-horreum-倉庫

雑多です。
「crossing」7.
#クロロレ #完売本 #年齢操作  #crossing

 流石にクロードも思うところがあったらしい。旧礼拝堂の魔法陣の中心に二人並んで白い光に包まれた時、黒い手袋越しにローレンツがそっと手を握ると彼が微かに震えているのがわかった。大聖堂の方へ顔を背けたまま、ローレンツの手を軽く握り返してきたのできっと怖かったのだろう。クロードはローレンツを見栄っ張りだと言って揶揄うがクロードも充分見栄っ張りだ。五年前、赤狼の節に互いの肉体に縋り付いた者同士、いまさら何の遠慮があると言うのだろうか。あの夜を境にローレンツはクロードをより深く理解出来た気がしたしクロードもローレンツを深く理解するようになった。

 枢機卿の間に二人だけで残って打ち合わせを終え、廊下へ出た時に五年前戦死した筈の修道士が目の前を通り過ぎたのでローレンツもクロードもこの異変に気付いた。お互いに幽霊を見たような顔をしていたが何のことはない。自分たちの方が異物である、と気づかせてくれたのは荘厳な姿を保つ大聖堂だった。慌てて二人揃ってセテスの部屋に駆け込み、奇妙な数日間を経て───ローレンツとクロードは元の時代へ戻ることができた。
 今、二人の目の前には帝国軍の攻撃で破壊されたままの大聖堂がある。二人が真っ先にこの目で見たかったものだ。
「崩壊した大聖堂を見て心が安らぐ日が来るとは思わなかったよ」
 ローレンツがそう呟くとクロードも珍しく素直に同意した。星辰の節にガルグ=マクで皆と再会し打ち捨てられた大聖堂を見て、心が締め付けられるような心地がしたものだがこれこそが一一八五年である証だ。クロードと共に過ごした五年間は消え失せてなどいない。過去に紛れ込んで数日経過した筈が殆どずれることなく、元の時間軸の自分たちが過ごしていた直後の時刻に戻れたことは鳴り響く晩鐘が教えてくれた。星辰の節に合流し、修道院敷地内の被害を確認した際にクロードが真っ先に鐘を修復させたので無生物なりに恩返しをしているのかもしれない。
 食堂の明かりを確認できたので二人で慌てて駆け込むと幸運なことにダフネルシチューだけは残っていた。五年前の世界では麺麭もワインも干し肉も提供してもらえたがやはり温かい食べ物が食べたかったので注文する。
 湯気と温かさを感じながら食事をしている間ローレンツもクロードも無言だった。話している間も惜しんで食事を終えてしまった。
「はぁー流石に風呂に入りたいな」
 手巾で口を拭いたクロードが伸びをしながら呟いた。食欲が満たされれば他のことに関しても欲が出てくる。それぞれ学生時代の自分がいない時に室内で水差しの水を使って身体を拭いたが、入浴と比べてしまえば当然だが入浴の方に軍配が上がる。
「同感だ。火が落とされる前に支度して入ろう」
 それぞれ今の自室に戻り入浴の支度を整えた。最後の最後、滑り込むように入ったせいか浴場は貸切状態になっている。湯気の中で足を投げ出していると若いクロードから受け取った熱も含めて奇妙な数日がまるで夢のようにローレンツには思えた。あんなこと果たして現実に起きたのだろうか。
 天井から落ちる水滴の音がやけに耳に響くのは時間が遅く、クロードと二人きりで入っているからだろう。隣り合って寛いではいるが二人とも疲れ果てて話す気にもなれなかった。汗で濡れた湯浴み着が身体に張り付きクロードの身体の線が顕になる。彼は祖父から盟主の座を継いでから少しでも威厳を出したい、とのことで体が少し大きく見えるような服を好んで着るようになった。だから浴場から寝室くらいでしか彼の身体の線を目にする機会がない。つまりローレンツが最も彼の身体の線を見る機会に恵まれている、と言える。学生時代の彼よりも随分と逞しい身体つきになっていた。クロードも同じようにローレンツの身体つきを舐めるように見ている。きっと記憶の中のかつての姿を見比べているのだ。クロードは昔と比べて随分素直になった。
「いや、お互い細かったな!身長差が縮まらないと悟った時の自分の顔は見ものだった」
 おどけて笑うクロードは頬髭を生やしていても五年前の彼のように可愛い顔立ちをしていたが、ローレンツは本人にそう言ってやったことがない。
「今でも悔しいのかね?」
 ローレンツは紫の瞳だけ動かしてクロードを眺めた。彼が小さく横に首を振ると褐色の肌の上を玉のような汗が筋肉に沿って流れていく。
「いいや、男の価値はそんなとこでは決まらんからな」
 クロードは軽く腰を上げ首を伸ばしローレンツに頬ずりすると薄い唇に触れるだけの軽い口づけをした。クロードに体を開かれる前のローレンツならこれだけで顔を真っ赤にしていただろう。彼に茶を供し頭巾を着せてやっていた頃のローレンツなら。だが今のローレンツは微かに触れた粘膜がひんやりとして心地よいと感じるだけだ。これは浴室内の気温の問題だけではない。
「先に部屋に戻りたまえ。僕はもう少し時間がかかる」
「いや、たまには俺が手伝うよ」
 学生時代のクロードとローレンツがすぐに身体を繋げることが出来たのはあの現象に巻き込まれる前の晩も今、浴場にいる二人で身体を重ねていたからだ。この後、褐色の指でローレンツの奥が探られれば過去のクロードに対してローレンツが何をくれてやったのか、すぐに判明するだろう。
「君の指は悪戯ばかりする」
 ローレンツはそういうと褐色の手を取り中指と人差し指を第一関節まで自らの咥内に迎え入れた。舌の裏で爪を舐め舌の表面で指の脇にできている胼胝の形を確かめる。クロードは爪の背で上顎の溝を撫でようとしたがローレンツが強く指を吸うので出来なかった。
「こんな浅いところじゃ満足できないだろ」
 確かに指を奥まで入れて欲しいし当然指だけでは足りない。ローレンツを見つめるクロードの緑の瞳が欲望でぎらぎらと輝いている。五年前の彼が同じ瞳で自分を見つめたのでつい口づけ以上のものをくれてやってしまった。まだ道具を使うことなど考えつきもしない幼いクロードのことを思い出すと口の端が上がってしまう。本当に初心だったし、ローレンツはクロードの身体だけで充分気持ち良くなれると再確認させてくれた。きっと今晩も羽根だの目隠しだのを使いたがるだろうがそこは粘り強く訴えていくしかない。
「爪の手入れは怠っていないようだね」
「弓使いの嗜みってやつだよ」
 二人は汗を流すため共に立ち上がった。畳む