-horreum-倉庫

雑多です。
「ねむけざまし」
※カップリングものではありません
※寝ずの番になった2人が焚き火のそばで怖い話をしているだけです
#ねむけざまし
3.レオニーとクロード

 寝ずの番を決めるくじ引きで今回、当たりを引いたのはレオニーとクロードだった。木の陰ですら怖がっていたリシテアを含めて皆、輝く星々の下で幸せそうに意識を手放している。野営訓練に慣れるにつれて皆、すぐに眠るようになった。そうしないとガルグ=マクへの帰路が辛くなってしまう。
「さっきクロードは当たりが出た!って言ってたけどこれはどう考えても外れだろ」
 焚き火にあたりながらレオニーは口を尖らせた。火のそばは暖かくて何か話していないと瞼が勝手に下りてきてしまう。
「でもそんなに沢山当たりくじを作ってられないだろ?」
 月明かりに照らされたクロードがほんの少し、煽るように茶化してきた。レオニーは今ではすっかり彼のそういった態度に慣れたので特に苛立つことはない。
 将来、腕利きの傭兵になるレオニーにとって、級友たちは未来の雇い主候補と言える。しかし揃いも揃って変人だ。春頃は彼らと会話が噛み合わなかったし、何を考えているのかもさっぱり分からなかった。しかし今はその分からなさ、に不安を感じることはない。知るべき時が来れば彼らからきっと事情を説明されるだろう。レオニーは静かにその時を待っている。
「はぁ……なんだかどっと疲れた、眠くなってきた」
 ため息をついても眠気は去ってくれない。クロードがまぜっ返してきたのも眠気を追い払うためだ。
「夜更かしが得意な俺でも一晩中、四方を確認するのは無理だ!眠気ざましになんかしようぜ」
「うーん……じゃあ、流行りにのって怪談でもするか?」
 おあつらえ向きなことに雲が月を隠し、そのまま風も止んだので話し声を遮られることもない。強風下で一言ずつ聞き返しながら話したら、どんなに内容が怖くとも怪談ではなく笑い話になってしまう。
「いいね、どうせなら例のやつにしよう。期待してるぜ、レオニー」
 流行りのきっかけを作ったクロードの声は弾んでいる。ちなみにベレトは学生が不安になるような遊びを流行させるな、とセテスから叱られたらしい。
・有名な怪談をそのまま語ってはならない
・その場で作った話でなくてはならない
 これが最近、金鹿の学級で流行っている怪談の決まりだ。レオニーはしばらく考え込んでから静かに語り始めた。

───セイロス騎士団の騎士や修道士はどうだか分かんないけどさ、今年の学生って街育ちばっかりだよな。村の暮らしを知ってるのは私とラファエルくらいか?街の連中は山や森の中には人っ子一人いないと思ってるけどそうじゃない。
 街の連中が知ってる山や森ってさ、村育ちの私から言わせれば山奥でも森の奥でもないんだよ。歩いてくる道がある訳だからな。でもさ、街の連中はそうだと信じ込んでるから木こりや炭焼きの仕事場で夜に人目をはばかるようなことをやるんだよ。

「今んとこ無知さが少し恥ずかしいだけで怖くないな……。あ、ローレンツにばれて下品だと叱られるから怖い、って仕掛けか?」

 この場合は叱られるとしたらぼんくらさ、だろうな……。話を戻すよ。そっち方面じゃあなくて血を塗った人形を何体も木から逆さ吊りにしたり、とかそう言うことだよ。
 当たり前だけど山や森の中って人間だけじゃなくて動物もいるからさ、血の匂いに引き寄せられた動物がそういう場を荒らすんだよ。おぞましい雰囲気になっていくんだけど、よく見れば歯形が熊だ狐だってことであんまり謎はないんだ。でもたまに大きくて真っ青で信じられないくらい綺麗な蝶がたかってることがある。あれだけはよく分かんないんだよな……私が今この場で考えた作り話だから───

「なるほどな……この話、どの部分が怖いか人によって違うと思うぜ」
 その場で考えているからこそ語り手のそれまでの経験や知識が浮かび上がる。クロードの感想を聞いたレオニーは眉間に皺を寄せた。
「う、頑張って考えたところが響かなかったら嫌だな……」
「いや、きちんと怖かったぞ!答え合わせは野暮だからやめておこうぜ」
 世界は広いのでフォドラの山や森には動物の血を好む蝶がいるのかもしれない。だがクロードの知る蝶は草の汁や花の蜜を吸うだけだ。クロードは動物の血を好む蝶も、己がフォドラとは違う常識を持っていると知れ渡ることも怖い。
 口からこぼれ落ちてしまった答え合わせ、と言う発想がレオニーに定着しないよう急がねばならない。これまでも何度も何度も口先で危機をしのいでいる。今晩もきっと成功するはずだ。
 
───デアドラが水の街なのは知ってるよな?馬車の代わりに水路を船が行き交ってる。水路も慣れちまえば普通の道と使い心地は殆ど変わらないんだよ。だって乗り降りに注意が必要なのは船も馬も同じだろ?
 でも一つ大きな違いがあってな、夜に一人歩きの酔っ払いが水路に落ちたら死んじまう。それで朝、家や職場の目の前に亡骸が浮いてたら嫌だろ?不気味だし、航行の邪魔にもなる。だからデアドラでは明け方に巡警が船を出して水路の確認をするんだ。人手や船には限りがあるから主な水路だけだが、それでもやらないよりましでな。

「大変な仕事だな……。それに転落の理由は酒だけじゃないだろ」

 鋭いな。人が多いとどうしても物騒なことは起きるもんだ。とにかく巡警たちは潮の流れも細かく枝分かれした水路がどう繋がってるか、もきちんと分かってる。でもな、明け方に記録をとりながら水路に浮かんだ亡骸を回収してるとな、稀に存在しないはずの、どこに繋がってるのか全く分からない水路が目の前にひらけていることがあるんだと。
 引き揚げた亡骸は一体、どこの歩道から転落したんだろうな?どうして転落したんだろうな?それは誰にも分からないんだよ。何てったって俺がたった今、作った話だからな───

「将来、デアドラで仕事する時は絶対に酒を呑まないようにしないと」
 レオニーはそう言うと焚き火の目の前にいるにもかかわらず、寒そうに二の腕を手のひらで何度も擦った。どうやら彼女はクロードの意図とは異なる箇所を怖がっているらしい。こんな些細なことでも他人を思い通りにするのは難しい。
「うーん、依頼する時は金額に少し色をつけてやろうと思ったが安全のためにやめておくか?」
「えぇ?!そこは現行のままで頼むよ」
「覚えておくよ」
 そう言えば、この野営地はレオニーにとって森の奥と言えるのだろうか。森や山との縁が浅いクロードにはまだ見当がつかない。畳む