲も進軍も盗賊退治もない。枕はあったが頭の後ろで腕を組み、うとうとしていると扉の外から咳払いの音がした。自室の扉を外側にいる自分が叩くのもおかしな話ではあるから、中に人がいると分かっていても若い頃のローレンツは扉を叩けない。戻ってきた、と彼なりに工夫して知らせているのだろう。
本や書字板を小脇に抱えた制服姿の自分は寝台に寝そべったままのローレンツを見て目を丸くした。きっと咳払いで知らせたはずなのに何と不調法な、と思っている。
「野営よりはるかに楽だったがやはり腰が辛くてね、寝台で少し休ませてもらっているよ」
腰に負担がかかった理由は昨晩、床に寝転がっていたからではないのだがそれを若い自分が知る必要はない。何なら横たわって身体を休める必要すらなかった。
「それは……戻られてからすぐにまた身動きが取れるようにしておかねばなりません。僕はすぐに訓練場に戻りますのでどうかお寛ぎ下さい」
そういって過去の自分が開けた棚で、彼が何を取りに来たのかローレンツは察した。籠手だ。現在でも愛用している籠手は、この時点ではまだ人の血を吸っていない。好ましいと思っていた友人たちの亡骸を確認する日が来るとは夢にも思っていない若い自分に親切にしてやるとしたら……。
「近接戦闘の際にも籠手は役に立つ。素手で殴るより楽だからベレト先生から習うと良い」
「……未来ではそれほど追い詰められることがあるのですか?この僕が?」
騎馬職を目指している時期なので若い自分の疑問はもっともだった。将である自分が馬から降り、槍も魔法も使わず殴り合いをする羽目になるなど負け戦も同然なので想像したこともないはずだ。だが籠手をつけたまま相手を殴ると確実に怪我を負わせることができる。
「それと従士なしで籠手を外せるようになっておいた方が良い。それくらいクロードに振り回される」
手首を口に寄せるローレンツの姿を見て、胸元に籠手を抱えたままの若い自分の眉間に皺が寄った。口で紐を咥えるのが気に食わないのか、将来のクロードを貶されたような気がしたのか、はたまたその両方か。
「信じられません。少しだけお話しさせていただきましたが貴方のクロードがそんな頼りない方であるようには感じられませんでした」
頼り甲斐はあるのだ。だが三つ編みが可愛らしかった彼はとんでもない悪癖も身につける。戦で昂った心を落ち着けるために身体を重ねる際、クロードは勝手にどんどん他人の甲冑を外していく癖に籠手だけはわざと残す。クロードに怪我を負わせてしまうことを恐れたローレンツが動けなくなるよう、追い詰めてから身体を好き放題弄ぶことを好むようになるのだ。口や手だけならまだ良いのだが、伝書フクロウの羽まで持ち出すので助言してやっている。しかし怖がりで寝台の中の世界を知ろうとしない自分には通じない。
「訓練場に行かねばならない者相手に無駄口を叩いてしまったな」
「はい、クロードをしっかり支えられるように鍛錬を重ねることにします」
最後に発言すれば勝ちというわけでもないのに、若い自分は一方的に会話を打ち切り部屋を出ていった。優しくしてやれ、とクロードに頼まれたから将来、真に必要になることを教えてやったのに全く聞く耳を持っていない。きっとアリルの谷で未来の自分から言われたことを思い出すだろう。いや、思い出せないかもしれない。何せクロードに弄ばれると何も考えられなくなるのだから。畳む
「crossing」5.
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
同一人物同士であれば、他の者に目撃された時にそっくりな親戚だと強弁することが出来るからしばらく世話になる、とかなんとか言ってきたくせに現在のローレンツの部屋に行くなんて、未来の自分はまるで言動が一致していない。身支度を整えた未来のローレンツはこちらへ戻ってきた未来のクロードの耳元に薄い唇を寄せて一言二言何か話した。
この部屋で何も起きなかったような顔をしていた彼は用事が済んだのか、本来滞在するはずの部屋に戻っていった。初めてのことで長持ちしなかったからなんとか取り繕えたもののもし自分にもう少し堪え性があったらどうなっていたのだろう。
未来の自分は勝手知ったる、という風情で寝台の上に程よくできた空間に座り込み、枕元に置いてある本を手に取っていた。
「ローレンツ、綺麗になっただろ」
さきほどこの寝台で自分と彼が何をしたのか分かったとしても未来の自分は余裕綽々なのだろうか。殺されても文句は言えないので黙っておくが。
「正直驚いた。声かけに関して苦情を言ってた女子どもに未来のローレンツを見せてやりたいね」
取り繕っても意味がない相手なのでクロードは素直に心境を吐露した。彼の圭角とも言える焦りがなくなっている。展開は早かったが焦燥感のようなものは全くなかった。
「気持ちはわからんでもないが、あいつらに見る目がなかったおかげで助かった面もあるぞ。分かってるだろ?不利な点がいくつもあるって」
素直にローレンツの美を讃えた自分の姿を見て未来のクロードが苦笑する。そこは気になる点だった。家督を継ぐ子供を作れない同性同士である上に、クロードにはもうひとつひた隠しにしている秘密があった。
「なあ、あんたのローレンツは全部知ってるのか?」
クロードに天国を見せてくれた彼は既にクロードの正体を暴いたのだろうか?
