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雑多です。
7/4〜5開催クロロレwebオンリー2025参加用ページです。

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「家出息子たちの帰還」
蒼月ルートのクロロレR18小説(全30話8万文字)ですがドゥドゥーとディミトリの話でもあります。
11/16こくほこで本にする予定です。

通販(booth)
「数多の叉路」通販(pictspace)
以下の3冊は完売したのでPixiv FactoryにPDFを登録しました。装丁は初版とかなり異なります。
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ふたつ、かさねてbooth
「ふたつ、かさねて」書き下ろし以外の本文
翠風ルート。オメガバースのビッチングネタです。

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願い骨booth
「願い骨」書き下ろし以外の本文
翠風ルート。年齢操作ネタですがR18シーンでは同い年です。
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「有情たちの夜」booth

「有情たちの夜」boostお礼の短編以外の本文]
紅花ルート。フェルヒュー前提。ヒューベルトに尋問されるクロードの話です。

#クロロレ
蒼月ルートのクロロレです。「家出息子たちの帰還.15」#クロロレ #家出息子たちの帰還

───祖霊や神霊に選ばれて巫者になるものは精神に異常をきたすことが多い。あるはずがないものを見て聞こえないはずの声を聞くうちに日常に支障が生じるのは想像に難くない。だがこうやって祖霊や神霊は巫者候補が他者を二心なく助けられる人物であるかどうか確かめているのだという。選ばれたものが祖霊や神霊の指示に逆らって巫者にならないと今度は家族や飼っている動物の命を奪うのだ───


 あの日のディミトリはグレンの断末魔を聞いた。父の首が落ちるところを見た。にも関わらず首謀者の姿だけは見ることが叶わなかった。《許さない、殺す前に手足をもいでやる》あの日以来、死者は毎日ディミトリの耳元で首を捧げよと訴えて来る。名前が分からなければ、顔が分からなければこの手で首を捩じ切ることもできない。だがそんな歯痒い日々は地道な努力とは関係なく終わりを告げた。
「後は成すべきことを成すだけだ。そうすれば俺たちは結果に左右されない」
 大袈裟な身振り手振りで話したクロードは口を閉じ、静かな教室でディミトリの返事を待っている。
「そうだな」
 時を知らせる鐘が鳴るたびにディミトリの胸も高鳴った。悲願が達成される瞬間も近い。エーデルガルトが大軍を率いていてもディミトリ個人には関係なかった。《しくじるな、逃げられる前に手足をもげ》心の霧は晴れ、いつもより遠くが見渡せるような気がする。
「全員、無事に帰宅させてやりたいんだよ」
《早く、王都の城門に首を晒せ》
「問題ない。頭を潰せばいいだけだ」
 ドゥドゥーが分かりやすく咳き込んだ。だがクロードもヒルダも怪訝な顔すらしない。それでも場を取り繕いたくてディミトリはぎこちなく微笑んだ。伯父のリュファスはこういう時に嫌悪感を露わにする。だが二人ともその身に紋章を宿しているせいか、不自然な笑顔もきちんと無視してくれた。その陽気な柔軟さがありがたい。
「私たちはどうしても北と東に分かれちゃうから協力してほしいんだよねー」
 ヒルダが最初にドゥドゥーの腕を取ったのは上手いやり方だったと思う。二人の思惑通り、少し動揺したディミトリも釣られて無人の教室に入る羽目になってしまった。
「教会も俺たち全員に殉死してほしいわけじゃないだろ?踏みとどまるかどうかの基準は絶対に必要だ」
《臆病者!首を捩じ切る千載一遇の機会を奪うな!》クロードの言葉にドゥドゥーが頷いている。それなら亡霊たちがどう思うかはともかく、ディミトリ個人に反対する理由などない。

