-horreum-倉庫

雑多です。
「crossing」5.
#クロロレ #完売本 #年齢操作 #crossing

 同一人物同士であれば、他の者に目撃された時にそっくりな親戚だと強弁することが出来るからしばらく世話になる、とかなんとか言ってきたくせに現在のローレンツの部屋に行くなんて、未来の自分はまるで言動が一致していない。身支度を整えた未来のローレンツはこちらへ戻ってきた未来のクロードの耳元に薄い唇を寄せて一言二言何か話した。
 この部屋で何も起きなかったような顔をしていた彼は用事が済んだのか、本来滞在するはずの部屋に戻っていった。初めてのことで長持ちしなかったからなんとか取り繕えたもののもし自分にもう少し堪え性があったらどうなっていたのだろう。
 未来の自分は勝手知ったる、という風情で寝台の上に程よくできた空間に座り込み、枕元に置いてある本を手に取っていた。
「ローレンツ、綺麗になっただろ」
 さきほどこの寝台で自分と彼が何をしたのか分かったとしても未来の自分は余裕綽々なのだろうか。殺されても文句は言えないので黙っておくが。
「正直驚いた。声かけに関して苦情を言ってた女子どもに未来のローレンツを見せてやりたいね」
 取り繕っても意味がない相手なのでクロードは素直に心境を吐露した。彼の圭角とも言える焦りがなくなっている。展開は早かったが焦燥感のようなものは全くなかった。
「気持ちはわからんでもないが、あいつらに見る目がなかったおかげで助かった面もあるぞ。分かってるだろ?不利な点がいくつもあるって」
 素直にローレンツの美を讃えた自分の姿を見て未来のクロードが苦笑する。そこは気になる点だった。家督を継ぐ子供を作れない同性同士である上に、クロードにはもうひとつひた隠しにしている秘密があった。
「なあ、あんたのローレンツは全部知ってるのか?」
 クロードに天国を見せてくれた彼は既にクロードの正体を暴いたのだろうか?
「黙秘する」
「一番気になるところなんだけどな」
 おどけて見せたが当然、未来の自分には通用しない。寝台を乗っ取った未来の自分の値踏みするかのような視線が刺さる。緑の瞳が故郷で忌み嫌われたのも分かるような気がした。それだけに真正面から見つめ返してくるローレンツの存在がありがたい。
「ひとつだけ言っておく。この先は今のお前には想像もつかないような厄介なことしか起きない。格好をつける余裕も取り繕う余裕もない。死力を尽くすことだ」
「葬式出したのか?」
「黙秘する」
 だが彼が身につけている外套を見れば明らかだ。未来の自分は祖父のオズワルドを看取っている。元服した際に切り落とした三つ編みは母の元に届いたのだろうか。それもきっと教えてもらえない。未来の自分の言葉を聞いて何も聞き出せない、と悟ったクロードは本をどかして椅子に座りその上で胡座をかいた。そう言えば今晩はどちらが床に寝るのか決めていない。昨晩は間借りする身だからな、と言って未来の自分が床に寝ている。
「何にも言う気はないんだな!まあいいや。今日は俺が床に寝るよ」
「寝台を譲られても言えないことは言えないからな」
 翌朝、特に何かしくじった覚えもないのだが若いローレンツがクロードの部屋にやってきた。寝台に座り込んでいる未来のクロードを見て正式な礼をしている。
「俺が盟主になったら俺にもそれやってくれるのか?」
「では礼を尽くしたくなるような実績を積みたまえ」
 どうやらローレンツは未来のクロードへ朝の挨拶をするために来たらしい。コナン塔で遺産が暴走しシルヴァンの兄マイクランが命を落とした時、眠れないと縋ってきたローレンツの予想から外れたことをして以来、クロードは警戒されている。学生のうちにそんなふしだらなことはしてはならない、と言うのが彼の主張だ。鷹揚に構えて挨拶を返す未来の自分はどんなエグいことをやってローレンツをあんな風にしたのか。そもそもどうやって一線を越えたのか。
「昔の俺はともかくローレンツが講義に遅れたら大変だ。そろそろ行ったほうが良い」
 年上の自分が言う通り始業時間が近く、皆教室や訓練場へむかったのか教室へ向かう廊下にはほとんど人は居なかった。ローレンツに急ぎ足で歩かれると追いつくのがクロードには中々難しい。小走りで追いつきながらうぶな恋人に話しかける。
「お前随分と綺麗になるんだな、びっくりしたよ」
「今の僕では不満かね」
 クロードの言葉を聞き白い眉間に皺が寄った。険のある表情は二人が出会ったばかりの頃を思い起こさせる。クロードは未来の自分を見た時の感想が無理をして偉く見せようとしている、でしかなかったが未来のローレンツを見た時の感想は口から生まれてきたと言われているにも関わらずワーオ、の一言だ。
「いや、そんなことないさ」
 クロードは人目がないのを良いことにローレンツの白い手を手に取った。こうすれば同じ早さで歩くことができる。
「すまない。確かに外見は僕の目指す理想に近かったがなんと言うか四角四面で」
 基本、ローレンツは自分に厳しい。そうやって掲げた理想の姿に近づこうとしているから仕方ないのだが、現在の自分と未来の自分がいるという異常事態においては未来の自分からの目線が厳しいものになる。兄弟関係、特に異母兄シャハドとの関係に悩んだクロードからしてみれば羨ましい限りだが、彼は長子で兄や姉というものを知らず、弟や妹との関係は良好だと聞く。
 どうやら未来の自分たちは口裏を合わせている。そっくりな親戚ということで誤魔化せる、という主張をローレンツも聞いたはずだ。きっと年上の兄に甘えてみたかったのに、未来の自分相手にそれが叶わず少し拗ねている。あの懐き方からいって未来の自分は現在のローレンツを甘やかしたのだろう。
「ただすごく未来が楽しみだなと思っただけだよ」
 クロードが親指の腹で白い手のひらの真ん中に小さく円を描くと歩みが止まった。見上げてみれば白い顔は赤く染まっていふ。数年後にはあんな妖艶な雰囲気になるというのに、たったこれだけの触れ合いでこんな風になるというなら初体験の時にはどんなことになるのか。クロードには想像もつかない。
「え……あ、急ごう!クロード、走らないと本当におくれてしまう!」
 ほんの数秒の触れ合いの後、手は振り払われた。未来の彼に至るまでの道筋が全く想像できない。ローレンツが本気で走ったのでクロードも三つ編みを揺らして本気で走るしかなかった。教室へ走って入り込めば頬の赤みは走ったから、と言うことで誤魔化せるだろう。畳む