「説明できない」12.仇討 #説明できない #クロロレ #完売本 続きを読む クロードは頼み込んでベレトからジェラルドの日記を貸してもらった。騎士団長を務めていた彼の手記はある時からがらりと趣が変わる。妻であるシトリーの死がきっかけだ。それまでは能天気なものだったが表情が変わらず、泣きもしない赤ん坊相手に違和感を覚えてからの彼の行動は慎重、かつ迅速としか言いようがない。ジェラルドは大司教レアが息子に何かしたと推理していた。 ジェラルドの日記を借りている、とクロードはまだ他の誰にも話していない。ローレンツにすら秘密にしていた。読み進めていくうちに自分がべレスの何に引っかかっていたのか、クロードは理解し始めていた。物質的には恵まれていたしあんな連中に自分は傷つけられていない、と信じていたが故郷の記憶が未だに自分の心を苛む時がある、とクロードは認めねばならない。 べレスは権力争いに敗れ心を病んだ妃たちのような身なりをしていたのにエーデルガルトたちから愛されていた。泣くことも笑うこともできなかったのにジェラルドは無条件で我が子を愛していた。クロードの父とは全く違う。そもそもクロードは父方の祖父母から見ても母方の祖父母から見ても生まれるはずがなかった孫だったし、まずは優秀さで父の視線を勝ち取らねばならなかった。祖父のオズワルドにしても嫡子であった叔父のゴドフロア一家が命を落とさなければ、自分を捨てた娘が産んだ孫に会おうとも呼び寄せようとも考えなかっただろう。 クロードは生まれたその日に母を失った不運なべレスに嫉妬していた。己の理不尽な心の動きに気がついたのならば、ベレトが真面目で誠実で、ついでに言えば不思議な人物であると認めるしかない。とっくの昔にローレンツが辿り着いていた地点にクロードはようやく辿り着けた。試されずに愛されて育った者たちが羨ましいのだ、と認めるしかない。クロードは二本目の蝋燭に火を灯してため息を吐いた。父を失い生まれて初めて涙を流し、顔を歪めて感情を露わにしたベレトのためにクロードが出来ることがある。 明朝、朝食の時間にクロードは青獅子の学級の学生たちが座る席を訪れた。先日、課題に協力してくれたイングリットに礼を言い、次に級長であるディミトリに話しかける。 「ベレト先生とジェラルドさんのことで協力してほしいことがある」 「何なりと言って欲しい」 「セイロス騎士団にはファーガス出身の騎士が沢山いるだろう?どこに出撃したのか聞いて欲しいんだ。勿論俺たちもレスター出身の騎士たちに出撃先を聞く」 ディミトリたちはすぐにクロードが何をしたいのか察してくれた。クロードはソロンとクロニエの目撃情報を地図で可視化して次の出現場所を特定したい。 「同郷の誼で教えてくれる者は多いと思う。ジェラルド殿はファーガス出身の騎士たちから好かれていた」 そう語るディミトリは無意識に手に持っているフォークを、まるで草の茎のように二つに折り曲げていた。彼は触れたものを傷つけないように籠手を身につけて生活しているのだが、ブレーダッドの紋章由来の怪力は凄まじい。 「先生方には言わないで欲しい。レアさんはベレト先生本人の出撃に反対だからな」 ディミトリは基本、不機嫌な表情を浮かべることがない。立場の弱い者が自分の表情や機嫌で振り回されると知っているのだ。だがほんの一瞬だけ彼は黒い、としか表現しようのない顔をした。五年前の自分の目は節穴だったのだろう。自分の醜さにも気付かず、周囲の人々が抱える闇を把握出来ていると思い込んでいた。 クロードと同じものを見逃さなかったフェリクスがまたか、という顔をしてディミトリが折り曲げたフォークをそっと手に取りドゥドゥに渡した。ドゥドゥはもう慣れているのか反対方向に曲げてフォークを元の形に戻そうとしている。 「おい、猪。お前は何本フォークを駄目にするつもりだ。それとクロード、そう言うことであれば俺も自領出身の騎士たちに聞いてみよう。フラルダリウス出身者は多いからな」 フェリクスの指摘を受けドゥドゥにいつもすまない、と礼を言った時にはもういつものディミトリに戻っていた。 「すまない、一応確認しておきたいのだが黒鷲の者たちには?」 クロードはディミトリの推測した通り首を横に振った。モニカの件があったので黒鷲の学級への監視が厳しくなっている。ではロナート卿の叛乱後、青獅子の学級はどうなったかと言うとこれが実は逆だ。元より教会への不満を口にしていた彼が、教会への叛意がないことの表れとして正式に養子としたアッシュを入学させている。実際には蜂起の準備を気取られないための方便だったがその結果アッシュだけは助かった。 五年前、エーデルガルトがモニカたちを発見し復讐せよとべレスをけしかけた時、クロードはどうやってエーデルガルトが彼らを発見したのか見当が付かなかった。修道院なので修道士や騎士がいて当たり前なのだが黒鷲の学級に対する監視はかなり厳しいものになっていた、と記憶している。身も蓋もない事実を言えばエーデルガルトはモニカたちの作戦を知っていた。 知っていたのに賭けに出て彼女は聖墓で勝ったのだ。畳む 小説,BL 2024/11/16(Sat)
