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雑多です。
「説明できない」11.永訣
#説明できない #クロロレ #完売本

 ベレトが青獅子の学級からイングリットを連れてきた。金鹿の学級にはまだ飛行職がいないので課題に協力してもらうためだ。
「イングリットには上空から、調査依頼をされた区域を見てもらおうと思う」
 地形の把握に拘る彼らしい選択だった。クロードが学級を代表してイングリットに礼を言おうとしたが、皆口々に彼女に話しかけて礼を言っている。皆自分がしっかりしなければ学級がまとまらないと思いこんでいるのだ。しかしそのせいでいつも賑やか、というか五月蝿いしまとまりを欠く。
「こら、全員に返事させるのも手間だろ。金鹿の学級に協力してくれて感謝する」
 クロードが大袈裟な身振りで差し出した手を、槍の鍛錬で肉刺や胼胝だらけなイングリットの白い手が握った。
 白鷺杯も舞踏会も終わり、そろそろ時間がないのだがモニカは常にエーデルガルトかヒューベルトの傍にいて一人きりになることがない。ジェラルドを助けるためにもモニカをエーデルガルトから引き剥がさねばならないのだが、あの状態は一体どちらの意志なのだろうか。ローレンツは心苦しく思いながらも黒鷲の学級での彼女の様子を知るためフェルディナントを茶会に誘った。
「お招きありがとうローレンツ」
 修道院の中庭で白磁の器に琥珀色の液体を注いでいると数日後、この修道院に魔獣が多数出没することがとても信じられない。だがローレンツの記憶の中でもクロードの記憶の中でもその事件は起きたのだ。ローレンツもクロードもジェラルドを救いたいと考えている。そのためにはモニカを行動不能にせねばならない。
「君の学級もなかなか落ち着かないからな。こういった時間が必要だと思ったのだ」
 ローレンツの言葉を聞いてフェルディナントは長いオレンジ色の睫毛を伏せた。モニカに対してかなり思うところがあるらしい。親友に対して本当に申し訳ない、と思いつつローレンツは話を振った。
「モニカの立ち振る舞いを見ているとこちらの肝が冷える」
「貴族らしからぬ言動が目立つのかい?」
「辺境の貴族が皇女の傍に、という望外の幸運に恵まれて浮き足立っているのかもしれないが……」
「ヒューベルトくんは許容しているのかね?」
 そこが最も不可解な点だ、とフェルディナントは言う。モニカはエーデルガルトの監視役なのではないだろうか。エーデルガルトにはヒューベルト以外味方がいないのではないだろうか。口には出さず、ローレンツはそう考えた。

 数日後、やはり修道院内に額に結晶を付けた魔獣が多数、出現した。
「確かに魔獣どもがいやがる……。出どころは礼拝堂と見て間違いねえだろう。俺は礼拝堂に向かう! お前らは、逃げ遅れた生徒たちを保護してやれ!」
 逃げ遅れた、というが老朽化に伴い立ち入りが禁止されていた旧礼拝堂に何故これほど沢山の学生がいるのだろうか。ジェラルドの指示通りローレンツたちはベレトと共に逃げ遅れた学生を救って回り、ついでに話を聞いていった。だが皆、何故自分がここにいるのか分からないという。
 礼拝堂から湧き出て救助活動を邪魔しようとする魔獣たちを引きつけたジェラルドと教団兵が次々と魔獣を撃破していく。
「やっぱり、魔獣の正体は生徒だったか。しかし、何だってこんなことが……?」
 ジェラルドはセイロス騎士団に復帰してからレアに命じられ様々な異変を調査している。コナン塔に関する資料にも目を通している筈だ。だからやっぱり、という表現が使えたのだろう。
 自陣の後ろには救助した学生を保護しておく天幕が張ってある。ジェラルドたちが撃破した魔獣の中から現れた学生をその天幕に運ぶため、ローレンツはリシテアに転移魔法をかけてもらった。気を失った学生を抱きかかえそのまま一目散に天幕へ向かっていく。自陣に戻るだけならば大した手間でもない。天幕の中にはマリアンヌがいた。
「ローレンツさん、お疲れ様です」
「ありがとう、マリアンヌさん」
「少しお時間をいただきますね。皆、中庭で何か光っているものが落ちていることに気づいて拾ったそうです」
 マリアンヌの表情から察するにその後、彼らの記憶は途切れたのだろう。
