「crossing」4. #クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing 続きを読む 扉の隙間からそっと紙が差し込まれた。これまで聞こえてきた物音から察するに学生たちは皆、寮から出払っている。しかしそれでも念には念を入れて廊下に極力出ない方が良いだろうに、クロードは何をやっているのだろうか。腕を伸ばして拾い上げてみればそこにはクロードからの伝言が書かれていた。きっとローレンツが昨日黙っていろ、と怒ったからこんな手段を選んだのだろう。 《もう少し自分にも優しくしてやれ》 口の中で小さくファイアーの呪文を唱え、白い手のひらに乗せた紙を燃やす。如何にも、昔のローレンツにすっかり情が移っているクロードが言いそうなことだった。分かっていたことだが若い頃の自分はとにかく堅い。コナン塔で見たもののせいでもあるが一線を越え、自分が自分でなくなることが何よりも恐ろしかったから、若い頃の自分はこの時期のクロードに遊びのような口付けと甘い言葉しか与えなかった。だが人間は望んだ人を相手に純潔を失った程度で個を失ったりはしない。クロードに身体を割り開かれた後も、良いと感じるものも悪いと感じるものも変化しなかった。閉ざされた扉が開いたせいで好きなものが増えたことは確かだが。しかし彼はそんな怖がりで頑なであったローレンツを本心から可愛い、と言う。 一方で若い、というか今のローレンツの目から見れば幼いクロードはとにかく魅力的だった。ローレンツの頬を撫でていた三つ編み、今と比べると少し華奢な身体、何と言っても頭の上から爪先まで舐めるようにローレンツを見ていたあの目付きが素晴らしい。あの目付きを昔は怖いと思っていたが、あれは自分を求める熱だ。あの熱を身体の内に受け入れることでしか味わえない快楽がある。 幼いクロード相手に先程のようなことをする必要があったかなかったか、で言えばする必要は全くない。同じく未来からやってきたクロードは今のお前が口付けのひとつでもくれてやって黙るように頼めばあっさり黙るだろう、としか言っていない。だがローレンツは幼い彼の熱を味わう望外の機会に恵まれてしまったのだ。 かつて人手不足の際に寝台の上でもう一人自分がいたらどうなるか、という益体のない話をクロードとしたことがある。その時のクロードはもう一人の自分と上手くやる自信がないと言い、ローレンツはきっと弟のように可愛がるだろう、と言っていたが実際は逆だった。自分であればこそ色々と粗が見えてしまう。ローレンツは勝手に取り出した新しい手巾で手についた灰を拭いた。年若い自分が暮らすこの部屋のどこに何があるのかなど当たり前だが手に取るようにわかる。ローレンツもこの部屋の主人だったからだ。 誰もいない空間で大あくびをするとローレンツは寝台の上に寝転がった。滲んだ涙を白い指の腹で拭う。元の時代に戻るための魔法陣が完成するまでの待ち時間は良い骨休めになりそうだった。敵襲も進軍も盗賊退治もない。枕はあったが頭の後ろで腕を組み、うとうとしていると扉の外から咳払いの音がした。自室の扉を外側にいる自分が叩くのもおかしな話ではあるから、中に人がいると分かっていても若い頃のローレンツは扉を叩けない。戻ってきた、と彼なりに工夫して知らせているのだろう。 本や書字板を小脇に抱えた制服姿の自分は寝台に寝そべったままのローレンツを見て目を丸くした。きっと咳払いで知らせたはずなのに何と不調法な、と思っている。 「野営よりはるかに楽だったがやはり腰が辛くてね、寝台で少し休ませてもらっているよ」 腰に負担がかかった理由は昨晩、床に寝転がっていたからではないのだがそれを若い自分が知る必要はない。何なら横たわって身体を休める必要すらなかった。 「それは……戻られてからすぐにまた身動きが取れるようにしておかねばなりません。僕はすぐに訓練場に戻りますのでどうかお寛ぎ下さい」 そういって過去の自分が開けた棚で、彼が何を取りに来たのかローレンツは察した。籠手だ。現在でも愛用している籠手は、この時点ではまだ人の血を吸っていない。好ましいと思っていた友人たちの亡骸を確認する日が来るとは夢にも思っていない若い自分に親切にしてやるとしたら……。 