「黙秘する」
「一番気になるところなんだけどな」
おどけて見せたが当然、未来の自分には通用しない。寝台を乗っ取った未来の自分の値踏みするかのような視線が刺さる。緑の瞳が故郷で忌み嫌われたのも分かるような気がした。それだけに真正面から見つめ返してくるローレンツの存在がありがたい。
「ひとつだけ言っておく。この先は今のお前には想像もつかないような厄介なことしか起きない。格好をつける余裕も取り繕う余裕もない。死力を尽くすことだ」
「葬式出したのか?」
「黙秘する」
だが彼が身につけている外套を見れば明らかだ。未来の自分は祖父のオズワルドを看取っている。元服した際に切り落とした三つ編みは母の元に届いたのだろうか。それもきっと教えてもらえない。未来の自分の言葉を聞いて何も聞き出せない、と悟ったクロードは本をどかして椅子に座りその上で胡座をかいた。そう言えば今晩はどちらが床に寝るのか決めていない。昨晩は間借りする身だからな、と言って未来の自分が床に寝ている。
「何にも言う気はないんだな!まあいいや。今日は俺が床に寝るよ」
「寝台を譲られても言えないことは言えないからな」
翌朝、特に何かしくじった覚えもないのだが若いローレンツがクロードの部屋にやってきた。寝台に座り込んでいる未来のクロードを見て正式な礼をしている。
「俺が盟主になったら俺にもそれやってくれるのか?」
「では礼を尽くしたくなるような実績を積みたまえ」
どうやらローレンツは未来のクロードへ朝の挨拶をするために来たらしい。コナン塔で遺産が暴走しシルヴァンの兄マイクランが命を落とした時、眠れないと縋ってきたローレンツの予想から外れたことをして以来、クロードは警戒されている。学生のうちにそんなふしだらなことはしてはならない、と言うのが彼の主張だ。鷹揚に構えて挨拶を返す未来の自分はどんなエグいことをやってローレンツをあんな風にしたのか。そもそもどうやって一線を越えたのか。
「昔の俺はともかくローレンツが講義に遅れたら大変だ。そろそろ行ったほうが良い」
年上の自分が言う通り始業時間が近く、皆教室や訓練場へむかったのか教室へ向かう廊下にはほとんど人は居なかった。ローレンツに急ぎ足で歩かれると追いつくのがクロードには中々難しい。小走りで追いつきながらうぶな恋人に話しかける。
「お前随分と綺麗になるんだな、びっくりしたよ」
「今の僕では不満かね」
クロードの言葉を聞き白い眉間に皺が寄った。険のある表情は二人が出会ったばかりの頃を思い起こさせる。クロードは未来の自分を見た時の感想が無理をして偉く見せようとしている、でしかなかったが未来のローレンツを見た時の感想は口から生まれてきたと言われているにも関わらずワーオ、の一言だ。
「いや、そんなことないさ」
クロードは人目がないのを良いことにローレンツの白い手を手に取った。こうすれば同じ早さで歩くことができる。
「すまない。確かに外見は僕の目指す理想に近かったがなんと言うか四角四面で」
基本、ローレンツは自分に厳しい。そうやって掲げた理想の姿に近づこうとしているから仕方ないのだが、現在の自分と未来の自分がいるという異常事態においては未来の自分からの目線が厳しいものになる。兄弟関係、特に異母兄シャハドとの関係に悩んだクロードからしてみれば羨ましい限りだが、彼は長子で兄や姉というものを知らず、弟や妹との関係は良好だと聞く。
どうやら未来の自分たちは口裏を合わせている。そっくりな親戚ということで誤魔化せる、という主張をローレンツも聞いたはずだ。きっと年上の兄に甘えてみたかったのに、未来の自分相手にそれが叶わず少し拗ねている。あの懐き方からいって未来の自分は現在のローレンツを甘やかしたのだろう。
「ただすごく未来が楽しみだなと思っただけだよ」
クロードが親指の腹で白い手のひらの真ん中に小さく円を描くと歩みが止まった。見上げてみれば白い顔は赤く染まっていふ。数年後にはあんな妖艶な雰囲気になるというのに、たったこれだけの触れ合いでこんな風になるというなら初体験の時にはどんなことになるのか。クロードには想像もつかない。
「え……あ、急ごう!クロード、走らないと本当におくれてしまう!」
ほんの数秒の触れ合いの後、手は振り払われた。未来の彼に至るまでの道筋が全く想像できない。ローレンツが本気で走ったのでクロードも三つ編みを揺らして本気で走るしかなかった。教室へ走って入り込めば頬の赤みは走ったから、と言うことで誤魔化せるだろう。畳む
