「crossing」3. #クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing 続きを読む 未来の自分はローレンツの部屋に戻ると丸机に小さな籠を置いた。籠の中には小さな葡萄酒の瓶、麺麭、干し肉と干し葡萄が入っている。セテスかレアに命じられた誰かが持ってきてくれたらしい。彼が先程クロードが座っていた場所に腰を下ろし、黙々と籠の中身を食べているのでローレンツは給茶器からお茶を汲んでやった。自分が喉の渇きを癒すためだけの気楽なものだ。飲みやすい濃さになるようお湯で薄めて飲む。 「僕のクロードと何か実りがある話し合いは出来たのでしょうか?」 「口止め料を少々」 先程ローレンツが未来のクロードには飲ませなかった気軽な紅茶を飲むと未来の自分はとんでもないことを口にした。クロードの好奇心を押さえこめるような何かを身ひとつで、この時代にやってきたであろう未来の自分が持っているとはローレンツには考えられない。 「彼が多少の金子で動くとも思えないのですが」 見当違いであると分かった上でそういうと過去の自分に情報を与えない為、ずっと無表情を貫いていた未来のローレンツが微かに口の端を上げた。ではクロードにはこの先、未来で何が起きるのか教えたというのだろうか?過去の自分には黙秘を貫いているというのに。 ローレンツは自分の言葉に自分で動揺してしまった。眉間に思わず深い皺が寄ってしまう。確かに未来のクロードは信用に足る人物ではあった。今のクロードと違って優秀さが鼻につかない。人を馬鹿にするようなところを表に出さなくなった───そんな印象を受けた。先程の茶会でも話を聞くふりではなくきちんと話を聞いていたように感じる。だが現在のクロードは斜に構えているのが丸わかりだ。きっと彼の目に適わないと判断されれば、ローレンツですら切り捨てられる。 「僕相手だから良いものの外で他人の目があるときにそんな顔をしてはいけない」 「ですがレア様の指示は元の時代に戻るためのものでしょう?それは貴方も理解している筈だ」 「そこは色々とやりようがあるのだ。今の君にはまだ想像もつかないだろうが」 菫青石のような瞳が真っ直ぐ自分を見つめた。自分にもし兄がいたらこんな感じなのだろうか。諭すようにそう言い聞かされると退くしかなかった。未来の自分は籠の中身をきっかり半分残し、手持ちの手巾で麺麭や干し肉を包んでいる。おそらく明日も食糧の差し入れはあるはずだが不測の事態に備えているのだ。 「明日の分ですか?」 未来のローレンツは黙って頷くと床に敷布を敷いた。この堅牢な修道院を襲撃する者がいるとも思えないが、それでも万が一のことに備える心構えは素晴らしい。先のことを一切伝えてはならない、という縛りが彼になければきっと興味深い話が聞けたかもしれないと思うと些か残念だった。 「僕が床でも構いませんが」 「いや、今日のところはこれで構わない。数日続くようなら貸してもらうかもしれないが」 未来からやってきたローレンツは毛布に包まると壁を背にしてさっさと眠ってしまった。しかし今の自分と同じく手足が長いのではみ出てしまっている。身体を休めておくのも重要な仕事のひとつではあるがものの三秒で本気で眠りに落ちて、すうすうと寝息を立てている姿が年若いローレンツには信じがたい。確かにローレンツは野営の訓練の際にクロードから揶揄われるほど寝つきが良い方だが将来、これほどになるとは想像もしていなかった。 好奇心に負けてそっと未来の自分の顔を覗き込んでみれば特に無理をしている訳でもなさそうだった。きっと自領の本宅にある天蓋付きの寝台で寝る時と同じようにすやすやと寝ているのだろう。自分はどんな顔をして寝ているのか、知りたいような知りたくないような気がした。 翌朝、ローレンツはいつもの時間より少し早めに起きたがそれでも未来の自分に先を越され水差しの水を殆ど使われていたので丁度よかった。 「背丈は僕と変わらないようなので肌着や襯衣などは自由にお使いください。場所はもうご存じでしょう?」 そういうとローレンツは寝巻きから普段着に着替え顔だけ拭いた。彼も自分の寝顔を見たのかもしれない。 水を汲みに行くため扉を開けると籠が置かれていたので未来からやってきた自分に託し、学生共用の大きな水瓶まで身支度用の水を汲みに行った。