「説明できない」3.初戦 #説明できない #クロロレ #完売本 続きを読む 三学級対抗の模擬戦はクロードたちの勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦がなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するか、ベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすな、という意味なのか気高い倫理観の持ち主なのか、まだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら、武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。 母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄たちが王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの瞳にも山の緑は眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の瞳を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。 「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」 「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいるかご存知ですか?」 ベレトは神出鬼没で授業と食事時以外は何処にいるのか全く見当がつかない。 「忙しくて探していられないから君に頼んだのだ」 セテスにも面倒事を誰かに押し付けるような人間らしさがあったということだ。クロードは記憶力が良い方だと自負している。故にここ一節ほどは記憶と現実の食い違いに驚いていた。最も大きいのは担任教師の性別と模擬戦の勝敗で、細かな違いを挙げればきりがない。その度に過去の自分は何を見ていたのだろうかと思う。 士官学校は修道院の中にあるので、学生寮や校舎以外の施設には修道士やセイロス騎士団の者たちが闊歩している。とりあえず目についた顔見知り全てに片っ端から声をかけていく。食堂にいた、市場にいた、訓練場にいた、と言った具合に皆言うことが異なる。 訓練場に行くとエーデルガルトが斧を、ディミトリが槍を振り回していた。それぞれの従者であるヒューベルト、ドゥドゥが着替えや水を用意して傍に控えている。ディミトリとドゥドゥがこの場に居てくれるお陰で身構えずに済む。クロードは内心でファーガスの大男たちに感謝した。 「クロードも混ざるか?」 「あら珍しい。クロードじゃない」 報告書には明記されていなかったが彼女の振るうアイムールがジュディッド、イグナーツ、レオニーの命を奪ったのかもしれない。 「皆、精が出るな。セテスさんに頼まれてベレト先生を探してるんだが」 「先程までこちらにいらっしゃったのだが、昼食用の魚を釣りたいと言って出ていってしまった」 ダスカー出身であるドゥドゥの話し方はクロードにとって分かりやすい。歴史を誇る古都アンヴァルの名家出身であるヒューベルトの言葉は丁寧すぎて分かりにくいのだ。自領とアンヴァルを行き来して育っているリンハルト、カスパル、フェルディナント、ベルナデッタの言葉は普通なのでそれが彼の個性なのだろう。 「釣果に恵まれなければ長居なさっていることでしょう」 つまりヒューベルトはさっさと行かねばまたすれ違う、と言いたいのだ。いちいち意図を読まねばならないので彼と話していると甘いものが欲しくなる。クロードは四人に礼を言い、走って釣り堀に向かうとベレトがしゃがみ込んで犬の腹をなでていた。動物が好きで釣りが上手いのはベレスと同じらしい。魚籠の中にはそこそこの大物が入っている。 「先生、セテスさんが呼んでいた。俺と一緒に来いと言っている」 ベレトは執務室に行く前に食堂に魚を預けた。確かに魚籠を持ったままでは中の魚が傷んでしまうだろう。 執務室で告げられたのは奉仕活動についてだった。あくまでもセイロス騎士団の補佐だが盗賊討伐に当たれという。 「先生は新兵をたっぷり引き連れて戦場へ行ったことがあるか?」 クロードの質問に普通ならうんざりした表情を浮かべる筈だが、首を横に振るベレトの顔からはなんの表情も読み取れなかった。 「ジェラルドは腕が立つ者以外傭兵団に入れなかった」 傭兵団は訓練機関ではないので当たり前と言えば当たり前の話だった。だが士官学校は違う。そもそも入学前に出来なかったことを出来るようになりにいくのが学校だ。 「そりゃそうだよな、俺たちまずは騎士団の足を引っ張らないようにしないと。ちょっと装備を確かめてくる」 武器庫へ行こうとしたクロードは急にベレトから首根っこを掴まれた。 「食べられるのに食事を抜くのは良くない」 クロードは食への拘りをあまり表に出していない。詳しく語りすぎれば国外で育っていることが明るみに出てしまう。だが食事を抜くのもまた悪目立ちするのも事実だ。