「さかしま」14.#クロロレ #さかしま #完売本 #オメガバース 続きを読む こうならないようにローレンツの身を案じた両親が教育係を付けてくれたのに全てを無駄にしてしまった、と絶望するグロスタール家嫡子である自分と生まれて初めて欲求不満が解消されて晴れやかなオメガの自分がいて、どんな顔をすればいいのか分からない。アルファとの性行為がなければ治まるまで十日ほど必要となる熱発作、こと発情期だがクロードの協力もあり二日ほどで治った。 どれほど時間が経ったのかは不明だが、まだ微かに暖炉には温もりが残っている。我に返って横たわったまま、体を検分してみれば酷い状態だった。喉が内も外も引きつれるように痛む。だが頸や喉元を触った指に血は付かなかった。正式な番になるとアルファから血が出るような強さで深く、頸や喉元を噛まれる。血がついた枕覆いを証拠として掲げる地方もあるらしい。気恥ずかしくはないのだろうか。 アルファの唾液がフェロモンを分泌する部分へ直接流し込まれると発情期のアルファを無差別に誘うフェロモンの分泌が減少するらしい。アルファの唾液によりオメガの肉体は書き換えられる、ということだ。フレンの血には人間の身体を書き換えて魔獣にする力があるのではないか、というクロードの仮説と少し似ている。 隣で眠るクロードは責任を取れ、と言い募るのも馬鹿らしいほど幸せそうな顔をして褐色の瞼を閉じている。ローレンツだって発情期に本能の赴くままに過ごすのは初めてだったが、クロードも初めて本能の赴くままにオメガの肉体を貪ったのだろう。アルファの男性はどの階級の女性とも行為が可能だが、俗説では男女問わずオメガが一番好いのだと聞く。この幸せそうな顔は自分の具合が良かったからなのだろうか。そんなことを考えてしまったせいでローレンツの頬に熱が集まる。寒い冬の山中で傍の温もりは心地よく、出来れば離れたくはないのだが水を飲むためには色んな箇所が痛む身体を起こす必要があった。 服を脱ぎ散らかしたせいで手の届くところに服がない。ローレンツは裸のまま痛む腰をさすりながら立ち上がって水を飲んだ。窓の外へ視線をやれば外は相変わらず雪が降っている。声を出せるようになったので薪を足し、ファイアーの呪文を唱えて暖炉に再び火を入れた。 クロードと自分の服を拾い集めているうちに股間から太ももをつたって白濁が垂れて来たので慌てて布で拭う。着替えにも乏しいので全て外に掻き出してからでなければ服が着られない。 身体が冷えたローレンツは再び毛布にくるまって眠るクロードの脇に潜り込んで暖をとった。肌と肌が触れ合うと吸い付くような気がして、抱き合ったまま再び眠りたくなるが残念ながらそうはいかない。目の前にあるクロードの頬を軽く叩いた。 「起きろ、クロード。当事者として君が知っておくべきことがある」 「おはよう、ローレンツ」 多幸感に溢れた状態で目を覚ましたのかクロードはうっすらと微笑みを浮かべている。だが、ローレンツの発言ですぐに現実に引き戻されるだろう。 「四分の一だ」 「何が」 「僕が妊娠している確率だ」 クロードは寝返りを打ってため息を吐いた。褐色の背中にはローレンツが付けたであろう引っ掻き傷が生々しく残っている。入浴する際には汗やお湯が沁みるだろう。 「うっ……それはかなり高いな」 仮に妊娠しているとして、の話だがリーガンの紋章を持つ可能性がある子供だ。たとえその子の持つ紋章がグロスタールの紋章であったとしても紋章学の理論上ではクロードとローレンツの子供の子供、つまり孫にはリーガンの紋章が継承される可能性が高い。よりによって敵対しているグロスタール家のオメガと作ってしまった、とはいえクロードの祖父オズワルドにとっては喉から手が出るほど欲しい存在だろう。 「結婚して抑制剤の服用を中止しても最初の発情期で妊娠する者はあまりいない、とも聞く。それでも四分の一の確率で妊娠する可能性がある」 「俺の祖父さんや家臣たちは産んで欲しいと言うだろうな」 では今、ローレンツに背を向けるクロード本人はどうなのだろうか。昨晩、自分を頼れとローレンツを抱いたクロード個人はどう考えているのだろうか。 「数は力だ。人がいなくては何もできない」 ローレンツがそう返すとクロードは再び寝返りを打ち、白い喉元の歯型を褐色の指でそっとなぞった。彼も同じことを考えていたようで、指先に血が付かず安堵のため息を吐く。もしあの晩に勢いで番になってしまっていたら両家共に将来、生まれるであろう紋章を受け継ぐ子供を人質に取られたも同然だ。 「リーガン家は家族と縁が薄い家らしい。祖父さんと俺の親はこじれにこじれた。俺も祖父さんみたいに自分の家族とこじれるのかもしれない。でもそんなこと腹の中の子供には関係ないだろう」 クロードの指が白い喉をたどってローレンツの頬に触れた。彼の指が熱いので自分の顔が冷えているのだ、とローレンツは分からされてしまう。 