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
同一人物同士であれば、他の者に目撃された時にそっくりな親戚だと強弁することが出来るからしばらく世話になる、とかなんとか言ってきたくせに現在のローレンツの部屋に行くなんて、未来の自分はまるで言動が一致していない。身支度を整えた未来のローレンツはこちらへ戻ってきた未来のクロードの耳元に薄い唇を寄せて一言二言何か話した。
この部屋で何も起きなかったような顔をしていた彼は用事が済んだのか、本来滞在するはずの部屋に戻っていった。初めてのことで長持ちしなかったからなんとか取り繕えたもののもし自分にもう少し堪え性があったらどうなっていたのだろう。
未来の自分は勝手知ったる、という風情で寝台の上に程よくできた空間に座り込み、枕元に置いてある本を手に取っていた。
「ローレンツ、綺麗になっただろ」
さきほどこの寝台で自分と彼が何をしたのか分かったとしても未来の自分は余裕綽々なのだろうか。殺されても文句は言えないので黙っておくが。
「正直驚いた。声かけに関して苦情を言ってた女子どもに未来のローレンツを見せてやりたいね」
取り繕っても意味がない相手なのでクロードは素直に心境を吐露した。彼の圭角とも言える焦りがなくなっている。展開は早かったが焦燥感のようなものは全くなかった。
「気持ちはわからんでもないが、あいつらに見る目がなかったおかげで助かった面もあるぞ。分かってるだろ?不利な点がいくつもあるって」
素直にローレンツの美を讃えた自分の姿を見て未来のクロードが苦笑する。そこは気になる点だった。家督を継ぐ子供を作れない同性同士である上に、クロードにはもうひとつひた隠しにしている秘密があった。
「なあ、あんたのローレンツは全部知ってるのか?」
クロードに天国を見せてくれた彼は既にクロードの正体を暴いたのだろうか?
「黙秘する」
「一番気になるところなんだけどな」
おどけて見せたが当然、未来の自分には通用しない。寝台を乗っ取った未来の自分の値踏みするかのような視線が刺さる。緑の瞳が故郷で忌み嫌われたのも分かるような気がした。それだけに真正面から見つめ返してくるローレンツの存在がありがたい。
「ひとつだけ言っておく。この先は今のお前には想像もつかないような厄介なことしか起きない。格好をつける余裕も取り繕う余裕もない。死力を尽くすことだ」
「葬式出したのか?」
「黙秘する」
だが彼が身につけている外套を見れば明らかだ。未来の自分は祖父のオズワルドを看取っている。元服した際に切り落とした三つ編みは母の元に届いたのだろうか。それもきっと教えてもらえない。未来の自分の言葉を聞いて何も聞き出せない、と悟ったクロードは本をどかして椅子に座りその上で胡座をかいた。そう言えば今晩はどちらが床に寝るのか決めていない。昨晩は間借りする身だからな、と言って未来の自分が床に寝ている。
「何にも言う気はないんだな!まあいいや。今日は俺が床に寝るよ」
「寝台を譲られても言えないことは言えないからな」
翌朝、特に何かしくじった覚えもないのだが若いローレンツがクロードの部屋にやってきた。寝台に座り込んでいる未来のクロードを見て正式な礼をしている。
「俺が盟主になったら俺にもそれやってくれるのか?」
「では礼を尽くしたくなるような実績を積みたまえ」
どうやらローレンツは未来のクロードへ朝の挨拶をするために来たらしい。コナン塔で遺産が暴走しシルヴァンの兄マイクランが命を落とした時、眠れないと縋ってきたローレンツの予想から外れたことをして以来、クロードは警戒されている。学生のうちにそんなふしだらなことはしてはならない、と言うのが彼の主張だ。鷹揚に構えて挨拶を返す未来の自分はどんなエグいことをやってローレンツをあんな風にしたのか。そもそもどうやって一線を越えたのか。
「昔の俺はともかくローレンツが講義に遅れたら大変だ。そろそろ行ったほうが良い」
年上の自分が言う通り始業時間が近く、皆教室や訓練場へむかったのか教室へ向かう廊下にはほとんど人は居なかった。ローレンツに急ぎ足で歩かれると追いつくのがクロードには中々難しい。小走りで追いつきながらうぶな恋人に話しかける。
