「説明できない」2.遭遇 #説明できない #クロロレ #完売本 続きを読む 三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入る。まずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することが目標だ。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。 「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」 「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」 ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。 「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」 出発前にクロードは念を押したがやはり持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で、記憶通りに進軍速度の違いが生じている。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し、大荷物を抱える資材班との距離が開き出した。 「ヒルダさん、早すぎる!」 「えー、でも早く着いて休みたくない?」 クロードは伝令のようにそれぞれの班を走って行き来したがそれも限界がある。歩兵の班の最後尾にいたヒルダに武器の班の責任者を務めていたローレンツが駆け寄って行ったのを見た時は正直助かった、と思った。新兵ほど扱いにくいものはない。 前方でローレンツと彼に呼び出された食糧班の責任者であるリシテアが何やら話し込んでいる。その間、歩兵班は待つように言われたらしく引き離されていた資材班がじりじりと追いついてきた。 「クロード、食糧を一食分と訓練用の剣を今ここで全員に配布してはどうだろうか。そうすればこちらの空いた荷車に資材を積める」 「足の遅い資材班を置き去りにせずに済みます」 ローレンツは進軍速度を均一にする為に提案したようだがクロードはこの後、自分たちが盗賊団から襲撃される事を知っている。 「荷が増えた歩兵の足も鈍るかもな。よし、そうしよう」 クロードはローレンツたちの提案を快諾したが理由が違った。この後、盗賊に襲われるのだから手持ちの武器は少しでも多い方がいい。訓練用の剣は刃が潰してあるがそれでも打撃用の武器にはなる。あの時は備えがない状態で襲撃されても皆、生き残っていた。きっと女神のご加護という奴だろう。それでも全力を尽くすのが将来、自分のせいで死ぬ彼らへの手向けだとクロードは思った。 事態はクロードの記憶通りに進み、野営地は星空の下で盗賊に襲われている。槍と剣を使える学生が最前線に立ち、魔法や弓に長けた学生が援護していた。あの時は気づかなかったが、盗賊たちは最初から外套を身に付けたガキはどこだ、と叫んでいる。外套は級長の証だ。エーデルガルトは自分を囮にしてまでクロードやディミトリを殺したかったのだろう。クロードのせいで五年間対同盟の戦端すら開けなかったのは確かだから、気持ちは分からないでもない。あの時は撹乱する為に闇雲に走ったが今のクロードには目指す場所が分かっていた。 帝国領のルミール村まで辿り着けば壊刃、とあだ名されたジェラルドが率いる傭兵団がいる。こっそり抜け出しても気づいたエーデルガルトと二人きりになると殺害されてしまう可能性が高い。だからクロードはディミトリに気付かれるようわざと物音を立てて逃げ出した。一目散に修道院とは全く違う方へ走っていくクロードに気付いたディミトリとエーデルガルトが追いかけてくる。これでエーデルガルトと二人きりになることはない。 盗賊たちは目当ての学生がいないことに気が付き、皆クロードたちの方へ向かってきた。空がぼんやりと白み始め、村の入り口を見張っている傭兵の姿が見えてきたら後はジェラルドが出てくるのを待てばいい。ディミトリとエーデルガルトが必死に窮状を訴えてくれたので、その間にクロードは息を整えることが出来た。 「上手いこと仲間と分断されて多勢に無勢、金どころか命まで盗られるところでしたよ」 「その割には随分とのん気な……。ん? その制服……」 しかし記憶と違う現実を目の当たりにしたクロードの心臓は早鐘のように脈打ち、その場にいる皆の言葉がよく聞こえない。ジェラルドの側に立っているのはベレスではなくベレトと言う名の息子だった。彼もまたエーデルガルトの手を取るならば強く警戒せねばならない。 ジェラルドとベレトは村に攻め入る盗賊たちをあっという間に倒し、その後の展開はクロードの記憶から外れることはなかった。野営地の様子を見に行ってくれた騎兵から残してきた他の学生たちが無事である、との知らせを受けディミトリが微笑む。クロードにとっても初対面であるベレトにディミトリもエーデルガルトも興味津々で、二人はまとわりついて離れない。