#説明できない #クロロレ #完売本
クロードは頼み込んでベレトからジェラルドの日記を貸してもらった。騎士団長を務めていた彼の手記はある時からがらりと趣が変わる。妻であるシトリーの死がきっかけだ。それまでは能天気なものだったが表情が変わらず、泣きもしない赤ん坊相手に違和感を覚えてからの彼の行動は慎重、かつ迅速としか言いようがない。ジェラルドは大司教レアが息子に何かしたと推理していた。
ジェラルドの日記を借りている、とクロードはまだ他の誰にも話していない。ローレンツにすら秘密にしていた。読み進めていくうちに自分がべレスの何に引っかかっていたのか、クロードは理解し始めていた。物質的には恵まれていたしあんな連中に自分は傷つけられていない、と信じていたが故郷の記憶が未だに自分の心を苛む時がある、とクロードは認めねばならない。
べレスは権力争いに敗れ心を病んだ妃たちのような身なりをしていたのにエーデルガルトたちから愛されていた。泣くことも笑うこともできなかったのにジェラルドは無条件で我が子を愛していた。クロードの父とは全く違う。そもそもクロードは父方の祖父母から見ても母方の祖父母から見ても生まれるはずがなかった孫だったし、まずは優秀さで父の視線を勝ち取らねばならなかった。祖父のオズワルドにしても嫡子であった叔父のゴドフロア一家が命を落とさなければ、自分を捨てた娘が産んだ孫に会おうとも呼び寄せようとも考えなかっただろう。
クロードは生まれたその日に母を失った不運なべレスに嫉妬していた。己の理不尽な心の動きに気がついたのならば、ベレトが真面目で誠実で、ついでに言えば不思議な人物であると認めるしかない。とっくの昔にローレンツが辿り着いていた地点にクロードはようやく辿り着けた。試されずに愛されて育った者たちが羨ましいのだ、と認めるしかない。クロードは二本目の蝋燭に火を灯してため息を吐いた。父を失い生まれて初めて涙を流し、顔を歪めて感情を露わにしたベレトのためにクロードが出来ることがある。
明朝、朝食の時間にクロードは青獅子の学級の学生たちが座る席を訪れた。先日、課題に協力してくれたイングリットに礼を言い、次に級長であるディミトリに話しかける。
「ベレト先生とジェラルドさんのことで協力してほしいことがある」
「何なりと言って欲しい」
「セイロス騎士団にはファーガス出身の騎士が沢山いるだろう?どこに出撃したのか聞いて欲しいんだ。勿論俺たちもレスター出身の騎士たちに出撃先を聞く」
ディミトリたちはすぐにクロードが何をしたいのか察してくれた。クロードはソロンとクロニエの目撃情報を地図で可視化して次の出現場所を特定したい。
「同郷の誼で教えてくれる者は多いと思う。ジェラルド殿はファーガス出身の騎士たちから好かれていた」
そう語るディミトリは無意識に手に持っているフォークを、まるで草の茎のように二つに折り曲げていた。彼は触れたものを傷つけないように籠手を身につけて生活しているのだが、ブレーダッドの紋章由来の怪力は凄まじい。
「先生方には言わないで欲しい。レアさんはベレト先生本人の出撃に反対だからな」
ディミトリは基本、不機嫌な表情を浮かべることがない。立場の弱い者が自分の表情や機嫌で振り回されると知っているのだ。だがほんの一瞬だけ彼は黒い、としか表現しようのない顔をした。五年前の自分の目は節穴だったのだろう。自分の醜さにも気付かず、周囲の人々が抱える闇を把握出来ていると思い込んでいた。
クロードと同じものを見逃さなかったフェリクスがまたか、という顔をしてディミトリが折り曲げたフォークをそっと手に取りドゥドゥに渡した。ドゥドゥはもう慣れているのか反対方向に曲げてフォークを元の形に戻そうとしている。
「おい、猪。お前は何本フォークを駄目にするつもりだ。それとクロード、そう言うことであれば俺も自領出身の騎士たちに聞いてみよう。フラルダリウス出身者は多いからな」
フェリクスの指摘を受けドゥドゥにいつもすまない、と礼を言った時にはもういつものディミトリに戻っていた。
「すまない、一応確認しておきたいのだが黒鷲の者たちには?」
クロードはディミトリの推測した通り首を横に振った。モニカの件があったので黒鷲の学級への監視が厳しくなっている。ではロナート卿の叛乱後、青獅子の学級はどうなったかと言うとこれが実は逆だ。元より教会への不満を口にしていた彼が、教会への叛意がないことの表れとして正式に養子としたアッシュを入学させている。実際には蜂起の準備を気取られないための方便だったがその結果アッシュだけは助かった。
五年前、エーデルガルトがモニカたちを発見し復讐せよとべレスをけしかけた時、クロードはどうやってエーデルガルトが彼らを発見したのか見当が付かなかった。修道院なので修道士や騎士がいて当たり前なのだが黒鷲の学級に対する監視はかなり厳しいものになっていた、と記憶している。身も蓋もない事実を言えばエーデルガルトはモニカたちの作戦を知っていた。
知っていたのに賭けに出て彼女は聖墓で勝ったのだ。畳む