さっそくベレトに嗜められているし、ラファエルやローレンツに気付かれればもっと大きな騒ぎになるかもしれない。 クロードはベレトに勧められるがまま彼が釣った魚で作られたパイクの贅沢グリルを平らげた。 クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題である、と告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で、入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重だった。毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけて皆に知らせている。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえ、どこで戦うのかが気になっていたらしい。 出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆の元にベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。 「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」 そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来、やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者たちにとっては本当にありがたい。 修道院の敷地を出るまでは皆、はしゃいでいたがザナドが近づくにつれて口数が少なくなってきた。静かになったところを見計らったベレトが学生たちの間を縫って声をかけて回っている。一度戦闘が開始されたら終わるまでまともに会話などできない。 「ローレンツ、ラファエルと一緒に前衛を担当してくれ」 「引き受けた」 「だが最初は攻め込まなくていい。二人とも大きくて目立つからな。ぎりぎりまで敵を引き寄せてイグナーツとクロードの一射目を待ってから攻撃するんだ」 ローレンツにはベレトの意図が読めなかった。何故こちらから攻撃しないのだろうか。 「囮になれと?」 「囮というか脅迫の種だな。一射目を当てなければ前衛の二人が攻撃されるのだから当てなくては〝ならない〟」 ベレトは顔の横に両手をあげて人差し指と中指をくいくいと折り曲げている。引用符のつもりらしい。しかし顔は真顔のままなので凄まじい違和感だ。 「そんなことは自明の理ではないか」 「誰かが遠方から射られてそこから戦端が開く。だが自分の手で戦端が開かれることに耐えられる者の方が少ない」 だから一射目は無意識に外してしまう者が多いのだという。しかし前衛を守るためにイグナーツもクロードも必ず敵に当てなくては〝ならない〟。弓での援護を受けながら前進すれば相手は怯む。ローレンツはベレトのあだ名が何故、灰色の悪魔であるのかわかったような気がした。彼なりに新兵の教育と生存率向上を考えた結果なのだろうが、とにかくえげつない。これが危険な現場を渡り歩いてきた者の感覚なのだろう。 「なるほど、だが僕はクロードと親しくないぞ」 だがイグナーツとラファエルは元より友人同士なので有効だ。よく考えられている。 「一緒に戦っていくうちに親しくなる。というか親しくならざるを得ない。小規模な戦闘には参加したことがあるのだろう?ラファエルを頼んだぞ」 そう言うとベレトは剣帯を鳴らしながら駆け足でイグナーツの方へ向かっていった。ローレンツには五年間の記憶があるので素直に受け入れることが出来たが、いきなりこんな事を言われた他の者は何を思うのだろうか。 ザナドに到着してみればまず橋を渡らねばならなかった。ベレトの読みは見事に当たり、猛り狂う盗賊たちは突出したローレンツとラファエルに突進してくる。谷に籠っていては勝ち目のない盗賊たちはほんの少しであろうとセイロス騎士団側の戦力を削れるのではないか、と言う期待に縋っていた。だがまだ堪えねばならない。ローレンツたちの後方から矢羽が風を切る音がして前方からは人が倒れ込む音や呻き声がした。 「前回は不意を突かれちまったが……ま、盗賊なんてこんなもんか」 そう呟いたクロードの放った矢は倒れ込んだ盗賊の口の中に刺さっている。リーガンの紋章の力が成し遂げたのか、仲間への愛着が成し遂げたのかローレンツには分からない。イグナーツは一撃必殺といかなかったようだが、それでもこちらの矢は全て敵に損害を与えている。見事だ、と思いながらローレンツは矢傷に苦しむ盗賊に槍で引導を渡してやった。 「民の暮らしを守るのが貴族の責務……。恨まないでくれたまえよ」 ベレトの指示通り偽りの希望を与えて誘い出し、敵の戦力を削っていくと盗賊の首領コスタスが最後にただ一人取り残された。ここまで上手くいくならこの場ではやり方を変えることはない。叫びながら斧を振り回しているコスタスにクロードが矢を番えた。敵を油断させるために後ろを向いていたのでローレンツは初めて戦場で彼の顔を眺めている。 「貴族には貴族の苦労があるんだよ。俺もつい最近知ったんだがな」 いつも彼の周りに漂い、正体を隠そうとする靄がない。真のクロードの姿がそこにある、ローレンツはそう感じた。畳む 小説,BL 2024/11/16(Sat)