「お前随分と綺麗になるんだな、びっくりしたよ」
「今の僕では不満かね」
クロードの言葉を聞き白い眉間に皺が寄った。険のある表情は二人が出会ったばかりの頃を思い起こさせる。クロードは未来の自分を見た時の感想が無理をして偉く見せようとしている、でしかなかったが未来のローレンツを見た時の感想は口から生まれてきたと言われているにも関わらずワーオ、の一言だ。
「いや、そんなことないさ」
クロードは人目がないのを良いことにローレンツの白い手を手に取った。こうすれば同じ早さで歩くことができる。
「すまない。確かに外見は僕の目指す理想に近かったがなんと言うか四角四面で」
基本、ローレンツは自分に厳しい。そうやって掲げた理想の姿に近づこうとしているから仕方ないのだが、現在の自分と未来の自分がいるという異常事態においては未来の自分からの目線が厳しいものになる。兄弟関係、特に異母兄シャハドとの関係に悩んだクロードからしてみれば羨ましい限りだが、彼は長子で兄や姉というものを知らず、弟や妹との関係は良好だと聞く。
どうやら未来の自分たちは口裏を合わせている。そっくりな親戚ということで誤魔化せる、という主張をローレンツも聞いたはずだ。きっと年上の兄に甘えてみたかったのに、未来の自分相手にそれが叶わず少し拗ねている。あの懐き方からいって未来の自分は現在のローレンツを甘やかしたのだろう。
「ただすごく未来が楽しみだなと思っただけだよ」
クロードが親指の腹で白い手のひらの真ん中に小さく円を描くと歩みが止まった。見上げてみれば白い顔は赤く染まっていふ。数年後にはあんな妖艶な雰囲気になるというのに、たったこれだけの触れ合いでこんな風になるというなら初体験の時にはどんなことになるのか。クロードには想像もつかない。
「え……あ、急ごう!クロード、走らないと本当におくれてしまう!」
ほんの数秒の触れ合いの後、手は振り払われた。未来の彼に至るまでの道筋が全く想像できない。ローレンツが本気で走ったのでクロードも三つ編みを揺らして本気で走るしかなかった。教室へ走って入り込めば頬の赤みは走ったから、と言うことで誤魔化せるだろう。畳む
「crossing」7.
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
流石にクロードも思うところがあったらしい。旧礼拝堂の魔法陣の中心に二人並んで白い光に包まれた時、黒い手袋越しにローレンツがそっと手を握ると彼が微かに震えているのがわかった。大聖堂の方へ顔を背けたまま、ローレンツの手を軽く握り返してきたのできっと怖かったのだろう。クロードはローレンツを見栄っ張りだと言って揶揄うがクロードも充分見栄っ張りだ。五年前、赤狼の節に互いの肉体に縋り付いた者同士、いまさら何の遠慮があると言うのだろうか。あの夜を境にローレンツはクロードをより深く理解出来た気がしたしクロードもローレンツを深く理解するようになった。
枢機卿の間に二人だけで残って打ち合わせを終え、廊下へ出た時に五年前戦死した筈の修道士が目の前を通り過ぎたのでローレンツもクロードもこの異変に気付いた。お互いに幽霊を見たような顔をしていたが何のことはない。自分たちの方が異物である、と気づかせてくれたのは荘厳な姿を保つ大聖堂だった。慌てて二人揃ってセテスの部屋に駆け込み、奇妙な数日間を経て───ローレンツとクロードは元の時代へ戻ることができた。
今、二人の目の前には帝国軍の攻撃で破壊されたままの大聖堂がある。二人が真っ先にこの目で見たかったものだ。
「崩壊した大聖堂を見て心が安らぐ日が来るとは思わなかったよ」
ローレンツがそう呟くとクロードも珍しく素直に同意した。星辰の節にガルグ=マクで皆と再会し打ち捨てられた大聖堂を見て、心が締め付けられるような心地がしたものだがこれこそが一一八五年である証だ。クロードと共に過ごした五年間は消え失せてなどいない。過去に紛れ込んで数日経過した筈が殆どずれることなく、元の時間軸の自分たちが過ごしていた直後の時刻に戻れたことは鳴り響く晩鐘が教えてくれた。星辰の節に合流し、修道院敷地内の被害を確認した際にクロードが真っ先に鐘を修復させたので無生物なりに恩返しをしているのかもしれない。