この時間帯には珍しくクロードも起きて水差しを持参している。隣室もおそらく似たような展開を辿ったのだろう。 「おはようクロード。君が早起きになるとは本当に意外だよ」 「必要なら早起きもするさ。教室に行く前に渡したいものがあるから俺の部屋に来てくれるか?」 今日はもう朝の鍛錬を諦めたのでクロードの部屋に行くのも特に問題はない。このぼやかした言い回しから察するに、受け取るのはローレンツではない。基本、受け取るのは他者の目を避けるため、かつての自室に籠っている未来のローレンツだろう。ローレンツは首を縦に振った。食欲もあったしよく眠っているように見えた未来の自分だが、体調不良を隠しているのかもしれない。 ローレンツが新たに汲んできた水で身支度を整え、制服姿で隣室の扉を叩くと制服姿のクロードが片手に何かを握りしめたまま扉を開けた。白い手のひらだけ中に差し出すと小瓶をそっと握らされる。渡せばわかるのか、を問うとクロードは無言で頷いた。小瓶の中身もこの行為の意図もローレンツには見当もつかなかった。 「僕はこのまま講義に出ます。戻るまでこの部屋の中のものは何もかも自由に使ってくれて構いません。それと僕のクロードからこれを預かりました」 クロードから渡された小瓶を受け取ると未来の自分はローレンツの目の前で白い手の甲に小瓶の中身をほんの少し垂らし、中身を検分し始めた。毒物や薬学に詳しいのはクロードの方だが、未来の自分も彼に意見が述べられる程度には詳しくなっているのかもしれない。自分たちにはどんな未来が待ち受けているのか見当もつかないが、その未来に備えて今のローレンツが出来ることは真面目に講義を受け、鍛錬を続けることくらいしかなかった。 「もう少し粘り気がある方が良い、と君のクロードに伝えてくれたまえ」 早めに着いた教室は人が疎らだったが、用心して言われた通りのことをクロードの耳元で囁いた。未来の自分が何を伝えんとしているのかローレンツには全く分からない。だがクロードは何故か耳まで真っ赤にして机に突っ伏してしまった。畳む 小説,BL 2024/11/17(Sun)
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
未来の自分はローレンツの部屋に戻ると丸机に小さな籠を置いた。籠の中には小さな葡萄酒の瓶、麺麭、干し肉と干し葡萄が入っている。セテスかレアに命じられた誰かが持ってきてくれたらしい。彼が先程クロードが座っていた場所に腰を下ろし、黙々と籠の中身を食べているのでローレンツは給茶器からお茶を汲んでやった。自分が喉の渇きを癒すためだけの気楽なものだ。飲みやすい濃さになるようお湯で薄めて飲む。
「僕のクロードと何か実りがある話し合いは出来たのでしょうか?」
「口止め料を少々」
先程ローレンツが未来のクロードには飲ませなかった気軽な紅茶を飲むと未来の自分はとんでもないことを口にした。クロードの好奇心を押さえこめるような何かを身ひとつで、この時代にやってきたであろう未来の自分が持っているとはローレンツには考えられない。
「彼が多少の金子で動くとも思えないのですが」
見当違いであると分かった上でそういうと過去の自分に情報を与えない為、ずっと無表情を貫いていた未来のローレンツが微かに口の端を上げた。ではクロードにはこの先、未来で何が起きるのか教えたというのだろうか?過去の自分には黙秘を貫いているというのに。
ローレンツは自分の言葉に自分で動揺してしまった。眉間に思わず深い皺が寄ってしまう。確かに未来のクロードは信用に足る人物ではあった。今のクロードと違って優秀さが鼻につかない。人を馬鹿にするようなところを表に出さなくなった───そんな印象を受けた。先程の茶会でも話を聞くふりではなくきちんと話を聞いていたように感じる。だが現在のクロードは斜に構えているのが丸わかりだ。きっと彼の目に適わないと判断されれば、ローレンツですら切り捨てられる。
「僕相手だから良いものの外で他人の目があるときにそんな顔をしてはいけない」
「ですがレア様の指示は元の時代に戻るためのものでしょう?それは貴方も理解している筈だ」