 
 ディミトリとドゥドゥーがクロードたちの教室から去った後、ヒルダは手巾で額の汗を拭った。日頃は軽薄な態度が目立つがこういう時は本当に頼りになる。
「手伝ってくれて助かった。やっぱりまず王子様に話を通しておかんとなあ」
 そういうとクロードは手の甲で額の汗を拭った。ディミトリには二心がある。こちらを裏切ろうとしているとかそういった類のことではない。ただ事実として心が二つある。
「ラファエルくんは気にしないだろうけどさ、ローレンツくんはどう思ってるの?何か聞いた?」
 そもそもクロードに何だかディミトリの様子がおかしい、と教えてくれたのはローレンツなのだ。夜に二人で語り合い、それぞれに意見を固めたと言っても過言ではない。
 ディミトリは先王の血を引き、ブレーダッドの紋章をその身に宿すたった一人の王子だ。周囲の大人たちが彼の二心に向き合わねばならない。だが彼の心に巣食うもう一つの心は周囲の大人たちの心と完全に重なる。
「あいつの考えも俺たちと似たようなもんさ」
「エーデルガルトちゃんだけ考えが違うんだね。どうしてなんだろう?」
 おそらくその答えが世に広く知られる時にディミトリかエーデルガルト、どちらかが命を落とす。それくらい決定的な破綻があったのだ。
「答え合わせは当分先になる筈だ」
「その時まで無事でいないとね。じゃあ私、大広間に行くからクロードくんは頑張って」
「途中でベレト先生とすれ違ったら俺が探してた、とだけ伝えておいてくれ」
 大広間では話し合いのため教室を無人にするのに協力してくれた級友たちが結果を待っている。そこそこ好ましい結論が出たせいかヒルダの後ろ姿は嬉しそうだった。クロードはこれからいつも敷地内を駆け回っているベレトを捕まえ、レアとアロイスの元へ行って撤退する際の物資を分けてもらえないか交渉せねばならない。
 ディミトリは勝敗を気にしていないがおそらくセイロス騎士団は敗北する。エーデルガルトは大軍を擁している上にアビスも含めたガルグ=マクの敷地や建物の構造に詳しいからだ。


 ドゥドゥーとアネットは倉庫にいた。可能な限り帝国軍に抗うつもりだがそれでも限界はある。
「ベレト先生にお願いされたんだけど、元はクロードの提案なんだって」
 くしゃみをした後でアネットが教えてくれた。倉庫には火の気がないので小柄で筋肉の少ないアネットは居るだけで身体が冷えてしまうのだろう。
「軽薄に見えても皆のことを考えて行動できるということだ」
 計算高いクロードが大軍を前にしても義理を優先していることは素直にありがたい。これ以上情勢が混沌としたら困惑したままで全てが終わってしまう。
 とにかく帝国軍がこちらに到着する前にセイロス騎士団の厚意で分けてもらった食料や薬の数を正確に数え、皆に分配しなくてはならない。アネットから間違いがないように手伝ってほしい、と言われたドゥドゥーは棚の上から箱を下ろした。小柄なアネットが無理に下ろしたら中身を割ったかもしれない。
「私、士官学校に来てよかった。殿下とも色んなお話ができたし、ドゥドゥーとお友達になれたしローレンツにも謝ってもらえたしから」
「謝る?」
 アネットはドゥドゥーに魔道学院でローレンツから迷子の町娘に間違われたことを話してくれた。気持ちはわからなくもない。アネットは苦労や努力がわかりにくい見た目をしている。彼女もいつかヒルダのように己の外見を利用するような強かさを身につける日が来るのだろうか。
「ドゥドゥー、五年後の同窓会もだけど……私、殿下の戴冠式がすっごく楽しみなの!王国なのが嫌だ、って独立して出来たのが同盟だけど、こうして協力も出来てるしクロードやローレンツもフェルディアに招かれるといいなーって」
 ドゥドゥーはフェルディアの王宮にローレンツやクロードがいる様子を想像してみた。玉座に座るディミトリの御前でも騒々しくしているだろう。
「そうだな。こうして協力できたならそんな日が来るのかもしれない」
「すっごく怖いけど、その日のためにやれることは全部やっておこうね!」
 アネットの望む未来はドゥドゥーも復讐を果たした後のディミトリも望む未来だ。だがディミトリは本懐を遂げるその日まで、未来を見ることがないような気がしている。畳む
蒼月ルートのクロロレです。「家出息子たちの帰還.14」
#クロロレ #家出息子たちの帰還

───ダスカー人は憑霊状態になった巫者と巫者本人の間に明確な一線を引く。巫者は祖霊と交流するのに欠かせない特殊技能の持ち主であると認めているが、それでも巫者本人は祖霊の入れ物に過ぎないからだ。依頼者は巫者がその身に宿した祖霊にしか用はない。憑霊状態の時には平伏しても巫者本人は人として扱う。(中略)老いや病でその身に祖霊を下ろせなくなった巫者は弟子に地位を譲り、依頼者そして信者としてかつての弟子を相手に平伏すらするのだ───


