-horreum-倉庫

雑多です。
「flow」第2部 6.嘘がつけないローレンツ
#完売本 #クロロレ #flow #フェルディナント #リンハルト #現パロ
※ベレトとリンハルトが書類上の結婚をする描写があります。

 縦か横かそれが問題だ。ベレトが実際に見なければ答えの出ない難問に頭を支配され、椅子の上で膝を抱えてうたた寝をしているといつものようにローレンツがやってきた。
「そうそう、この間言っていた探し物だがクロードが見つけてくれた。排水管の奥に引っかかっていたよ」
 そう言って彼は左手の甲を見せた。薬指には石が二つ嵌まった指輪が光っている。クロードとローレンツは愛を証明するはずの物を利用してまで檻の中のベレトに答えを持ってきてくれた。
 星が二つならレリーフは横長だ。今以上に教え子たちに負担をかけることになるが仕方ない。甘えさせてもらおう。ベレトは唯一使用が許可されているペグシルを鎖で拘束されていない左手に持ち、レイピアに見立てて何度か素振りをした。
「婚約指輪、見つかって良かったな。俺も嬉しいよ」
 恩師の腕が空気を切る音を聞いたローレンツが驚いて目を見開く。何故そんなことを、と質問しようと口を開いた瞬間、柔らかなペグシルが合金製の扉に突き刺さった。
「やはり柔らかすぎるな。ローレンツ、壊れても惜しくないボールペンをくれ」
 目の前の光景に呆気にとられたのか、ローレンツは素直に銀行で貰ったロゴ入りのボールペンをベレトに渡してくれた。これなら大丈夫だろう───ベレトは一歩踏み出し再度、合金製の扉を鋭く突いた。その背にフォドラの人々ならば誰もが知る炎の紋章が浮かぶ。それは統一フォドラの象徴で、千年の時を経た今も公文書や旅券の表紙に必ず印されていた。

 若草色の髪に若草色の瞳をした王が天帝の剣を振るうとその背に炎の紋章が浮かんだと言う。

 警報が鳴り響く中、扉には先ほどとは比べ物にならない深さの穴が穿たれた。顔を近づけて覗き込めばそこから廊下の様子が伺えるだろう。ローレンツは全く予想していなかった恩師の行動と常識を超えた結果に唖然とした。危ないことはしないでくれ、と止めるべきなのに体が強張ってしまったのか椅子から立ち上がることすら出来ない。
 マジックミラー越しに監視していた捜査官が慌ててベレトとローレンツのいる部屋に飛び込んできた。警報でよく聞こえないが、駆け足の音は他にも複数したのでこの数十秒の間に完全に包囲されただろう。
「やはりアガルタの手のものか!」
 壊れた扉から真っ先に飛び込んできた捜査官がベレトを怒鳴りつけた。眼前に立つものが千年生きている可能性とアドラステア帝国最後の皇帝であったエーデルガルト=フォン=フレスベルグのように炎の紋章を植え付けられた何者かである可能性を天秤にかけて後者が勝ったらしい。ベレトはぶつぶつ言いながら体を折り曲げ、伸びきったシャツの裾から鎖を付けられていない左手を入れて何かを探っている。不自然な角度に腕を曲げると彼は左胸から何かを剥がした。
「あんなコストの高い魔法を使う必要はないんだ。ある程度の魔力と電磁気を感知したら無意識でもサンダーを発動する、と術式で設定すれば医療機器は壊し放題だからな」
 ローレンツも含め、ベレトの周りにいる全ての人々が呆気にとられていた。ベレトは目を細め衝撃で瞬きが止まらなくなっているローレンツの頬を何度か指ですうっと撫でた。
「婚約おめでとう。我がことのように嬉しいよ。どんなことがあっても二人できちんと話し合えば乗り越えられる。だからそれは幸せを諦める理由にも恐れる理由にもならないよ。お幸せにな」
「先生、今はそんな話をしている場合では……」
 武装した宗教警察の捜査官に囲まれているのに全く気にしていない。ローレンツの頬を撫でたベレトの手はすっと下がり、人差し指がクロードから贈られた左手の指輪をつつく。恩師のちぐはぐな言動をどう解釈すべきか、ローレンツが必死で考えているとベレトは胸元から剥がした魔法陣を破いて足元に捨てた。