「産んでも産まなくても俺はお前の味方をするよ。どのみちお産ってのは大変だそうだから、一人で産むことなんか出来ないだろう。お前もご両親と相談しなきゃならない。その結果どんな判断をしても尊重する」 緑の瞳でローレンツを見つめて淡々と考えを述べるクロードが稀代の大嘘つきなのか、それとも正直者なのかローレンツには分からない。ただローレンツが求めていた言葉なのは確かだ。 「抑制剤を飲んでいた時の周期通り二日後に生理が来ればこの会話は全て笑い話になる」 「笑い話になんかしない」 毛布の中で自分の腹を撫でたローレンツは何故、クロードが少し怒った様な口調で言い返したのか分からなかった。 「君なら笑い話にしそうなものだが。あぁ、またか…失礼」 ローレンツは立ち上がって先程使った布でまた太股を拭った。目の前で何が起きているのか理解したクロードは頰が熱いのか掌で顔を仰いでいる。 「そんな風に出てくるなんて知らなかった」 「僕だって初めて知ったよ。流石にこれで全部かな。ようやく服が着られる。下履きに垂れたら次に洗濯できるまで服に君の匂いが染みついたままになってしまう」 ローレンツは呆然とするクロードを放置して拾い集めた服を身につけた。先程白濁を拭った布を暖炉に放り込み、次に余っていた敷布を縦に割き始める。こんなにゆったりと身支度できる機会がいつ来るのか分からないし、ダフネル領の街中で買い物ができるようになるまで粗相をして貴重なズボンを駄目にするわけにいかない。こうした些細な工夫も教育係から学んだ。 「何してるんだ?」 「生理が始まったら畳んで挟む。出血したまま行軍したらズボンに垂れた血でズボンが駄目になるし、へばりついた血が固まると足の付け根の皮膚を切ってしまう」 男性アルファからすれば煩わしいことだらけの生活だろうが慣れてしまえば特に問題はない。クロードはオメガとアルファの生態の違いに改めて衝撃を受けたようだ。一向に身支度をしようとしないのでローレンツはクロードの顔に向けて拾い集めた彼の服を一枚ずつ放り投げた。中々、命中率が高く癖っ毛の上に布が山のように重なっていく。 「普通こう言うのって脱ぐ時に一枚ずつ投げつけてくれるんじゃないのかよ!」 布の塊の中からようやく本来の調子を取り戻したような声がした。ローレンツはクロードの理屈が先行して実践が伴っていないところが嫌いではない。 「なんだ君、昨日僕にそうして欲しかったのか?」 いつの間にか雪は止み日が射していた。畳む 小説,BL 2024/11/14(Thu)
こうならないようにローレンツの身を案じた両親が教育係を付けてくれたのに全てを無駄にしてしまった、と絶望するグロスタール家嫡子である自分と生まれて初めて欲求不満が解消されて晴れやかなオメガの自分がいて、どんな顔をすればいいのか分からない。アルファとの性行為がなければ治まるまで十日ほど必要となる熱発作、こと発情期だがクロードの協力もあり二日ほどで治った。
どれほど時間が経ったのかは不明だが、まだ微かに暖炉には温もりが残っている。我に返って横たわったまま、体を検分してみれば酷い状態だった。喉が内も外も引きつれるように痛む。だが頸や喉元を触った指に血は付かなかった。正式な番になるとアルファから血が出るような強さで深く、頸や喉元を噛まれる。血がついた枕覆いを証拠として掲げる地方もあるらしい。気恥ずかしくはないのだろうか。
アルファの唾液がフェロモンを分泌する部分へ直接流し込まれると発情期のアルファを無差別に誘うフェロモンの分泌が減少するらしい。アルファの唾液によりオメガの肉体は書き換えられる、ということだ。フレンの血には人間の身体を書き換えて魔獣にする力があるのではないか、というクロードの仮説と少し似ている。
隣で眠るクロードは責任を取れ、と言い募るのも馬鹿らしいほど幸せそうな顔をして褐色の瞼を閉じている。ローレンツだって発情期に本能の赴くままに過ごすのは初めてだったが、クロードも初めて本能の赴くままにオメガの肉体を貪ったのだろう。アルファの男性はどの階級の女性とも行為が可能だが、俗説では男女問わずオメガが一番好いのだと聞く。この幸せそうな顔は自分の具合が良かったからなのだろうか。そんなことを考えてしまったせいでローレンツの頬に熱が集まる。寒い冬の山中で傍の温もりは心地よく、出来れば離れたくはないのだが水を飲むためには色んな箇所が痛む身体を起こす必要があった。
服を脱ぎ散らかしたせいで手の届くところに服がない。ローレンツは裸のまま痛む腰をさすりながら立ち上がって水を飲んだ。窓の外へ視線をやれば外は相変わらず雪が降っている。声を出せるようになったので薪を足し、ファイアーの呪文を唱えて暖炉に再び火を入れた。
クロードと自分の服を拾い集めているうちに股間から太ももをつたって白濁が垂れて来たので慌てて布で拭う。着替えにも乏しいので全て外に掻き出してからでなければ服が着られない。