牽制半分、からかい半分で彼の好みを問うてみるとパルミラ出身のクロードよりも世間知らずなベレトはベレスとは違いレスター諸侯同盟を選んだ。 犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ほぼ、ローレンツの記憶通りだが異なる点もある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。 ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われている。予め野盗たちに襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。 「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」 食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため、戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのもよくある話だ。戦わずに済むならそれがいい。ローレンツの言葉を聞いたベレトは首を縦に振った。 「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」 「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」 戦場の霧という言葉がある。どの将も斥候などを出して可能な限り下調べはするが、それでも敵軍や戦場の正確な現状を正確に知ることはできない。霧に辺りを覆い隠された状態で指揮官は決定を下し、その責任をとる。ローレンツが命を落としたミルディン大橋にもその霧がたちこめていて、霧の中にはベレトがいた。 ベレトは無表情かつとても静かに話す。声を荒げるところを聞いた者はいない。夜の闇のような瞳で彼からじっと見つめられるとローレンツは秘密を見透かされたような気分になる。だが話題は得意とする武器へと切り替わっていった。彼は剣が最も得意だという。 「シルヴァンと同じく槍だ」 口に出した言葉は取り消せない。ローレンツは反射的にベレトが青獅子の学級の担任であるかのように扱ってしまった。例えとして出すにしても唐突すぎる。レオニーと同じく、と言うべきだった。 「シルヴァンとローレンツは槍が得意なのか。覚えておこう。そうか、フェルディアにいたからファーガスの者に詳しいのか」 今日は天気が良くベレトとローレンツ以外にも中庭で、沢山の学生が暖かい日差しと世間話を楽しんでいる。こうした時間を共有することで学級の垣根、すなわち出身地の違いを超えて同じ体験をした者同士が親しくなっていく。後の戦乱を知る身からすれば涙が出そうなほど平和な光景だ。学級の垣根を超えて結んだ友情は五年の時を経て不本意な結果に終わっている。少なくともローレンツとシルヴァンに関してはそうだった。 「そうだな、確かにメルセデスさん、アネットさんとは魔道学院にいた時からの顔見知りだ」 「ありがとう、参考になった」 そういうとベレトはリシテアを探して立ち去った。うまくやり過ごそうと緊張していたのか汗が白い背中を伝っていく。ふとした拍子に過去の記憶が言動に現れてしまわぬよう、今後は更に気をつけねばならない。 「よう、ローレンツ。そんなにファーガスの連中に詳しいなら俺にも聞かせてくれよ」 クロードはいつから話を聞いていたのだろうか。ローレンツはベレトが違和感を感じていないかどうか気にかけるあまり、クロードが耳をそばだてていることが分からなかった。 「君は人より建物の方が好みだろう?」 クロードの言動は今のところローレンツの記憶と大きく異なる点がない。先日も夜中に勝手に出歩いているところに出くわした。あの時は彼の資質を疑ったが後にエーデルガルト相手に五年間ものらりくらりと誤魔化し続けたことを今のローレンツは知っている。あの時、彼が見誤ったのはディミトリの立ち直る力だけだった。 「先生には興味があるぜ。あの人には何か秘密があるはずだ」 目の前に誰にも言えない秘密を抱えた者がいると知らず、クロードは好奇心に目を輝かせている。表面上では彼とローレンツは一歳しか歳は離れていないが、精神的には五歳の開きがある。 「暴くのではなく打ち明けさせてこそ、だろう。信頼を得たかったら闇雲に腹を探ろうとするのはやめることだ」 「そっちこそ闇雲に女子に声かけるのやめろよ。言い寄られるようになってこそ、だろ?」 だが円卓会議で海千山千の大人たちと立派に張り合っていた片鱗はもう見え始めていた。つまり痛いところを正確に突くのだ。 「なっ!僕はシルヴァンとは違う!本気で共に領地を治めてくれる配偶者を探しているのだからな!」 戦争が終わってから配偶者探しを再開しようと考えていたローレンツは結局、独身のまま生涯を終えている。愛する人がいたら降伏や敵前逃亡をしていたかもしれないが、それでも今度は生涯を共に過ごす相手が欲しい。 「資質を磨かなくても良い立場な奴は気軽で良いねえ」 「言っておくがあくまでも勉学のついでだし君に対する監視の目を緩める気はないからな」 そうすればローレンツはクロードのうちに立ちこめる霧が晴れる時を見逃さずに済むのかもしれない。畳む 小説,BL 2024/11/16(Sat)