「これでもう俺は検査機器を壊せない。この子の安全と自由が保障されるなら検査を受ける」
 その言葉を聞いた捜査官がまずベレトを確保するのに邪魔なローレンツの肩を掴み、乱暴に扉の外へと押し出した。廊下に控えていた他のものたちに苦情を言ってやりたかったが、これ以上ここにいてもベレトのためにしてやれることが何もない。
 それよりもローレンツは混乱した現場から離れてクロードと一刻も早く会わねばならなかった。ベレトがローレンツの頬にリンハルトの名を書いたからだ。ローレンツはリンハルトの連絡先を知らないがクロードなら知っている。
 ローレンツは慌てて入り口付近の守衛室へ向かった。無人になっていたので勝手に自分のスマートフォンを取り戻し電源を入れる。ローレンツはショートカットに登録してあるクロードの電話番号を震える指でタップした。

 取り調べが終わったベレトは検査を受けるため、とある病院の特別室に入院していた。彼は一日のほとんどを眠って過ごすようになったので、各種の検査は彼が眠っている間に実施されている。彼の心臓の紋章石が確認されるとすぐにザナドにある大司教レアの亡骸を納めた棺の調査許可が下りた。
 彼女の亡骸が傷むことがなく、千年の時を経ても埋葬された時のままの姿を保っていたこともベレトの供述に説得力を与えた。レアの体細胞も採取、研究されることになった。過去のものとしてならヒトと白きものは上手くやれるのかもしれない。
 ベレトが天帝の剣を千年ぶりに握り、一度振るっただけで耐久テスト用の建物を倒壊させるとその様子を見た学者たちは彼が統一王本人である、と結論づけた。現在は混乱が少ない形で公表するための調整を進めている。
 天帝の剣を取り出すために開かれたレアの内棺にはヒトから万が一見られた時に備え、地上世界と地下世界の構成を著した縦長の表相図である、と言い逃れが出来る程度には簡略化されたコックピットのレリーフが彫り込まれていた。ザナドの墓地に安置された棺のうち、二重構造になっているものは全て内棺に似たような意匠が施されていた。
 モリブデンが豊富な、おおいぬ座方面にある惑星からこの星に降り立った女神ソティスは生命を生み出し、アガルタの民によって汚された大地を癒すと長い眠りについた。現生人類から見れば神の如き存在である白きものたちも二度と戻ることができない故郷を偲んで見えない筈の星を絵に描き込んでしまったり、孤独で精神を病んだり破壊衝動に苦しんだりとなかなか人間らしいところがある。
 ベレトは最初、ヒトとしての父ジェラルドが教会に不審を抱いていたこともあり、教会や白きものたちへの不信感でいっぱいだった。だがこうして彼らなりの弱味を見せられると親近感がわく。彼らも悲しみ、迷い時には間違え、ありえない妄想へ逃避もすることもあった。安らかに眠っていて欲しいと思う。
 何の根拠もない話だが連星をそのまま描く危険性に気付き、シリウスを描く時には星をひとつにせよ、と命じたのはレアだろうとベレトは予想している。
 ベレトの心臓にはまっている紋章石はそんな太古の時代から存在する物なのでいつ動きを止めてもおかしくない。だが最後にまとまって現れてくれた教え子たちのおかげで今、死んでも自分の亡骸は武器の素材には使われないだろうと信じられる。心地よい微睡の中、安心して意識を手放すことが出来た。
「先生、俺だよ。クロードだ」
 声に呼ばれて目蓋をあげるといつもはフォドラ風の服装をしているクロードが今日は珍しく、膝丈のドレスシャツを着ている姿が目に入った。カフタンと呼ばれるパルミラの民族衣装だ。小脇には着替えでも入っているのかガーメントケースを抱えている。
「ローレンツとディナーに行く時にも着てやるといい」
「でも先生、これは普段着なんだよ。ディナーに行くならもっといい物を着ないと」
 教え子の挨拶を聞き、ベレトの目蓋がそっと上がる様子を見ていたフェルディナントが小さく拍手した。