「地面に落ちたものに触れる時は手巾を使うに限る」
 ローレンツの言葉を聞いたマリアンヌは眉尻を下げて小さく笑った。二人にしか通じない冗談だ。この状況下で、混乱した学生たちから聞き取りができたマリアンヌの冷静さにローレンツは舌を巻いてしまう。これは教会にもクロードにも教えるべき情報だ。
 再び馬首を翻し前線へと戻ったローレンツは日頃大きな声を出さず、表情も殆ど崩さないベレトの絶叫を耳にして深く深くため息をついた。マイクランの時と同じく結果が変わってくれない。ベレトがジェラルドのすぐ近くにいるならば何とかなるかと思ったがジェラルドは救えなかった。
 一方でイングリットの協力もあり学生たちの救助には成功している。彼女はシルヴァンの幼馴染でマイクランとも当然、面識があった。倒した魔獣の中から現れた学生を見た時、ほんの少しだけ彼女が怯えていたのは人の口に戸は立てられないからだろう。魔獣の中から核となった人間の亡骸が現れる、とシルヴァンか誰かから聞いていたのだ。ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。あの時の自分たちはある種の魔獣の素材が生きた人間である、と知らなかった。知っていたらミルディン大橋に立っただろうか。畳む
「説明できない」12.仇討
#説明できない #クロロレ #完売本

 クロードは頼み込んでベレトからジェラルドの日記を貸してもらった。騎士団長を務めていた彼の手記はある時からがらりと趣が変わる。妻であるシトリーの死がきっかけだ。それまでは能天気なものだったが表情が変わらず、泣きもしない赤ん坊相手に違和感を覚えてからの彼の行動は慎重、かつ迅速としか言いようがない。ジェラルドは大司教レアが息子に何かしたと推理していた。
 ジェラルドの日記を借りている、とクロードはまだ他の誰にも話していない。ローレンツにすら秘密にしていた。読み進めていくうちに自分がべレスの何に引っかかっていたのか、クロードは理解し始めていた。物質的には恵まれていたしあんな連中に自分は傷つけられていない、と信じていたが故郷の記憶が未だに自分の心を苛む時がある、とクロードは認めねばならない。
 べレスは権力争いに敗れ心を病んだ妃たちのような身なりをしていたのにエーデルガルトたちから愛されていた。泣くことも笑うこともできなかったのにジェラルドは無条件で我が子を愛していた。クロードの父とは全く違う。そもそもクロードは父方の祖父母から見ても母方の祖父母から見ても生まれるはずがなかった孫だったし、まずは優秀さで父の視線を勝ち取らねばならなかった。祖父のオズワルドにしても嫡子であった叔父のゴドフロア一家が命を落とさなければ、自分を捨てた娘が産んだ孫に会おうとも呼び寄せようとも考えなかっただろう。
 クロードは生まれたその日に母を失った不運なべレスに嫉妬していた。己の理不尽な心の動きに気がついたのならば、ベレトが真面目で誠実で、ついでに言えば不思議な人物であると認めるしかない。とっくの昔にローレンツが辿り着いていた地点にクロードはようやく辿り着けた。試されずに愛されて育った者たちが羨ましいのだ、と認めるしかない。クロードは二本目の蝋燭に火を灯してため息を吐いた。父を失い生まれて初めて涙を流し、顔を歪めて感情を露わにしたベレトのためにクロードが出来ることがある。
 明朝、朝食の時間にクロードは青獅子の学級の学生たちが座る席を訪れた。先日、課題に協力してくれたイングリットに礼を言い、次に級長であるディミトリに話しかける。
「ベレト先生とジェラルドさんのことで協力してほしいことがある」
「何なりと言って欲しい」
「セイロス騎士団にはファーガス出身の騎士が沢山いるだろう?どこに出撃したのか聞いて欲しいんだ。勿論俺たちもレスター出身の騎士たちに出撃先を聞く」
 ディミトリたちはすぐにクロードが何をしたいのか察してくれた。クロードはソロンとクロニエの目撃情報を地図で可視化して次の出現場所を特定したい。
「同郷の誼で教えてくれる者は多いと思う。ジェラルド殿はファーガス出身の騎士たちから好かれていた」
 そう語るディミトリは無意識に手に持っているフォークを、まるで草の茎のように二つに折り曲げていた。彼は触れたものを傷つけないように籠手を身につけて生活しているのだが、ブレーダッドの紋章由来の怪力は凄まじい。