#説明できない #クロロレ #完売本
三学級対抗の模擬戦はクロードたちの勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦がなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するか、ベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすな、という意味なのか気高い倫理観の持ち主なのか、まだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら、武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。
母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄たちが王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの瞳にも山の緑は眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の瞳を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。
「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいるかご存知ですか?」
ベレトは神出鬼没で授業と食事時以外は何処にいるのか全く見当がつかない。
「忙しくて探していられないから君に頼んだのだ」
セテスにも面倒事を誰かに押し付けるような人間らしさがあったということだ。クロードは記憶力が良い方だと自負している。故にここ一節ほどは記憶と現実の食い違いに驚いていた。最も大きいのは担任教師の性別と模擬戦の勝敗で、細かな違いを挙げればきりがない。その度に過去の自分は何を見ていたのだろうかと思う。
士官学校は修道院の中にあるので、学生寮や校舎以外の施設には修道士やセイロス騎士団の者たちが闊歩している。とりあえず目についた顔見知り全てに片っ端から声をかけていく。食堂にいた、市場にいた、訓練場にいた、と言った具合に皆言うことが異なる。
訓練場に行くとエーデルガルトが斧を、ディミトリが槍を振り回していた。それぞれの従者であるヒューベルト、ドゥドゥが着替えや水を用意して傍に控えている。ディミトリとドゥドゥがこの場に居てくれるお陰で身構えずに済む。クロードは内心でファーガスの大男たちに感謝した。
「クロードも混ざるか?」
「あら珍しい。クロードじゃない」
報告書には明記されていなかったが彼女の振るうアイムールがジュディッド、イグナーツ、レオニーの命を奪ったのかもしれない。
「皆、精が出るな。セテスさんに頼まれてベレト先生を探してるんだが」
「先程までこちらにいらっしゃったのだが、昼食用の魚を釣りたいと言って出ていってしまった」
ダスカー出身であるドゥドゥの話し方はクロードにとって分かりやすい。歴史を誇る古都アンヴァルの名家出身であるヒューベルトの言葉は丁寧すぎて分かりにくいのだ。自領とアンヴァルを行き来して育っているリンハルト、カスパル、フェルディナント、ベルナデッタの言葉は普通なのでそれが彼の個性なのだろう。
「釣果に恵まれなければ長居なさっていることでしょう」
つまりヒューベルトはさっさと行かねばまたすれ違う、と言いたいのだ。いちいち意図を読まねばならないので彼と話していると甘いものが欲しくなる。クロードは四人に礼を言い、走って釣り堀に向かうとベレトがしゃがみ込んで犬の腹をなでていた。動物が好きで釣りが上手いのはベレスと同じらしい。魚籠の中にはそこそこの大物が入っている。
「先生、セテスさんが呼んでいた。俺と一緒に来いと言っている」
ベレトは執務室に行く前に食堂に魚を預けた。確かに魚籠を持ったままでは中の魚が傷んでしまうだろう。
執務室で告げられたのは奉仕活動についてだった。あくまでもセイロス騎士団の補佐だが盗賊討伐に当たれという。
「先生は新兵をたっぷり引き連れて戦場へ行ったことがあるか?」
クロードの質問に普通ならうんざりした表情を浮かべる筈だが、首を横に振るベレトの顔からはなんの表情も読み取れなかった。
「ジェラルドは腕が立つ者以外傭兵団に入れなかった」
傭兵団は訓練機関ではないので当たり前と言えば当たり前の話だった。だが士官学校は違う。そもそも入学前に出来なかったことを出来るようになりにいくのが学校だ。
「そりゃそうだよな、俺たちまずは騎士団の足を引っ張らないようにしないと。ちょっと装備を確かめてくる」
武器庫へ行こうとしたクロードは急にベレトから首根っこを掴まれた。
「食べられるのに食事を抜くのは良くない」
クロードは食への拘りをあまり表に出していない。詳しく語りすぎれば国外で育っていることが明るみに出てしまう。だが食事を抜くのもまた悪目立ちするのも事実だ。さっそくベレトに嗜められているし、ラファエルやローレンツに気付かれればもっと大きな騒ぎになるかもしれない。