「近接戦闘の際にも籠手は役に立つ。素手で殴るより楽だからベレト先生から習うと良い」 「……未来ではそれほど追い詰められることがあるのですか?この僕が?」 騎馬職を目指している時期なので若い自分の疑問はもっともだった。将である自分が馬から降り、槍も魔法も使わず殴り合いをする羽目になるなど負け戦も同然なので想像したこともないはずだ。だが籠手をつけたまま相手を殴ると確実に怪我を負わせることができる。 「それと従士なしで籠手を外せるようになっておいた方が良い。それくらいクロードに振り回される」 手首を口に寄せるローレンツの姿を見て、胸元に籠手を抱えたままの若い自分の眉間に皺が寄った。口で紐を咥えるのが気に食わないのか、将来のクロードを貶されたような気がしたのか、はたまたその両方か。 「信じられません。少しだけお話しさせていただきましたが貴方のクロードがそんな頼りない方であるようには感じられませんでした」 頼り甲斐はあるのだ。だが三つ編みが可愛らしかった彼はとんでもない悪癖も身につける。戦で昂った心を落ち着けるために身体を重ねる際、クロードは勝手にどんどん他人の甲冑を外していく癖に籠手だけはわざと残す。クロードに怪我を負わせてしまうことを恐れたローレンツが動けなくなるよう、追い詰めてから身体を好き放題弄ぶことを好むようになるのだ。口や手だけならまだ良いのだが、伝書フクロウの羽まで持ち出すので助言してやっている。しかし怖がりで寝台の中の世界を知ろうとしない自分には通じない。 「訓練場に行かねばならない者相手に無駄口を叩いてしまったな」 「はい、クロードをしっかり支えられるように鍛錬を重ねることにします」 最後に発言すれば勝ちというわけでもないのに、若い自分は一方的に会話を打ち切り部屋を出ていった。優しくしてやれ、とクロードに頼まれたから将来、真に必要になることを教えてやったのに全く聞く耳を持っていない。きっとアリルの谷で未来の自分から言われたことを思い出すだろう。いや、思い出せないかもしれない。何せクロードに弄ばれると何も考えられなくなるのだから。畳む 小説,BL 2024/11/17(Sun)
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing
扉の隙間からそっと紙が差し込まれた。これまで聞こえてきた物音から察するに学生たちは皆、寮から出払っている。しかしそれでも念には念を入れて廊下に極力出ない方が良いだろうに、クロードは何をやっているのだろうか。腕を伸ばして拾い上げてみればそこにはクロードからの伝言が書かれていた。きっとローレンツが昨日黙っていろ、と怒ったからこんな手段を選んだのだろう。
《もう少し自分にも優しくしてやれ》
口の中で小さくファイアーの呪文を唱え、白い手のひらに乗せた紙を燃やす。如何にも、昔のローレンツにすっかり情が移っているクロードが言いそうなことだった。分かっていたことだが若い頃の自分はとにかく堅い。コナン塔で見たもののせいでもあるが一線を越え、自分が自分でなくなることが何よりも恐ろしかったから、若い頃の自分はこの時期のクロードに遊びのような口付けと甘い言葉しか与えなかった。だが人間は望んだ人を相手に純潔を失った程度で個を失ったりはしない。クロードに身体を割り開かれた後も、良いと感じるものも悪いと感じるものも変化しなかった。閉ざされた扉が開いたせいで好きなものが増えたことは確かだが。しかし彼はそんな怖がりで頑なであったローレンツを本心から可愛い、と言う。
一方で若い、というか今のローレンツの目から見れば幼いクロードはとにかく魅力的だった。ローレンツの頬を撫でていた三つ編み、今と比べると少し華奢な身体、何と言っても頭の上から爪先まで舐めるようにローレンツを見ていたあの目付きが素晴らしい。あの目付きを昔は怖いと思っていたが、あれは自分を求める熱だ。あの熱を身体の内に受け入れることでしか味わえない快楽がある。
幼いクロード相手に先程のようなことをする必要があったかなかったか、で言えばする必要は全くない。同じく未来からやってきたクロードは今のお前が口付けのひとつでもくれてやって黙るように頼めばあっさり黙るだろう、としか言っていない。だがローレンツは幼い彼の熱を味わう望外の機会に恵まれてしまったのだ。