身体が冷えたローレンツは再び毛布にくるまって眠るクロードの脇に潜り込んで暖をとった。肌と肌が触れ合うと吸い付くような気がして、抱き合ったまま再び眠りたくなるが残念ながらそうはいかない。目の前にあるクロードの頬を軽く叩いた。
「起きろ、クロード。当事者として君が知っておくべきことがある」
「おはよう、ローレンツ」
多幸感に溢れた状態で目を覚ましたのかクロードはうっすらと微笑みを浮かべている。だが、ローレンツの発言ですぐに現実に引き戻されるだろう。
「四分の一だ」
「何が」
「僕が妊娠している確率だ」
クロードは寝返りを打ってため息を吐いた。褐色の背中にはローレンツが付けたであろう引っ掻き傷が生々しく残っている。入浴する際には汗やお湯が沁みるだろう。
「うっ……それはかなり高いな」
仮に妊娠しているとして、の話だがリーガンの紋章を持つ可能性がある子供だ。たとえその子の持つ紋章がグロスタールの紋章であったとしても紋章学の理論上ではクロードとローレンツの子供の子供、つまり孫にはリーガンの紋章が継承される可能性が高い。よりによって敵対しているグロスタール家のオメガと作ってしまった、とはいえクロードの祖父オズワルドにとっては喉から手が出るほど欲しい存在だろう。
「結婚して抑制剤の服用を中止しても最初の発情期で妊娠する者はあまりいない、とも聞く。それでも四分の一の確率で妊娠する可能性がある」
「俺の祖父さんや家臣たちは産んで欲しいと言うだろうな」
では今、ローレンツに背を向けるクロード本人はどうなのだろうか。昨晩、自分を頼れとローレンツを抱いたクロード個人はどう考えているのだろうか。
「数は力だ。人がいなくては何もできない」
ローレンツがそう返すとクロードは再び寝返りを打ち、白い喉元の歯型を褐色の指でそっとなぞった。彼も同じことを考えていたようで、指先に血が付かず安堵のため息を吐く。もしあの晩に勢いで番になってしまっていたら両家共に将来、生まれるであろう紋章を受け継ぐ子供を人質に取られたも同然だ。
「リーガン家は家族と縁が薄い家らしい。祖父さんと俺の親はこじれにこじれた。俺も祖父さんみたいに自分の家族とこじれるのかもしれない。でもそんなこと腹の中の子供には関係ないだろう」
クロードの指が白い喉をたどってローレンツの頬に触れた。彼の指が熱いので自分の顔が冷えているのだ、とローレンツは分からされてしまう。
「産んでも産まなくても俺はお前の味方をするよ。どのみちお産ってのは大変だそうだから、一人で産むことなんか出来ないだろう。お前もご両親と相談しなきゃならない。その結果どんな判断をしても尊重する」
緑の瞳でローレンツを見つめて淡々と考えを述べるクロードが稀代の大嘘つきなのか、それとも正直者なのかローレンツには分からない。ただローレンツが求めていた言葉なのは確かだ。
「抑制剤を飲んでいた時の周期通り二日後に生理が来ればこの会話は全て笑い話になる」
「笑い話になんかしない」
毛布の中で自分の腹を撫でたローレンツは何故、クロードが少し怒った様な口調で言い返したのか分からなかった。
「君なら笑い話にしそうなものだが。あぁ、またか…失礼」
ローレンツは立ち上がって先程使った布でまた太股を拭った。目の前で何が起きているのか理解したクロードは頰が熱いのか掌で顔を仰いでいる。
「そんな風に出てくるなんて知らなかった」
「僕だって初めて知ったよ。流石にこれで全部かな。ようやく服が着られる。下履きに垂れたら次に洗濯できるまで服に君の匂いが染みついたままになってしまう」
ローレンツは呆然とするクロードを放置して拾い集めた服を身につけた。先程白濁を拭った布を暖炉に放り込み、次に余っていた敷布を縦に割き始める。こんなにゆったりと身支度できる機会がいつ来るのか分からないし、ダフネル領の街中で買い物ができるようになるまで粗相をして貴重なズボンを駄目にするわけにいかない。こうした些細な工夫も教育係から学んだ。
「何してるんだ?」
「生理が始まったら畳んで挟む。出血したまま行軍したらズボンに垂れた血でズボンが駄目になるし、へばりついた血が固まると足の付け根の皮膚を切ってしまう」
男性アルファからすれば煩わしいことだらけの生活だろうが慣れてしまえば特に問題はない。クロードはオメガとアルファの生態の違いに改めて衝撃を受けたようだ。一向に身支度をしようとしないのでローレンツはクロードの顔に向けて拾い集めた彼の服を一枚ずつ放り投げた。中々、命中率が高く癖っ毛の上に布が山のように重なっていく。
「普通こう言うのって脱ぐ時に一枚ずつ投げつけてくれるんじゃないのかよ!」
布の塊の中からようやく本来の調子を取り戻したような声がした。ローレンツはクロードの理屈が先行して実践が伴っていないところが嫌いではない。
「なんだ君、昨日僕にそうして欲しかったのか?」
いつの間にか雪は止み日が射していた。畳む