-horreum-倉庫

雑多です。
#クロード
「五年目の誕生日」

 夏生まれ、という自覚しかなかった。基本的にパルミラの者は生まれた日に拘らない。クロードは後宮生まれなので文官たちの付けた記録───後宮は王の子を確保するためだけに存在する───が残っているはずだがフォドラに来るまで見てみたい、と思うことがなかった。
 今は亡き祖父オズワルドが見せてくれた母の手紙から推理して七月二十四日、こちらで言うところの青海の節二十四日生まれということになっている。そんな危うい根拠しかない日付けだと言うのにクロードの周りにいる人々は本気だ。シャンバラへの出撃を数日後に控えているというのにクロードは今、朝食を食べにきた食堂で跪き、ベレトから花冠を授けられている。
「マリアンヌちゃんが選んでくれたお花、やっぱりきれいねえ」
「ヒルダさんも編むのがお上手で」
 女子たちが学生時代のように温室の花を使って編んでくれたものだ。どうやらヒルダの口ぶりからするに分業制はまだ続いているらしい。花冠はしっかりと形を保っている。
「いよッ!お誕生日の王子様!」
 レオニーのかけ声で食堂中がやんやと沸く。このかけ声にもこの五年ですっかり慣れた。フォドラでは年齢や立場に変わりなく誕生日当日に限り男性は誰でも〝王子様〟になる。一日中、花冠を被って過ごし、通りすがりの何も知らない者たちからも祝いの言葉をもらうのだ。卓の上には祝いの品がいくつも置いてある。戦時中なのできっとどれもこれもデアドラでリーガン家の家臣たちから貰ったものより中身はささやか
だろう。だが、何よりも皆が手間暇をかけてくれた事実がクロードは嬉しかった。自分でも驚くほど胸いっぱいになったがそれ以上にベレトが積み上げられた品を見て喜んでいる。
「また人徳を失わないようにしないとな……」
 相変わらず恩師は表情に乏しく、口数は少なかった。だが噛み締めるような彼の言葉は驚くほど鋭い。星辰の節、あの約束の日のことを昨日のように思い出す。
 まだ誰にも話していないが、全てが上手くいったらクロードはフォドラを去ることになる。無事、王になるその日まで祝いの品を贈ってくれたものたちと連絡を取ることすら難しい。後始末をさせられるものたちはきっと困惑するだろう。
「このまま朝から呑みたいところだが、残念ながら解散だ。やるべきことを終えてから夜に呑もう」
 自分に言い聞かせるようにクロードは宣言した。エーデルガルトやディミトリの人生を狂わせた闇に蠢くものたちを倒さねばならない。フォドラへの良い置き土産になるだろう。
 いつまでもこうして気の合う皆と共にいたかった。故郷に戻ったところで成功できるとは限らない。だがそれでも───自分に流れる王の血を無視することはできなかった。畳む