「そこは色々とやりようがあるのだ。今の君にはまだ想像もつかないだろうが」
菫青石のような瞳が真っ直ぐ自分を見つめた。自分にもし兄がいたらこんな感じなのだろうか。諭すようにそう言い聞かされると退くしかなかった。未来の自分は籠の中身をきっかり半分残し、手持ちの手巾で麺麭や干し肉を包んでいる。おそらく明日も食糧の差し入れはあるはずだが不測の事態に備えているのだ。
「明日の分ですか?」
未来のローレンツは黙って頷くと床に敷布を敷いた。この堅牢な修道院を襲撃する者がいるとも思えないが、それでも万が一のことに備える心構えは素晴らしい。先のことを一切伝えてはならない、という縛りが彼になければきっと興味深い話が聞けたかもしれないと思うと些か残念だった。
「僕が床でも構いませんが」
「いや、今日のところはこれで構わない。数日続くようなら貸してもらうかもしれないが」
未来からやってきたローレンツは毛布に包まると壁を背にしてさっさと眠ってしまった。しかし今の自分と同じく手足が長いのではみ出てしまっている。身体を休めておくのも重要な仕事のひとつではあるがものの三秒で本気で眠りに落ちて、すうすうと寝息を立てている姿が年若いローレンツには信じがたい。確かにローレンツは野営の訓練の際にクロードから揶揄われるほど寝つきが良い方だが将来、これほどになるとは想像もしていなかった。
好奇心に負けてそっと未来の自分の顔を覗き込んでみれば特に無理をしている訳でもなさそうだった。きっと自領の本宅にある天蓋付きの寝台で寝る時と同じようにすやすやと寝ているのだろう。自分はどんな顔をして寝ているのか、知りたいような知りたくないような気がした。
翌朝、ローレンツはいつもの時間より少し早めに起きたがそれでも未来の自分に先を越され水差しの水を殆ど使われていたので丁度よかった。
「背丈は僕と変わらないようなので肌着や襯衣などは自由にお使いください。場所はもうご存じでしょう?」
そういうとローレンツは寝巻きから普段着に着替え顔だけ拭いた。彼も自分の寝顔を見たのかもしれない。
水を汲みに行くため扉を開けると籠が置かれていたので未来からやってきた自分に託し、学生共用の大きな水瓶まで身支度用の水を汲みに行った。この時間帯には珍しくクロードも起きて水差しを持参している。隣室もおそらく似たような展開を辿ったのだろう。
「おはようクロード。君が早起きになるとは本当に意外だよ」
「必要なら早起きもするさ。教室に行く前に渡したいものがあるから俺の部屋に来てくれるか?」
今日はもう朝の鍛錬を諦めたのでクロードの部屋に行くのも特に問題はない。このぼやかした言い回しから察するに、受け取るのはローレンツではない。基本、受け取るのは他者の目を避けるため、かつての自室に籠っている未来のローレンツだろう。ローレンツは首を縦に振った。食欲もあったしよく眠っているように見えた未来の自分だが、体調不良を隠しているのかもしれない。
ローレンツが新たに汲んできた水で身支度を整え、制服姿で隣室の扉を叩くと制服姿のクロードが片手に何かを握りしめたまま扉を開けた。白い手のひらだけ中に差し出すと小瓶をそっと握らされる。渡せばわかるのか、を問うとクロードは無言で頷いた。小瓶の中身もこの行為の意図もローレンツには見当もつかなかった。
「僕はこのまま講義に出ます。戻るまでこの部屋の中のものは何もかも自由に使ってくれて構いません。それと僕のクロードからこれを預かりました」
クロードから渡された小瓶を受け取ると未来の自分はローレンツの目の前で白い手の甲に小瓶の中身をほんの少し垂らし、中身を検分し始めた。毒物や薬学に詳しいのはクロードの方だが、未来の自分も彼に意見が述べられる程度には詳しくなっているのかもしれない。自分たちにはどんな未来が待ち受けているのか見当もつかないが、その未来に備えて今のローレンツが出来ることは真面目に講義を受け、鍛錬を続けることくらいしかなかった。
「もう少し粘り気がある方が良い、と君のクロードに伝えてくれたまえ」
早めに着いた教室は人が疎らだったが、用心して言われた通りのことをクロードの耳元で囁いた。未来の自分が何を伝えんとしているのかローレンツには全く分からない。だがクロードは何故か耳まで真っ赤にして机に突っ伏してしまった。畳む