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雑多です。
「説明できない」
初版の表紙
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台詞抜粋
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紅花ルートで戦死した記憶のあるクロードと蒼月ルートで戦死した記憶のあるローレンツが翠風ルートで出会ってなんとか2人揃って生き残ることはできないか?と協力していく話です。
1.振り出し
#説明できない #クロロレ #完売本 #表紙 #台詞まとめ

 クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始め───それがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。
 生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのがシャハドやその取り巻きではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。

 もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す一条の光に照準が合った瞬間、クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した際は呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのか、それと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが、行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。
 山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履いていないらしい。関節も痛みなく動かすことができた。再び一度耳を澄ませたが物が燃える音もクロードの他に人がいる気配も感じない。もう体を動かしてあたりを確かめても良いだろう。そう考えたクロードが身を起こすと寝台に乗せてあった本が大きな音を立てて床に落ちた。
 ガルグ=マクで寮生活を送る者は皆、朝日の光に眠りを遮られないように寝る前に雨戸を閉める。しかしクロードの部屋の雨戸は少し合わせが悪く隙間から光が差し込む。その形は忘れようがない。クロードが子供でいられた最後の一年間、毎朝見ていたものなのだ。室内履きなどは履かず裸足のまま窓に近寄り雨戸を開ける。クロードの目の前に広がったのは士官学校の敷地だった。エーデルガルト達が捕虜を捕らえるにしても、クロードにとって庭のようなこの場所に留め置いて何の利があるのだろうか。明るくなった室内を眺めると身嗜みを整える為、壁に掛けておいた鏡が目に入る。鏡の中の自分はまだ頬髭もなく三つ編みが編めるほど前髪が長かった。当たり前だが頬を触ってみても髭の感触はない。椅子には士官学校の制服と級長の証である黄色い外套が掛けられていた。手に取って見てみればまだ子供の頃の細い身体に合わせて仕立ててある。
「嘘だろ……」
 クロードは一人虚空に向かって呟いた。
───
 ローレンツが最後に見たものは破裂の槍を構えるシルヴァンだった。五年間行方不明だったベレトが姿を表し、ガルグ=マクがファーガスの拠点となってから膠着していた戦況が動き始め───それが帝国にとって望ましいものでなかったのは言うまでもない。
 フェルディナントがキッホルの紋章を、ローレンツがグロスタールの紋章を持っているからと言う理由でミルディン大橋の防衛を任された。何も不自然なところはない。だがその命令には恐ろしいほどの悪意が込められていた。それでもシルヴァンがいるなら後を任せられる。最後に感じたのは頬に落ちる彼の涙だった。
 遠くで何かが崩れる音がしてローレンツは意識を取り戻した。戦場で意識を取り戻した際はまず呼吸が出来るか確かめるように言われている。肺から喉に逆流した血が溜まっていた筈だが咽せることなく呼吸が出来た。山鳥の囀りが聞こえ頬には冷えた空気を感じる。五感のうち聴覚と触覚は無事であるらしい。付近に人の気配が感じられなかったのでローレンツは思い切って瞼を微かに上げてみた。
 部屋の中は薄暗く何がどこにあるのかよく分からない。寝返りを打ってもどこも体に痛みを感じなかった。手足の指は全て揃っており腕も足も動く。身体を起こした時、部屋の外からシルヴァンとフェリクスの話し声が聞こえた。自分は捕虜になったのだろうか。身代金はいくらなのだろう。頭を振って起き上がると伸ばした筈の髪の毛の感触がない。触ってみれば士官学校時代と同じ長さになっていた。
 治療の際に切られたのかもしれないと思い、頭を触ってみたが特に怪我もない。大怪我を白魔法で一気に治すと帳尻合わせのように拒否反応が出る。人によってまちまちで、吐く者もいれば体温や気温に関係なく寒気に襲われ毛布が手放せなくなる者もいた。ローレンツの場合は目眩なのだが目が回っている感覚はない。ローレンツは光源にして部屋の様子を伺う為ファイアーの呪文を唱えて魔法陣を出現させた。丸い緑の光がうっすらと室内を照らしていく。見覚えがあるものばかりが目に入りローレンツは絶句した。もう光源など必要ない。起き上がり寝台の脇が定位置の室内履きに足を突っ込んで暗い室内の中、窓に向かって直進する。手を伸ばして雨戸を開け、陽の光の元で振り返ってみればそこには魔道学院にいた頃、買い求めた三段重ねの給茶器があった。
「何が起きたのだ……?」
 ローレンツは一人虚空に向かって呟いた。