#説明できない #クロロレ #完売本
三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入る。まずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することが目標だ。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。
「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」
ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。
「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」
出発前にクロードは念を押したがやはり持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で、記憶通りに進軍速度の違いが生じている。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し、大荷物を抱える資材班との距離が開き出した。
「ヒルダさん、早すぎる!」
「えー、でも早く着いて休みたくない?」
クロードは伝令のようにそれぞれの班を走って行き来したがそれも限界がある。歩兵の班の最後尾にいたヒルダに武器の班の責任者を務めていたローレンツが駆け寄って行ったのを見た時は正直助かった、と思った。新兵ほど扱いにくいものはない。
前方でローレンツと彼に呼び出された食糧班の責任者であるリシテアが何やら話し込んでいる。その間、歩兵班は待つように言われたらしく引き離されていた資材班がじりじりと追いついてきた。
「クロード、食糧を一食分と訓練用の剣を今ここで全員に配布してはどうだろうか。そうすればこちらの空いた荷車に資材を積める」
「足の遅い資材班を置き去りにせずに済みます」
ローレンツは進軍速度を均一にする為に提案したようだがクロードはこの後、自分たちが盗賊団から襲撃される事を知っている。
「荷が増えた歩兵の足も鈍るかもな。よし、そうしよう」
クロードはローレンツたちの提案を快諾したが理由が違った。この後、盗賊に襲われるのだから手持ちの武器は少しでも多い方がいい。訓練用の剣は刃が潰してあるがそれでも打撃用の武器にはなる。あの時は備えがない状態で襲撃されても皆、生き残っていた。きっと女神のご加護という奴だろう。それでも全力を尽くすのが将来、自分のせいで死ぬ彼らへの手向けだとクロードは思った。
事態はクロードの記憶通りに進み、野営地は星空の下で盗賊に襲われている。槍と剣を使える学生が最前線に立ち、魔法や弓に長けた学生が援護していた。あの時は気づかなかったが、盗賊たちは最初から外套を身に付けたガキはどこだ、と叫んでいる。外套は級長の証だ。エーデルガルトは自分を囮にしてまでクロードやディミトリを殺したかったのだろう。クロードのせいで五年間対同盟の戦端すら開けなかったのは確かだから、気持ちは分からないでもない。あの時は撹乱する為に闇雲に走ったが今のクロードには目指す場所が分かっていた。
帝国領のルミール村まで辿り着けば壊刃、とあだ名されたジェラルドが率いる傭兵団がいる。こっそり抜け出しても気づいたエーデルガルトと二人きりになると殺害されてしまう可能性が高い。だからクロードはディミトリに気付かれるようわざと物音を立てて逃げ出した。一目散に修道院とは全く違う方へ走っていくクロードに気付いたディミトリとエーデルガルトが追いかけてくる。これでエーデルガルトと二人きりになることはない。
盗賊たちは目当ての学生がいないことに気が付き、皆クロードたちの方へ向かってきた。空がぼんやりと白み始め、村の入り口を見張っている傭兵の姿が見えてきたら後はジェラルドが出てくるのを待てばいい。ディミトリとエーデルガルトが必死に窮状を訴えてくれたので、その間にクロードは息を整えることが出来た。
「上手いこと仲間と分断されて多勢に無勢、金どころか命まで盗られるところでしたよ」
「その割には随分とのん気な……。ん? その制服……」
しかし記憶と違う現実を目の当たりにしたクロードの心臓は早鐘のように脈打ち、その場にいる皆の言葉がよく聞こえない。ジェラルドの側に立っているのはベレスではなくベレトと言う名の息子だった。彼もまたエーデルガルトの手を取るならば強く警戒せねばならない。
ジェラルドとベレトは村に攻め入る盗賊たちをあっという間に倒し、その後の展開はクロードの記憶から外れることはなかった。野営地の様子を見に行ってくれた騎兵から残してきた他の学生たちが無事である、との知らせを受けディミトリが微笑む。クロードにとっても初対面であるベレトにディミトリもエーデルガルトも興味津々で、二人はまとわりついて離れない。牽制半分、からかい半分で彼の好みを問うてみるとパルミラ出身のクロードよりも世間知らずなベレトはベレスとは違いレスター諸侯同盟を選んだ。
犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ほぼ、ローレンツの記憶通りだが異なる点もある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。
ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われている。予め野盗たちに襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。
「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」
食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため、戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのもよくある話だ。戦わずに済むならそれがいい。ローレンツの言葉を聞いたベレトは首を縦に振った。
「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」
戦場の霧という言葉がある。どの将も斥候などを出して可能な限り下調べはするが、それでも敵軍や戦場の正確な現状を正確に知ることはできない。霧に辺りを覆い隠された状態で指揮官は決定を下し、その責任をとる。ローレンツが命を落としたミルディン大橋にもその霧がたちこめていて、霧の中にはベレトがいた。
ベレトは無表情かつとても静かに話す。声を荒げるところを聞いた者はいない。夜の闇のような瞳で彼からじっと見つめられるとローレンツは秘密を見透かされたような気分になる。だが話題は得意とする武器へと切り替わっていった。彼は剣が最も得意だという。
「シルヴァンと同じく槍だ」
口に出した言葉は取り消せない。ローレンツは反射的にベレトが青獅子の学級の担任であるかのように扱ってしまった。例えとして出すにしても唐突すぎる。レオニーと同じく、と言うべきだった。
「シルヴァンとローレンツは槍が得意なのか。覚えておこう。そうか、フェルディアにいたからファーガスの者に詳しいのか」
今日は天気が良くベレトとローレンツ以外にも中庭で、沢山の学生が暖かい日差しと世間話を楽しんでいる。こうした時間を共有することで学級の垣根、すなわち出身地の違いを超えて同じ体験をした者同士が親しくなっていく。後の戦乱を知る身からすれば涙が出そうなほど平和な光景だ。学級の垣根を超えて結んだ友情は五年の時を経て不本意な結果に終わっている。少なくともローレンツとシルヴァンに関してはそうだった。
「そうだな、確かにメルセデスさん、アネットさんとは魔道学院にいた時からの顔見知りだ」
「ありがとう、参考になった」
そういうとベレトはリシテアを探して立ち去った。うまくやり過ごそうと緊張していたのか汗が白い背中を伝っていく。ふとした拍子に過去の記憶が言動に現れてしまわぬよう、今後は更に気をつけねばならない。
「よう、ローレンツ。そんなにファーガスの連中に詳しいなら俺にも聞かせてくれよ」
クロードはいつから話を聞いていたのだろうか。ローレンツはベレトが違和感を感じていないかどうか気にかけるあまり、クロードが耳をそばだてていることが分からなかった。
「君は人より建物の方が好みだろう?」
クロードの言動は今のところローレンツの記憶と大きく異なる点がない。先日も夜中に勝手に出歩いているところに出くわした。あの時は彼の資質を疑ったが後にエーデルガルト相手に五年間ものらりくらりと誤魔化し続けたことを今のローレンツは知っている。あの時、彼が見誤ったのはディミトリの立ち直る力だけだった。
「先生には興味があるぜ。あの人には何か秘密があるはずだ」
目の前に誰にも言えない秘密を抱えた者がいると知らず、クロードは好奇心に目を輝かせている。表面上では彼とローレンツは一歳しか歳は離れていないが、精神的には五歳の開きがある。
「暴くのではなく打ち明けさせてこそ、だろう。信頼を得たかったら闇雲に腹を探ろうとするのはやめることだ」
「そっちこそ闇雲に女子に声かけるのやめろよ。言い寄られるようになってこそ、だろ?」
だが円卓会議で海千山千の大人たちと立派に張り合っていた片鱗はもう見え始めていた。つまり痛いところを正確に突くのだ。
「なっ!僕はシルヴァンとは違う!本気で共に領地を治めてくれる配偶者を探しているのだからな!」
戦争が終わってから配偶者探しを再開しようと考えていたローレンツは結局、独身のまま生涯を終えている。愛する人がいたら降伏や敵前逃亡をしていたかもしれないが、それでも今度は生涯を共に過ごす相手が欲しい。
「資質を磨かなくても良い立場な奴は気軽で良いねえ」
「言っておくがあくまでも勉学のついでだし君に対する監視の目を緩める気はないからな」
そうすればローレンツはクロードのうちに立ちこめる霧が晴れる時を見逃さずに済むのかもしれない。畳む