「二人の絆は素晴らしいな!!」
「フェルディナント、拍手は小さくできたのにどうして声はでかいままなんだ?」
 クロードが呆れているとその様子が面白かったのかベレトが横たわったまま笑った。手首には鎖ではなくバイタルをチェックするバンドが巻かれている。
「いや元気なのは良いことだ。おかげで目も覚めたし気分も良い。ローレンツは裏取りに大忙しだな?」
「俺たち全然相手をしてもらえないよ。まあそれは良いんだ。充実してこの上なく楽しそうだから」
「そうか、それは良かった。フェルディナントのインタビュー中に眠ってしまったらクロードが起こしてくれ」
 今までどこで何をしていたのか、は既にローレンツがすべて記録してくれたのでフェルディナントは何故百年ほどで王を辞めて民衆の中に紛れることにしたのか、について熱心に聞いている。
 クロードはベレトの教え子なので彼から答えを聞かずともなんとなく分かっていた。ベレトは全力でヒトを愛しヒトを信じた結果、子離れを全く恐れないフォドラ社会の親となることができた。自分なしでも平気な社会を作り上げ、その中に紛れ込み長い長い生を謳歌した。途中、異端審問と言う問題を抱えたが最終的には人々は彼らに〝No〟と言うことができた。近現代に入って設立された宗教警察に関してはベレトから出された宿題のようなものだろう。
「以上で終了です。ご協力に感謝します」
「いやあ久しぶりに長く話したな。この間リンハルトに会った時以来だ」
 ベレトが大きく伸びをすると部屋の照明に反射して左手の薬指が輝いたのでクロードは思わずベレトの左手を手に取って叫んだ。
「誰と!!」
「リンハルトだよ。彼に俺の亡骸を託す。なんだかそう言うことをするには配偶者でないとダメらしくて、押し切られてしまった。でもこれで紋章石を一欠片だけとはいえ宇宙葬にしてもらえる」
 極限環境に耐えうる磁性微生物が集まり、塊状の群体を形成した結果出来たのが紋章石だ。ベレトの肉体は彼の死後、心臓の紋章石も含めて彼の意志で研究に提供される。そのうち半分はさらに高度な技術を持つ未来の学者たちのためにそのまま保存される予定だ。宇宙葬をするのは残り半分が徹底的に研究され尽くした後になる。
「リンハルトすげえな……あいつ本当に決断力の塊だわ……」
 そう言って口を押さえるクロードの左手薬指にも指輪が光っている。彼の指輪に石が二つ嵌っているのを見て、フェルディナントはそれが今後のトレンドになるかもしれないと思った。二にして一にして二。離れがたい婚約者たちを表すのに相応しいデザインであるような気がした。
「十傑の遺産も解放して打ち上げてやって欲しいが、きっと長いプロセスが必要になるだろうな。俺は見届けられないだろうからフェルディナントが代わりに見届けてくれ」
「遥か遠くの宇宙から来たものが宇宙に還って行くわけですね。壮大で美しいプロジェクトだ」
 ベレトの言葉を受けて承った、と宣言したのでフェルディナントのブログにまた火種が加わった。
 十傑の遺産を受け継いできた人々は領地と領民を守るため、肉体が侵食されることを覚悟して戦場でそれらを振るい家名を高めた。家宝の素材がヒトと同じように言葉を操り、喜怒哀楽がある生物の心臓と骨から作られていて───一部のパーツはまだ生体反応を示している、という事実の受容ですらかなりの日数を必要とするだろう。そしてそう言った名家には家臣たちの子孫が存在する。彼らがどれくらい騒ぎ立てるのかクロードにすら予想できた。
 録音機材やメモを鞄にしまい終えたフェルディナントがいじりたくて仕方なかった、と言った風情でクロードの服装に言及した。フェルディナントはフォドラ社会との軋轢を避けるため今まではカフタンを身につけることのなかったクロードが何故考えを変えたのか、何に心を動かされたのかに興味がある。
「クロード、絶対にローレンツは喜ぶ。それは今まで君が見せてこなかった一面だ」