食堂の明かりを確認できたので二人で慌てて駆け込むと幸運なことにダフネルシチューだけは残っていた。五年前の世界では麺麭もワインも干し肉も提供してもらえたがやはり温かい食べ物が食べたかったので注文する。
湯気と温かさを感じながら食事をしている間ローレンツもクロードも無言だった。話している間も惜しんで食事を終えてしまった。
「はぁー流石に風呂に入りたいな」
手巾で口を拭いたクロードが伸びをしながら呟いた。食欲が満たされれば他のことに関しても欲が出てくる。それぞれ学生時代の自分がいない時に室内で水差しの水を使って身体を拭いたが、入浴と比べてしまえば当然だが入浴の方に軍配が上がる。
「同感だ。火が落とされる前に支度して入ろう」
それぞれ今の自室に戻り入浴の支度を整えた。最後の最後、滑り込むように入ったせいか浴場は貸切状態になっている。湯気の中で足を投げ出していると若いクロードから受け取った熱も含めて奇妙な数日がまるで夢のようにローレンツには思えた。あんなこと果たして現実に起きたのだろうか。
天井から落ちる水滴の音がやけに耳に響くのは時間が遅く、クロードと二人きりで入っているからだろう。隣り合って寛いではいるが二人とも疲れ果てて話す気にもなれなかった。汗で濡れた湯浴み着が身体に張り付きクロードの身体の線が顕になる。彼は祖父から盟主の座を継いでから少しでも威厳を出したい、とのことで体が少し大きく見えるような服を好んで着るようになった。だから浴場から寝室くらいでしか彼の身体の線を目にする機会がない。つまりローレンツが最も彼の身体の線を見る機会に恵まれている、と言える。学生時代の彼よりも随分と逞しい身体つきになっていた。クロードも同じようにローレンツの身体つきを舐めるように見ている。きっと記憶の中のかつての姿を見比べているのだ。クロードは昔と比べて随分素直になった。
「いや、お互い細かったな!身長差が縮まらないと悟った時の自分の顔は見ものだった」
おどけて笑うクロードは頬髭を生やしていても五年前の彼のように可愛い顔立ちをしていたが、ローレンツは本人にそう言ってやったことがない。
「今でも悔しいのかね?」
ローレンツは紫の瞳だけ動かしてクロードを眺めた。彼が小さく横に首を振ると褐色の肌の上を玉のような汗が筋肉に沿って流れていく。
「いいや、男の価値はそんなとこでは決まらんからな」
クロードは軽く腰を上げ首を伸ばしローレンツに頬ずりすると薄い唇に触れるだけの軽い口づけをした。クロードに体を開かれる前のローレンツならこれだけで顔を真っ赤にしていただろう。彼に茶を供し頭巾を着せてやっていた頃のローレンツなら。だが今のローレンツは微かに触れた粘膜がひんやりとして心地よいと感じるだけだ。これは浴室内の気温の問題だけではない。
「先に部屋に戻りたまえ。僕はもう少し時間がかかる」
「いや、たまには俺が手伝うよ」
学生時代のクロードとローレンツがすぐに身体を繋げることが出来たのはあの現象に巻き込まれる前の晩も今、浴場にいる二人で身体を重ねていたからだ。この後、褐色の指でローレンツの奥が探られれば過去のクロードに対してローレンツが何をくれてやったのか、すぐに判明するだろう。
「君の指は悪戯ばかりする」
ローレンツはそういうと褐色の手を取り中指と人差し指を第一関節まで自らの咥内に迎え入れた。舌の裏で爪を舐め舌の表面で指の脇にできている胼胝の形を確かめる。クロードは爪の背で上顎の溝を撫でようとしたがローレンツが強く指を吸うので出来なかった。
「こんな浅いところじゃ満足できないだろ」
確かに指を奥まで入れて欲しいし当然指だけでは足りない。ローレンツを見つめるクロードの緑の瞳が欲望でぎらぎらと輝いている。五年前の彼が同じ瞳で自分を見つめたのでつい口づけ以上のものをくれてやってしまった。まだ道具を使うことなど考えつきもしない幼いクロードのことを思い出すと口の端が上がってしまう。本当に初心だったし、ローレンツはクロードの身体だけで充分気持ち良くなれると再確認させてくれた。きっと今晩も羽根だの目隠しだのを使いたがるだろうがそこは粘り強く訴えていくしかない。
「爪の手入れは怠っていないようだね」
「弓使いの嗜みってやつだよ」
二人は汗を流すため共に立ち上がった。畳む
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