 士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度を整え、訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその三人のように日の出と同時には起きない。
 ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけ、ローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。
「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」
 そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。
「情熱的な夜を過ごしたのかね」
 呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。
「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」
 フェリクスの発言を受けてローレンツは頭の中で暦をめくった。どうやらガルグ=マクに来たばかりの時期らしい。今思えばあの時、行方不明となってその後ずっと姿を表さなかった教師には帝国の息がかかっていたのだろう。本当ならそこに後任としてイエリッツァが潜り込むはずだったのだ。信頼を得て油断したところでディミトリ本人は無理でも、シルヴァンかフェリクスを暗殺できれば五年後の蜂起自体が不可能になる。
「だから山小屋の娘さんとだな……」
「こちらはまだ雪がないんだ。それならどうとでもなるのを知っているくせに白々しいな、お前は」
 まだフェルディアで政変は起きていない。辛うじて体裁を保てているファーガスの若者たちは傷ついていたが、五年後を知るローレンツから見ればまだ子犬のような幼気盛りだった。
「初めての合同演習なのだから瑕疵がないようにしたいものだ」
 そしてそこでディミトリが彼に選ばれるのだろう。あの時は我が身を引き換えにしてもグロスタール家とグロスタール領しか救えなかった。だがエーデルガルトの悪意を知る今、この時期からやり直せるならば今度こそ、あの戦争が終わるまで自分の足で立っていられるかもしれない。ローレンツは朝食をとり周囲を確かめるため、まだ言い争う二人を置いて食堂へと向かった。
───
 クロードは数年ぶりに前髪を編んだ。中途半端に荷解きをしたらしく、混沌としていた部屋は見なかったことにして制服を身につけ扉を開ける。そこにはちょうど世間話が終わったらしいローレンツ、シルヴァン、フェリクスがいた。五年後のローレンツは対帝国の防衛戦に出陣できない。グロスタール伯とクロードの方針が合致したからだ。シルヴァンとフェリクスは即位したディミトリによく従い、王国西部での戦いで武名を上げていた。だが今は三人ともそんな未来が待っているとは知らない。
「おはよう、クロード。今日は合同演習だな」
 野盗に襲われ命からがら逃げ出した先で、ジェラルドとベレスに助けられたクロードは五年後ベレスに殺されるのだ。
「そうだな、つつがなく終えたいもんだ」
「僕も尽力しよう」
 クロードの記憶によればこの時期のローレンツはもっと食ってかかってきた印象がある。食堂に向かって歩きながら白い横顔を観察したが、まだそこに悪意や苛立ちはない。新しい環境への期待や素直な好奇心がある。母国の王宮に巣食う者たちに比べればフォドラの人々はまだ素朴だ。しかし、望む姿さえ見せればどうとでも操れる、と言う思いあがりのせいでクロードは命を失っている。
 ローレンツは言葉通り野営の準備に尽力した。背嚢の数、中身を全て確認してくれたのでクロードは安心して地図を眺めることが出来た。歴史と伝統を誇る士官学校が長年使い続けている経路と野営地だが近年では油断できない、とパルミラの密偵たちはいう。ダスカーの悲劇以降、統治能力を失いつつあるファーガスでは野盗にまで落ちぶれる者も多く治安が悪化していた。三国の国境地帯でもあるガルグ=マクは当然ファーガスとも国境を接している。そこから野盗が入り込むことは当然予想出来た。
 事前に密偵からの警告があったのでクロードはあの時も万が一に備えて地図を眺めていた。今回もまた野盗の襲撃があるなら別の村に助けを求めた方が良いのかもしれない。そう考え、改めて地図を眺めてみたが期待外れだった。かなり詳細なはずのこの地図ですら徒歩で行けそうな村があのルミール村しか載っていない。丹念に探せば集落があるのだろうが、その規模の集落に助けを求めたところで自分を信じてくれた同級生は命を落としてしまうだろう。
「クロード、全員準備が整ったぞ」
「ローレンツくんが殆どやってくれたから助かっちゃった!」
 そう言ってにこやかに笑うヒルダに真の名すら教えなかったと言うのに、彼女はクロードの命を救うため、デアドラで命を落とした。皆の命を救うために自分に出来ることはなんだろうか。畳む