「カフタンをうまく洗える洗濯屋がようやくこっちで見つかったんだ」
 これは試しに洗ってもらったやつでね、と言うとクロードは裾を翻してくるりと回った。心なしかいつもより誇らしげな顔をしている。その姿を見てベレトがかっこいいぞ、と言わんばかりに拍手をした。
 アイロンをかけられ、皺ひとつない白いカフタンがクロードの褐色の肌によく映えている。拍手に対し大袈裟な身振りで礼をするとクロードは部屋の隅に置いてあったガーメントケースを手に取りジッパーを下ろした。素人がひと目見ただけでも高価だと分かる臙脂色のカフタンが入っている。
「こっちが盛装用」
「これも素晴らしいな!ローレンツが惚れ直すぞ!親友の私が保証する。そう思わないか?先生」
 クロードたちがはしゃぐ声を聞いているのにベレトは目蓋が重くてあげられなかった。ヒトの十倍生きて自分と同胞の亡骸を辱められない方法をついに見つけ、安心して後を託せる若者たちがいる。未練は残っていないはずだがそれでも生を終えるとなるとこんなにも名残惜しい。破天荒なリンハルトの将来も気になって仕方がなかった。
「……おかしい。クロード、呼びかけたまえ」
 フリュム出身でベレトの教え子ではないフェルディナントが違和感を覚えたその時、ベレトの腕に巻かれていたバンドがバイタルの異常を感知してアラームが鳴り始めた。
「先生、ダメだ!寝るな!最後にリンハルトに何かないのか!」
 クロードがベレトに話しかけながら身体を揺すると微かに目蓋が動いたが、若草色の瞳を見せることはできず口だけが動いた。
「そうだな……確かにそうだ……。ありがとうクロード。リンハルトにすまない、と伝えてくれ」
 駆け込んできたスタッフたちの尽力もありベレトはなんとか持ち直した。彼は皆が想定したよりはるかに長く自力で呼吸し、周囲に別れを覚悟させる時間を与えたがこの日を最後に意識が戻ることは二度となかった。
 その後リンハルトもクロードも忙しく、二人が会えたのは葬儀の場でだった。今にも目を開けそうなベレトの亡骸の前でクロードが最後の言葉を伝えるとリンハルトはようやく少し笑った。細められた目の縁から涙がこぼれ落ちる。
「何それ。普通は逆じゃない?なんで僕相手に謝罪してクロードがお礼を言われてるわけ?」
 親愛の情を込めてベレトの皮膚にメスを走らせる予定の白い手が涙を拭った。必死に感情を堪えようとするリンハルトの姿をみたクロードもつられてしまい、再び鼻や目や喉の奥に熱を感じた。顔が熱過ぎて自分の頬が涙で濡れているのかどうかも自分では分からない。
「ひどい顔してるよ。拭いてもらえば?」
 ため息をついたリンハルトが指差した先には列車の都合で遅れて到着した喪服姿のローレンツが百合の花を持って立っていた。

───
 ガルグ=マク中の街灯に国賓への歓迎の意を表すためフォドラとパルミラの国旗が飾ってある。今回の訪問に際してパルミラ国王はデアドラ出身のフォドラ人女性と結婚していることを公表した。王には王子が複数いるが、そのうちの一人はフォドラ人の一般人男性と結婚している。残念ながら今回その王子とその夫は家庭の事情によりパルミラに残っていた。

 クロードがリビングでテレビの電源をつけると画面の右上に生中継の文字が入っている。映っているのは懐かしいガルグ=マク市内の景色と赤絨毯の上に立つ彼の父親、それにフォドラの大統領だ。
 フォドラの執政官は二百年ほど前に大統領、と役職の名を改めた。選挙制度も数度の大胆な変更を経て現在では国民からの直接選挙で選ばれている。十八世紀後半にベルグリーズ家の者が執政官になったのを最後に六大貴族の者が執政官や大統領の任に就くことはなかったが、約二百年ぶりにエーギル家のものが当選している。
「クロードは慣れているのだろうが、友人や家族の動向をニュースで知ると言うのはなんというか……とても不思議な気持ちになるな」