流石にクロードも思うところがあったらしい。旧礼拝堂の魔法陣の中心に二人並んで白い光に包まれた時、黒い手袋越しにローレンツがそっと手を握ると彼が微かに震えているのがわかった。大聖堂の方へ顔を背けたまま、ローレンツの手を軽く握り返してきたのできっと怖かったのだろう。クロードはローレンツを見栄っ張りだと言って揶揄うがクロードも充分見栄っ張りだ。五年前、赤狼の節に互いの肉体に縋り付いた者同士、いまさら何の遠慮があると言うのだろうか。あの夜を境にローレンツはクロードをより深く理解出来た気がしたしクロードもローレンツを深く理解するようになった。
枢機卿の間に二人だけで残って打ち合わせを終え、廊下へ出た時に五年前戦死した筈の修道士が目の前を通り過ぎたのでローレンツもクロードもこの異変に気付いた。お互いに幽霊を見たような顔をしていたが何のことはない。自分たちの方が異物である、と気づかせてくれたのは荘厳な姿を保つ大聖堂だった。慌てて二人揃ってセテスの部屋に駆け込み、奇妙な数日間を経て───ローレンツとクロードは元の時代へ戻ることができた。
今、二人の目の前には帝国軍の攻撃で破壊されたままの大聖堂がある。二人が真っ先にこの目で見たかったものだ。
「崩壊した大聖堂を見て心が安らぐ日が来るとは思わなかったよ」
ローレンツがそう呟くとクロードも珍しく素直に同意した。星辰の節にガルグ=マクで皆と再会し打ち捨てられた大聖堂を見て、心が締め付けられるような心地がしたものだがこれこそが一一八五年である証だ。クロードと共に過ごした五年間は消え失せてなどいない。過去に紛れ込んで数日経過した筈が殆どずれることなく、元の時間軸の自分たちが過ごしていた直後の時刻に戻れたことは鳴り響く晩鐘が教えてくれた。星辰の節に合流し、修道院敷地内の被害を確認した際にクロードが真っ先に鐘を修復させたので無生物なりに恩返しをしているのかもしれない。
食堂の明かりを確認できたので二人で慌てて駆け込むと幸運なことにダフネルシチューだけは残っていた。五年前の世界では麺麭もワインも干し肉も提供してもらえたがやはり温かい食べ物が食べたかったので注文する。
湯気と温かさを感じながら食事をしている間ローレンツもクロードも無言だった。話している間も惜しんで食事を終えてしまった。
「はぁー流石に風呂に入りたいな」
手巾で口を拭いたクロードが伸びをしながら呟いた。食欲が満たされれば他のことに関しても欲が出てくる。それぞれ学生時代の自分がいない時に室内で水差しの水を使って身体を拭いたが、入浴と比べてしまえば当然だが入浴の方に軍配が上がる。
「同感だ。火が落とされる前に支度して入ろう」
それぞれ今の自室に戻り入浴の支度を整えた。最後の最後、滑り込むように入ったせいか浴場は貸切状態になっている。湯気の中で足を投げ出していると若いクロードから受け取った熱も含めて奇妙な数日がまるで夢のようにローレンツには思えた。あんなこと果たして現実に起きたのだろうか。
天井から落ちる水滴の音がやけに耳に響くのは時間が遅く、クロードと二人きりで入っているからだろう。隣り合って寛いではいるが二人とも疲れ果てて話す気にもなれなかった。汗で濡れた湯浴み着が身体に張り付きクロードの身体の線が顕になる。彼は祖父から盟主の座を継いでから少しでも威厳を出したい、とのことで体が少し大きく見えるような服を好んで着るようになった。だから浴場から寝室くらいでしか彼の身体の線を目にする機会がない。つまりローレンツが最も彼の身体の線を見る機会に恵まれている、と言える。学生時代の彼よりも随分と逞しい身体つきになっていた。クロードも同じようにローレンツの身体つきを舐めるように見ている。きっと記憶の中のかつての姿を見比べているのだ。クロードは昔と比べて随分素直になった。
「いや、お互い細かったな!身長差が縮まらないと悟った時の自分の顔は見ものだった」
おどけて笑うクロードは頬髭を生やしていても五年前の彼のように可愛い顔立ちをしていたが、ローレンツは本人にそう言ってやったことがない。
「今でも悔しいのかね?」
ローレンツは紫の瞳だけ動かしてクロードを眺めた。彼が小さく横に首を振ると褐色の肌の上を玉のような汗が筋肉に沿って流れていく。
「いいや、男の価値はそんなとこでは決まらんからな」