「先生方には言わないで欲しい。レアさんはベレト先生本人の出撃に反対だからな」
 ディミトリは基本、不機嫌な表情を浮かべることがない。立場の弱い者が自分の表情や機嫌で振り回されると知っているのだ。だがほんの一瞬だけ彼は黒い、としか表現しようのない顔をした。五年前の自分の目は節穴だったのだろう。自分の醜さにも気付かず、周囲の人々が抱える闇を把握出来ていると思い込んでいた。
 クロードと同じものを見逃さなかったフェリクスがまたか、という顔をしてディミトリが折り曲げたフォークをそっと手に取りドゥドゥに渡した。ドゥドゥはもう慣れているのか反対方向に曲げてフォークを元の形に戻そうとしている。
「おい、猪。お前は何本フォークを駄目にするつもりだ。それとクロード、そう言うことであれば俺も自領出身の騎士たちに聞いてみよう。フラルダリウス出身者は多いからな」
 フェリクスの指摘を受けドゥドゥにいつもすまない、と礼を言った時にはもういつものディミトリに戻っていた。
「すまない、一応確認しておきたいのだが黒鷲の者たちには?」
 クロードはディミトリの推測した通り首を横に振った。モニカの件があったので黒鷲の学級への監視が厳しくなっている。ではロナート卿の叛乱後、青獅子の学級はどうなったかと言うとこれが実は逆だ。元より教会への不満を口にしていた彼が、教会への叛意がないことの表れとして正式に養子としたアッシュを入学させている。実際には蜂起の準備を気取られないための方便だったがその結果アッシュだけは助かった。
 五年前、エーデルガルトがモニカたちを発見し復讐せよとべレスをけしかけた時、クロードはどうやってエーデルガルトが彼らを発見したのか見当が付かなかった。修道院なので修道士や騎士がいて当たり前なのだが黒鷲の学級に対する監視はかなり厳しいものになっていた、と記憶している。身も蓋もない事実を言えばエーデルガルトはモニカたちの作戦を知っていた。
 知っていたのに賭けに出て彼女は聖墓で勝ったのだ。畳む
「説明できない」14.間際
#説明できない #クロロレ #完売本

 盗み聞きがばれないようにレアたちのいる場から自室に戻ったクロードは考えを整理するべく、お気に入りの書字板を取り出した。セイロス教の五戒を鉄筆で記していく。
・女神の存在とその力を疑ってはならない
・女神の名をみだりに口にしてはならない
・父母と教会を敬え
・女神から与えられた力を正しく使え
・殺し、傷つけ、嘘をつき、盗むことを禁ずる
 セテスは先ほど禁忌に触れるような行いをしたのか、と大司教レアに問うた。彼女は少なくともこの五戒のうち四番目と五番目を破っている。彼女の能力が正しく生かされたのならばセテスに隠さないはずだ。故に四番目の戒律を破っている。そして親の同意を得ずにその子供の身体に不可逆な変化を与えるのは、身体に傷をつけることと変わらない。それを取り繕うために嘘をついた。故に五番目の戒律を破っている。
 彼女が生まれたばかりのベレトに何かしたのは確定している。ジェラルドはそれを怪しんでガルグ=マクを出たので、レアは結果を確かめられなかった。しかし遅れてその成果が出たからこそ、あんなに彼女は色合いが変わったベレトを見て喜んでいたのだ。ベレトの亡き父ジェラルドならベレトの変化をどう評価するのだろうか。きっと全く動じず受け止めるのだろう。
 ローレンツの記憶でもエーデルガルトとヒューベルトがガルグ=マクにいるのは今節が最後だ。どう立ち回るべきか彼と相談する必要がある。早く相談したいのだがローレンツは今、青獅子の学級から課題協力を依頼されたため泊まりがけで出かけていた。
 数日後、青獅子の学級がガルグ=マクに帰還したと聞いたクロードはローレンツを探して敷地内を彷徨いていた。ようやく見つけた彼はシルヴァンやイングリットらと共に厩舎で何やら話し込んでいる。
「そういうことであれば金鹿の学級に転籍してはどうだろうか?」
「ですが殿下がなんと仰るか……」
「座学は今まで通りなのだからたいした違いはないと思う。考えてみて欲しい」
「ローレンツの言う通りファーガスに帰っちまったら縁遠くなるのは確かだな」