 フェルディナントが伸ばしていた豊かなオレンジ色の髪を短く切りダークブルーのスーツに身を包んで出馬した時はこんなことになると誰も思っていなかった。
「そのうち慣れるさ」
 クロードの父は画面の中で王族の男性のみが着用できる見事な臙脂色のカフタンを身に纏い、ダークブルーのスーツを着たフェルディナントと握手を交わしている。
「そろそろ病院に行こうか。どうせ向こうのテレビでも見られる」
 卵子提供を受け代理母を探して子供を作ろう、と提案してきたのはクロードだった。パルミラ王家の血を引く子供が欲しいのだろうと思い、ローレンツは素直に承諾した。夫に似た子供はきっととても可愛いだろう。だが───先に作るのはお前だし、これに入れるんだよ予習しておこうな、とクロードから採取キットの入った透明な袋を渡された。そしてローレンツがクリニックの個室で誰にも言いたくないような行為をしてから四十週ほどが経過し、先ほど産院から陣痛が始まったと連絡があった。
 基本的に王族の男子には生涯に渡って外出した瞬間から警備の者がつく。クロードはフォドラにいた頃、本名を名乗らず、パルミラ王家の公式見解では失踪していたため一人で出歩いていたに過ぎない。
 そんなわけで元々二人きりになれるのは自宅の中しかなかった。だが、来週には赤ん坊がクロードとローレンツの家にやってくる。自宅で二人きりになることすらこの一週間でおしまいだ。
 ローレンツの指に嵌っているのはもう婚約指輪ではない。結婚指輪なのでクロードの瞳と同じ色をしたエメラルドがひとつだけ入っている。クロードの指輪にはローレンツの瞳と同じ色をしたタンザナイトがひとつだけ入っている。指輪に石が二つ入っていた頃を懐かしく思い出す時も多いが、きっと子供がいる暮らしも楽しいだろう。パルミラでは子供が生まれるとすぐに魔除けのピアスをつける。ローレンツがパルミラの風習に従って我が子のために用意したのはクロードの婚約指輪を仕立て直した物だった。気が早い話だが下の子の魔除けにはローレンツが付けていた婚約指輪を仕立て直すつもりでいる。
「クロード、君からすればおかしな話かもしれないが先生が守ってくれそうな気がするんだ」
 ローレンツはテレビを消し、ビロード張りのピアスケースにきちんと魔除けのピアスが入っていることを確認するとバッグに入れた。
「分かるよ。リンハルトに刻まれてるのは知ってるがそれでもまだその辺にいて、困った時に助けてくれそうな気がする」
 代理母という大仕事を引き受けてくれた女性や出産を引き受けてくれた病院、それに警備関係者への差し入れが入った巨大なバッグを持ったクロードと生まれてくる赤ん坊が使うおむつや肌着を入れた巨大なバッグを持ったローレンツは手を繋いでリビングを後にした。クロードから渡されたサングラスをかけ、ローレンツが玄関のドアを開けたその瞬間にフラッシュが次々と焚かれる。
 サングラスをかけていても視野の殆どが白い光に覆われた。白い光が収まり視野が回復するとタブロイド紙に写真を売りたいフリーのカメラマンやタブロイド紙所属のカメラマン、それに王子とその夫からなんとしてもコメントを貰おうとするゴシップ誌の記者たちの姿がローレンツの視界に浮かび上がった。警備のものに道を作ってもらわねばどう歩いても誰かに必ずぶつかってしまうだろう。
 国王夫妻ともなれば芸能マスコミに追い回されることはないが、成人して王宮から出た王子や王女は徹底的に追い回される。それはパルミラの国民が王家に親しみを抱き興味津々であることの現れなのだが、夫ローレンツの存在が民草に知られる前のクロードは見かけたなら一応撮っておくか、程度の存在でしかなかった。だが、生真面目なところが何故か微笑ましいフォドラの美丈夫があっという間に人気者になり、彼に引っ張られてクロードも追いかけられるようになった。

 クロードとローレンツにとってフォドラにいた頃と比べれば信じられないほど騒々しい日々だ。だがそれは幸せを諦める理由にも恐れる理由にもならなかった。畳む