クロードは軽く腰を上げ首を伸ばしローレンツに頬ずりすると薄い唇に触れるだけの軽い口づけをした。クロードに体を開かれる前のローレンツならこれだけで顔を真っ赤にしていただろう。彼に茶を供し頭巾を着せてやっていた頃のローレンツなら。だが今のローレンツは微かに触れた粘膜がひんやりとして心地よいと感じるだけだ。これは浴室内の気温の問題だけではない。
「先に部屋に戻りたまえ。僕はもう少し時間がかかる」
「いや、たまには俺が手伝うよ」
学生時代のクロードとローレンツがすぐに身体を繋げることが出来たのはあの現象に巻き込まれる前の晩も今、浴場にいる二人で身体を重ねていたからだ。この後、褐色の指でローレンツの奥が探られれば過去のクロードに対してローレンツが何をくれてやったのか、すぐに判明するだろう。
「君の指は悪戯ばかりする」
ローレンツはそういうと褐色の手を取り中指と人差し指を第一関節まで自らの咥内に迎え入れた。舌の裏で爪を舐め舌の表面で指の脇にできている胼胝の形を確かめる。クロードは爪の背で上顎の溝を撫でようとしたがローレンツが強く指を吸うので出来なかった。
「こんな浅いところじゃ満足できないだろ」
確かに指を奥まで入れて欲しいし当然指だけでは足りない。ローレンツを見つめるクロードの緑の瞳が欲望でぎらぎらと輝いている。五年前の彼が同じ瞳で自分を見つめたのでつい口づけ以上のものをくれてやってしまった。まだ道具を使うことなど考えつきもしない幼いクロードのことを思い出すと口の端が上がってしまう。本当に初心だったし、ローレンツはクロードの身体だけで充分気持ち良くなれると再確認させてくれた。きっと今晩も羽根だの目隠しだのを使いたがるだろうがそこは粘り強く訴えていくしかない。
「爪の手入れは怠っていないようだね」
「弓使いの嗜みってやつだよ」
二人は汗を流すため共に立ち上がった。畳む
初版の表紙と裏表紙
台詞まとめ
表紙と挿絵を描いてくださったイエコさんのこちらのツイートが原案です。
まだ性的なことを何も知らない年前ロレが可愛くて平和にPERFECT TEA TIMEする年後クロに対し出会って10秒で年前クロの童貞を奪う年後ロレ
「将来の盟主たるもの房中術くらい身につけないとね……♡」ズップリ
「あっ♡♡♡」
「crossing」1.
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing #台詞まとめ
その現象はシャンバラに攻め込む前に発生し───ローレンツと共に過去に紛れ込んだ、と把握したクロードがまず頼ったのは眷族たちだった。クロードがレアの正体を匂わせるとレアは青獅子と黒鷲の学級に泊りがけの課題を与え、人払いをしてくれた。時の縁への介入を最小限にする為らしい。
元の世界に戻るまで数日かかる、と言われたクロードたちは若い頃の自分の部屋に匿ってもらうことにした。好奇心が暴走しがちな若き日の自分はなんというか、子犬のようで見ていて少し恥ずかしい。講義で寮が無人になったら隣室の様子でも伺おうか、と息を潜めているとローレンツが扉越しに声をかけてきた。
「クロード、いるのか?」
きっと隣室も学生のローレンツが外出したのだろうと思ってクロードは少しドアを開けてしまった。目の前には学生時代のローレンツがいて、驚きのあまり紫色の瞳が丸くなっている。薄く開いた唇はルミール村の事件の後でクロードが貪ったが、この時点ではまだの筈だ。
「君の部屋に鉄筆を忘れて……申し訳ありません。てっきり僕のクロードがいるとばかり」
部屋に匿ってもらう時にはもう一人、未来からやってきた者がいることは可能な限り言わないように、とレアに釘を刺されている。クロードも学生の自分にローレンツが共に来ていることを言わなかったので、ローレンツも同じ判断をしたのだろう。だが学生のローレンツはすぐにクロードの正体を察した。
その察しの良さはとても好ましいが、とにかくまだ清らかなローレンツの言う《僕のクロード》の破壊力が凄まじい。
「ごめんな、俺が判断を誤った。てっきり俺も俺のローレンツが出てきたのかと」
《俺のローレンツ》という表現を耳にしただけで顔を赤くした彼の顔をイグナーツに描いてほしい、とクロードは思った。だが、事態が更にややこしくなるので、心にその顔を刻んでおくにとどめた。何か用事があったのだろう。そう察したクロードが表情を崩さず、汚れた机の上にあるローレンツの鉄筆をとって渡してやると学生時代の彼は笑顔で礼を言い教室へ向かった。室内を誰かに見られないよう拳一つ分しか扉を開けられなかったのが惜しい。