 デアドラに現れた帝国軍と相対するのに故郷のパルミラからわざわざ部隊を派遣してもらったが、隣国かつセイロス騎士団をすぐに引き取ったディミトリと連合軍を作る方が得策だったかもしれない。密入国させるのも面倒だったし、今のクロードはフォドラのセイロス教徒がどれだけ忍耐強く勇敢なのかを知っている。クロードはローレンツの邪魔にならないよう、そっと厩舎を立ち去った。
 その晩はローレンツの方から話がある、と言ってクロードの部屋を訪れた。扉を開けたローレンツは疲れた顔をしている。座れるようにしておいた椅子を勧めて蒸留酒を注いだ杯を渡すと薄い唇の端が上がった。
「お疲れさん、どうだった?」
「いや、とにかく寒さが身に堪えたよ。フェルディアにいたことはあるが、あくまでも街中だ。雪中行軍ではない」
 ローレンツはどうしてファーガスの者たちに苦手意識がないのだろうか。クロードは正直言って、自分にとどめをさしたベレスではないのに顔がそっくりなベレトが苦手だった。それにペトラ以外の黒鷲の学生とは今も積極的に話す気になれない。
「俺も寒いのは苦手だよ」
「だが逃げるならオグマ山脈を縦走すべきだ。あれなら帝国軍は追いつけない。雪に慣れているファーガスの者たちと協力すべきだ」
 クロードは書字板の蝋を均してフォドラの地図を描いた。出身地の地点に皆の名を書いていく。
「そうなるとヒルダやリシテアとは別行動だな」
「儀式の後でそれとなく話しておくべきだ」
「ローレンツは五年前もそうやって自領に戻ったのか?」
 ローレンツは大きくため息をついて首を横に振った。クロードの記憶でも蜘蛛の子を散らすようにそれぞればらばらに帰郷している。
「試す価値はありそうだ。ところでな、いよいよ聖墓で儀式がある。俺たちも出席せよとのことだ」
「聖域に入れるのか……」
 そう語るローレンツはどこか嬉しそうだった。クロードの見たところ彼は盲信的な信者ではなく、己を律し高めるためセイロス教を利用しているにすぎないのだがそれでもやはりありがたく感じるらしい。
「そしていよいよ開戦だ。親帝国派の筆頭グロスタール家の嫡子どの。どうする?」
 クロードは茶化したがローレンツは菫青石のような瞳で真っ直ぐ見返してきた。
「当家は親帝国派ではあるがレスター諸侯同盟の一角を担っている。五年前はその本分を忘れたから一族を守るために僕が犠牲となった。今度は本分を忘れるような行いはしない。クロード、君こそレスター諸侯同盟を守るために全力を尽くすのか?」
  五年前のクロードは保険を掛けていて、しかも受取人に相談すらしていなかった。色々と察していたエドマンド辺境伯とグロスタール伯が後始末をしたはずだ。五年前のクロードが知るマリアンヌとローレンツは親と意見を違えることがなかったので、自分の戦死についても少し残念だと思った程度だろう。戦後処理をしているうちに二人が付き合って結婚でもしていてくれたら、なんとなく救われるような気がする。クロードが五年前の、最初に知り合ったローレンツの人生に影響を与えるようなことはもうない。だが目の前の彼に関しては違う。クロードはローレンツの目を見つめ、はっきりと全力を尽くす、と宣言した。畳む
「説明できない」15.儀式
#説明できない #クロロレ #完売本

 ローレンツたちは大広間で先生方から儀式についての説明を受けた。クロードは理にかなっていない、腑に落ちない、裏がある、としきりに言っていたが人智を超えた恩寵や奇跡なくして成り立つ宗教の方がローレンツには想像がつかない。静かにするように窘めたが、クロードが緊張を紛らわすため喋り続けている心境はローレンツにも理解できた。エーデルガルトが表舞台に立ち、フォドラ中を戦乱に巻き込むその初日が今日だ。
 地下に降りる装置はワープの魔法ではなく機械仕掛けらしい。宗教施設の大掛かりな装置といえばさり気なく魔法を使ったものが多い印象だが、建物のどこにもそれらしい記述が見当たらなかった。大司教レアですら敵が攻めてくるとは知らず、静かに喜びに浸っている。これほど巨大な空間が地下に存在することをローレンツたちは知らなかった。この聖域を世俗の目から覆い隠すためにガルグ=マク修道院が建てられたらしい。世界を創造する役目を終え、眠りについた尊い存在の亡骸は聖遺物となってフォドラ中から信徒を呼び寄せている。