クロードはベレトに勧められるがまま彼が釣った魚で作られたパイクの贅沢グリルを平らげた。
クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題である、と告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で、入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重だった。毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけて皆に知らせている。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえ、どこで戦うのかが気になっていたらしい。
出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆の元にベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。
「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」
そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来、やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者たちにとっては本当にありがたい。
修道院の敷地を出るまでは皆、はしゃいでいたがザナドが近づくにつれて口数が少なくなってきた。静かになったところを見計らったベレトが学生たちの間を縫って声をかけて回っている。一度戦闘が開始されたら終わるまでまともに会話などできない。
「ローレンツ、ラファエルと一緒に前衛を担当してくれ」
「引き受けた」
「だが最初は攻め込まなくていい。二人とも大きくて目立つからな。ぎりぎりまで敵を引き寄せてイグナーツとクロードの一射目を待ってから攻撃するんだ」
ローレンツにはベレトの意図が読めなかった。何故こちらから攻撃しないのだろうか。
「囮になれと?」
「囮というか脅迫の種だな。一射目を当てなければ前衛の二人が攻撃されるのだから当てなくては〝ならない〟」
ベレトは顔の横に両手をあげて人差し指と中指をくいくいと折り曲げている。引用符のつもりらしい。しかし顔は真顔のままなので凄まじい違和感だ。
「そんなことは自明の理ではないか」
「誰かが遠方から射られてそこから戦端が開く。だが自分の手で戦端が開かれることに耐えられる者の方が少ない」
だから一射目は無意識に外してしまう者が多いのだという。しかし前衛を守るためにイグナーツもクロードも必ず敵に当てなくては〝ならない〟。弓での援護を受けながら前進すれば相手は怯む。ローレンツはベレトのあだ名が何故、灰色の悪魔であるのかわかったような気がした。彼なりに新兵の教育と生存率向上を考えた結果なのだろうが、とにかくえげつない。これが危険な現場を渡り歩いてきた者の感覚なのだろう。
「なるほど、だが僕はクロードと親しくないぞ」
だがイグナーツとラファエルは元より友人同士なので有効だ。よく考えられている。
「一緒に戦っていくうちに親しくなる。というか親しくならざるを得ない。小規模な戦闘には参加したことがあるのだろう?ラファエルを頼んだぞ」
そう言うとベレトは剣帯を鳴らしながら駆け足でイグナーツの方へ向かっていった。ローレンツには五年間の記憶があるので素直に受け入れることが出来たが、いきなりこんな事を言われた他の者は何を思うのだろうか。
ザナドに到着してみればまず橋を渡らねばならなかった。ベレトの読みは見事に当たり、猛り狂う盗賊たちは突出したローレンツとラファエルに突進してくる。谷に籠っていては勝ち目のない盗賊たちはほんの少しであろうとセイロス騎士団側の戦力を削れるのではないか、と言う期待に縋っていた。だがまだ堪えねばならない。ローレンツたちの後方から矢羽が風を切る音がして前方からは人が倒れ込む音や呻き声がした。
「前回は不意を突かれちまったが……ま、盗賊なんてこんなもんか」
そう呟いたクロードの放った矢は倒れ込んだ盗賊の口の中に刺さっている。リーガンの紋章の力が成し遂げたのか、仲間への愛着が成し遂げたのかローレンツには分からない。イグナーツは一撃必殺といかなかったようだが、それでもこちらの矢は全て敵に損害を与えている。見事だ、と思いながらローレンツは矢傷に苦しむ盗賊に槍で引導を渡してやった。
「民の暮らしを守るのが貴族の責務……。恨まないでくれたまえよ」
ベレトの指示通り偽りの希望を与えて誘い出し、敵の戦力を削っていくと盗賊の首領コスタスが最後にただ一人取り残された。ここまで上手くいくならこの場ではやり方を変えることはない。叫びながら斧を振り回しているコスタスにクロードが矢を番えた。敵を油断させるために後ろを向いていたのでローレンツは初めて戦場で彼の顔を眺めている。
「貴族には貴族の苦労があるんだよ。俺もつい最近知ったんだがな」
いつも彼の周りに漂い、正体を隠そうとする靄がない。真のクロードの姿がそこにある、ローレンツはそう感じた。畳む