ようやく寮内が無人になったので今度はクロードが隣室の扉を叩いた。こんなところにまで付いて来てくれたローレンツが急いで部屋に招き入れてくれる。
「この愚か者!レア様に過去の自分以外と接触するなと言われただろう!」
ローレンツは怒っていたがクロードはそんなことはお構いなしに彼に抱きついた。
「可愛すぎる!!あーもう過去の自分の趣味の良さに我ながら驚くね!」
「こら、そんな言葉で誤魔化すな!」
「でも俺も今のお前のこと、昔の自分に見せびらかしたいよ」
クロードの熱のこもった緑の瞳はそれが取り繕うための嘘ではない、とローレンツに告げている。
「うぅ……だが駄目なものは駄目だろう」
「あいつらが漏らさずにいられたらそれで良いのさ。二人きりの時に話せるなら逆に外部には漏れないよ」
そんな訳でクロードは学生時代のローレンツの部屋へ行き、ローレンツは学生時代のクロードの部屋に行くことになった。
ローレンツが講義や演習、食事それに入浴も終えて自室に戻ると見てはならぬ存在のはずだった未来のクロードが自室にいた。入浴の支度をしに戻った際はレアに命じられ、匿うように言われた未来の自分がいたので学生たちが入浴中、寮が無人の隙をついて入れ替わったらしい。
「よ、邪魔するぜ」
クロードが手を挙げて挨拶するとローレンツは風呂上がりの軽装だったが、それでも右足を一歩引いて左手を横に伸ばし、右手を胸に当てて膝を曲げた。目上のものに対する正式なお辞儀だ。
「先ほどは失礼いたしました。閣下」
クロードが驚いて目を見開く番だった。先ほど廊下にいたローレンツからは見えなかったであろう盟主の証である外套のせいだと気づいて苦笑する。
「悔しいか?」
「いえ、僕個人の感情はともかく地位や身分には敬意を示さねばなりません」
「ま、今のところはって話だ。少し話がしたくて来たんだ。構わないか?」
「そう言うことであれば茶菓が必要ですね」
ローレンツは頷くと指を鳴らし、ファイアーの魔法でお湯を沸かし始めた。クロードが座っている来客用の椅子の前に丸机が置かれる。白く長い腕が棚の奥にある薄い白磁の茶器を取り出した。彼がガルグ=マクに持参しているものの中で確か最も高価なものだ。対等な付き合いをしている未来の自分たちの場合、この時刻にこんな風に急にローレンツの部屋に訪れても気安く飲めるお茶しか出してくれない。
「おいおい、給茶器の上のやつでも構わないんだぜ?」
三段重ねの給茶器の上段では煮詰まった紅茶が温まっている。中段に付けた蛇口からお湯を注ぎ、飲みやすい濃さに薄めて飲む紅茶はローレンツが日頃、喉を潤すために飲む気安いもので彼以外に飲んだことがあるのはおそらくクロードだけだろう。
「そういうわけには参りません」
クロードのために用意されたカミツレの花茶の一煎目は林檎のような甘い香りがした。小皿に盛られたお茶請けは胡桃の砂糖がけと干し杏でどちらもカミツレの花茶によく合う。
「ああ、美味いな。さすがだよ」
「閣下からお褒めに預かり光栄です。ところでお話というのは……?」
クロードが状況を説明し、推論を披露する度にローレンツはひどく真面目な顔をして頷いた。どうやら年若い彼は未来の自分の言葉少なさにひどく困惑していたらしい。
「未来の僕は意見すら述べてくれなくて」
本当は過去の自分に対して黙秘を貫くローレンツが正しいのだ。それを頭では分かっていてもローレンツは未来の自分自身に甘えたかったらしい。
「失敗を避けるにはそれが良かっただろうな。俺を見れば分かるだろう?余計なことをしてお前に見つかった」
「でも僕は閣下とお会いできて嬉しいです。僕のクロードと共に年を重ねるのが楽しみです」
クロードの方がローレンツより年下で、クロードが細かいことをおざなりにしがちで、そこを補助してもらっていることは五年の時を経ても変わらない。それが今はどうだろう。若き日のローレンツが憧れに頬を染め、未来への期待に輝く瞳でクロードを見つめてくる。理性を保つのが大変だった。身体を暴きたいと言うことではない。とにかく可愛い以外の言葉を理性で何とか繋ぎ止め、学生時代のローレンツが有意義に感じてくれるような夜の茶会は終わった。畳む