 信心深いマリアンヌは聖なる墓所の内部を眺めることすら畏れ多い、と言った風情で足元だけを見ている。多分どこかに腰か肩をぶつけるだろうからよく見ておいてやらねば、とローレンツが視線を動かすとクロードと目があった。
「儀式って玉座に座るだけなのか?」
 クロードは儀式自体に疑いを持っている。確かにクロードの言う通りだ、女神の心とベレトが一体化して闇を喰らい、再び地上に戻ってきたと言うなら誰が彼に啓示を与えるというのだろう。
 ベレトは玉座に見覚えはあるものの、着席しても特に思うところはないらしい。戸惑うベレトを見たレアは動揺が隠せずにいる。そうでなければ侵入者に真っ先に気づいたのがクロード、ということはなかっただろう。
 炎帝が率いている兵士たちの軍装をみてレオニーやヒルダが驚愕していた。この場でローレンツとクロードだけが帝国の兵士たちに驚いていない。ローレンツも槍を構えていたがクロードもレアの命令を待つことなく弓に矢を番えていた。
「魔獣は身動きが取れないから後回しでいい!弓の射程に入らないように気をつけて盗賊と兵士を狙え!」
 怒りと衝撃のあまり適切な指示が出せなくなっているレアに代わってベレトが指示を出す。一体、レアはベレトにこれ以上どうなって欲しかったのだろう。帝国も帝国についた諸侯に言葉を尽くして説明しなかったが、教会にも大きな秘密がある。
「墓荒らしの目的は一つだろ、炎帝さんよ。あんたは聖墓に眠るお宝を暴きに来た、と」
「ふ、察しが良いな、道化師。ここにある紋章石はすべて貰い受ける。それを眠らせておいたところで、薬どころか毒にさえならぬ」
 ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った時、ある種の魔獣の正体を知らなかった。檄文で教会から社会を取り戻す、と主張していたが人間を魔獣に変化させても勝利のためなら仕方ない、とするエーデルガルトが導く社会はどんなものになるのだろうか。人間は自分に不利なことを隠すものだが、これはいくらなんでも酷すぎる。
「撃ち合いなら負けませんよ!」
 イグナーツやレオニーのような平民でも弓の扱いが巧みなのがレスター諸侯同盟の特徴だ。矢は基本、使い捨てで装備を揃えるには手間か金銭のどちらかを必要とする。レスター諸侯同盟は新興国だが、元がファーガスの中でも豊かな地方なので稼ぎ頭として北部を支えていた。
 このローレンツ=ヘルマン=グロスタールとその友人フェルディナントを使い捨てにした帝国に豊かな自領を、レスターをくれてやるわけにはいかない。
 魔法は魔獣用に取っておかねばならないのでイグナーツが狙っている弓兵に向けてローレンツは手槍を投げた。顔や喉には当たらなかったが太腿に刺さったのでよしとする。とどめはイグナーツが刺すだろう。
「ローレンツ! 次はレオニーの援護! レオニー! 一撃で仕留めようとするな! 無力化すればそれでいい!」
 クロードの前衛を務めているベレトから矢継ぎ早に指示が入る。前しか向いていないように見えるのに背中や腕に目でもあるのか、いちいち的確な事を言う。ベレトはフレンの誘拐やルミール村の件を問い詰めたいのか、クロードを引き連れエーデルガルトに向かって突撃していた。これは本当に珍しいことでやはりベレトも冷静でいられないのだろう。まだ仮面を被っているエーデルガルトの前衛の兵士たちを全て倒し、クロードとベレトは彼女の目の前に立ちはだかった。
「お前が噂の炎帝か。……なあ、教えてくれ。紋章石を使って何をするつもりなんだ? フレンの血を使って何をした?クロニエやソロンってのは何者だったんだ?」
「……黙れ。貴様が知る必要はない」
 エーデルガルトとヒューベルトは文武両道を目指す士官学校で学生生活を過不足なくこなしながら、二重生活を送っていたことになる。ちょっとした隙間時間にエーデルガルトたちの様子を探るだけでローレンツもクロードも精一杯だったのに、その情熱はいったいどこから来るのだろうか。
 その情熱の源となった悪意を彼女に植え付けたのは何者なのだろうか。クロードの小芝居を無感動に眺めながら、ローレンツは答えが出ない問いに頭を悩ませていた。畳む