かつて人手不足の際に寝台の上でもう一人自分がいたらどうなるか、という益体のない話をクロードとしたことがある。その時のクロードはもう一人の自分と上手くやる自信がないと言い、ローレンツはきっと弟のように可愛がるだろう、と言っていたが実際は逆だった。自分であればこそ色々と粗が見えてしまう。ローレンツは勝手に取り出した新しい手巾で手についた灰を拭いた。年若い自分が暮らすこの部屋のどこに何があるのかなど当たり前だが手に取るようにわかる。ローレンツもこの部屋の主人だったからだ。
誰もいない空間で大あくびをするとローレンツは寝台の上に寝転がった。滲んだ涙を白い指の腹で拭う。元の時代に戻るための魔法陣が完成するまでの待ち時間は良い骨休めになりそうだった。敵襲も進軍も盗賊退治もない。枕はあったが頭の後ろで腕を組み、うとうとしていると扉の外から咳払いの音がした。自室の扉を外側にいる自分が叩くのもおかしな話ではあるから、中に人がいると分かっていても若い頃のローレンツは扉を叩けない。戻ってきた、と彼なりに工夫して知らせているのだろう。
本や書字板を小脇に抱えた制服姿の自分は寝台に寝そべったままのローレンツを見て目を丸くした。きっと咳払いで知らせたはずなのに何と不調法な、と思っている。
「野営よりはるかに楽だったがやはり腰が辛くてね、寝台で少し休ませてもらっているよ」
腰に負担がかかった理由は昨晩、床に寝転がっていたからではないのだがそれを若い自分が知る必要はない。何なら横たわって身体を休める必要すらなかった。
「それは……戻られてからすぐにまた身動きが取れるようにしておかねばなりません。僕はすぐに訓練場に戻りますのでどうかお寛ぎ下さい」
そういって過去の自分が開けた棚で、彼が何を取りに来たのかローレンツは察した。籠手だ。現在でも愛用している籠手は、この時点ではまだ人の血を吸っていない。好ましいと思っていた友人たちの亡骸を確認する日が来るとは夢にも思っていない若い自分に親切にしてやるとしたら……。
「近接戦闘の際にも籠手は役に立つ。素手で殴るより楽だからベレト先生から習うと良い」
「……未来ではそれほど追い詰められることがあるのですか?この僕が?」
騎馬職を目指している時期なので若い自分の疑問はもっともだった。将である自分が馬から降り、槍も魔法も使わず殴り合いをする羽目になるなど負け戦も同然なので想像したこともないはずだ。だが籠手をつけたまま相手を殴ると確実に怪我を負わせることができる。
「それと従士なしで籠手を外せるようになっておいた方が良い。それくらいクロードに振り回される」
手首を口に寄せるローレンツの姿を見て、胸元に籠手を抱えたままの若い自分の眉間に皺が寄った。口で紐を咥えるのが気に食わないのか、将来のクロードを貶されたような気がしたのか、はたまたその両方か。
「信じられません。少しだけお話しさせていただきましたが貴方のクロードがそんな頼りない方であるようには感じられませんでした」
頼り甲斐はあるのだ。だが三つ編みが可愛らしかった彼はとんでもない悪癖も身につける。戦で昂った心を落ち着けるために身体を重ねる際、クロードは勝手にどんどん他人の甲冑を外していく癖に籠手だけはわざと残す。クロードに怪我を負わせてしまうことを恐れたローレンツが動けなくなるよう、追い詰めてから身体を好き放題弄ぶことを好むようになるのだ。口や手だけならまだ良いのだが、伝書フクロウの羽まで持ち出すので助言してやっている。しかし怖がりで寝台の中の世界を知ろうとしない自分には通じない。
「訓練場に行かねばならない者相手に無駄口を叩いてしまったな」
「はい、クロードをしっかり支えられるように鍛錬を重ねることにします」
最後に発言すれば勝ちというわけでもないのに、若い自分は一方的に会話を打ち切り部屋を出ていった。優しくしてやれ、とクロードに頼まれたから将来、真に必要になることを教えてやったのに全く聞く耳を持っていない。きっとアリルの谷で未来の自分から言われたことを思い出すだろう。いや、思い出せないかもしれない。何せクロードに弄ばれると何も考えられなくなるのだから。畳む