 シルヴァンの副官として儀式に参加しているローレンツは緊張しているのか、ずっと黙っていた。本来なら俗人が入ることを許されない聖域は静謐さに満ちている。軽口を飛ばすのも憚られるような状況で儀式は失敗に終わった。望んだ時に望んだような奇跡は起こらない。
 居た堪れない雰囲気は敵襲によって終わりを告げ───シルヴァンもローレンツも何を信じれば良いのか分からなくなっている。
 フェリクスは初陣を終えてからディミトリを詰るようになった。ジェラルトの死がきっかけとなり、ディミトリの中に埋もれていた火は再び勢いを増している。あの時、彼は自分の母親を殺しておきながら、と言った。
 どうやら短剣の子、はエーデルガルトであったらしい。彼の人生は苦難と悲しみに満ちている。そんな中で短剣の子、だけは微笑ましい話として周囲から消費されていた。紋章由来の怪力を持つディミトリと凡人の間には元から深い溝があり───その溝を埋める素材はもうない。
 皆と共に教室で待機しているローレンツは儀式の時からずっと黙っている。シルヴァンは彼の隣に腰を下ろした。先ほどからフェリクスはアネットと話しこんでいるので邪魔をしたくない。
「ローレンツ、ちょっといいか?」
「……構わない」
「気を紛らわしたいからこの場とは関係ない話をしよう」
 ローレンツはため息をついた。グロスタール領は帝国と面している。領民を巻き込まないために今後どうすべきか、で頭がいっぱいのはずだ。
「理性は感情に敵わないのかもしれない」
 これは哲学の話ではない。哲学に見せかけた現実の話だ。ディミトリは首を捻じ切ることを熱望している。おそらく比喩ではない。
「手綱が切れたら足腰で何とかするしかないな」
「その場合、足腰は何が該当するのだろう?」
「そこは信仰……じゃないか?」
 口をついて出た言葉が自分でも意外で、シルヴァンは思わず唇に手を当てた。ローレンツも驚いたのか何度も瞬きしている。だが、そこまで追い詰められた時に役に立たないのであれば───セイロス教の五戒など存在する意味がない。


 ローレンツは女神の奇跡を目撃したはずなのに聖墓での儀式は失敗した。大司教であるレアがベレトに求めているものがさっぱり分からない。戸惑ったまま皆で教室に戻り、しばらく待機させられた後で解散となった。セイロス騎士団のものたちもエーデルガルトの行動に呆然としている。
 元から寮で過ごす時間は残り少ないはずだった。だがこんな終わり方をするはずではなかった。
「ちょっと来てくれ」
 クロードの表情はこれまで見たことがないほど硬い。鏡で確認する気もしないがローレンツも似た様な表情をしているだろう。
「いや、偶には僕の部屋で……」
 フェルディナントの部屋をを横目でちらりと見たクロードは無言で己の部屋を指差した。フェルディナントは盗み聞きをするような人物ではない。だが彼を疑わずに済むようローレンツは無言で頷いた。意地を張るような局面ではない。
 
「教会か帝国か選べってことだ」
 部屋に入るなり寝台に寝っ転がったクロードは現状を要約した。疲れて身体を投げ出したい気持ちはローレンツにもよくわかる。
「君ならどちらを選ぶ?」
 グロスタール家は領民のため不本意でも帝国を選ばねばならない。苦い思いを飲み込みながらローレンツは文机用の椅子に腰を下ろした。
「帝国は豊かだがエーデルガルトは無限に金貨が湧き続ける壺を持ってる訳じゃあない」
 兵士は存在するだけで糧食を必要とするし輸送部隊は物資を運びながら消費していく。
「まさか……戦費が尽きるまで誤魔化し続けるつもりか?」
 頰に手を当てたクロードが上目遣いにローレンツの様子を窺っている。
「信頼に値するか?」
 どちらも信頼できないのは確かだ。気取られずに戦争の準備をしていた帝国も枢機卿が別人に入れ替わっていたのに全く気付いていなかった教会も───それぞれの理由で財や命を賭ける気になれない。
「だがそれではこちらが信頼を失ってしまう」
「勿論、俺の私見に過ぎない。大人たちには全く別の考えがあって、そっちの方が名案な可能性だってある」
 そういうとクロードは起き上がって棚の酒瓶を手に取った。予定が狂った苛立ちを鎮めなければきっと余計な犠牲が生まれる。


 ツィリルは騎士や修道士たちの会話からエーデルガルトの檄文の内容について察した。彼女がしたいことも分かった。だが何を言いたいのか、はよく分からない。
 しかしパルミラとフォドラの国境地帯で育ったので敵の軍勢が迫ってくる際特有の雰囲気には覚えがある。生きのびるためには恐怖で強張る身体を動かさねばならない。だから空元気を出すために皆で祖霊や神霊に加護を祈っていた。しかしツィリルは結局両親を失い捕虜になっている。
 だがよく分からない女神に祈りを捧げる気も起きなかった。ツィリルが崇拝しているのはレア本人で、女神ではなくレアの行為に感謝している。それが騎士たちとの最も大きい違いかもしれない。彼らは聖堂で毎日聖典を読み、頭を垂れて祈っている。
 ツィリルはこれまで本の中身に興味を持ったことはない。だがリシテアに文字を習い始めた今なら理解できるのではないか───そう考えて手に取ったがやはり難解すぎた。
 リシテアは聖典を手にしたツィリルから聖堂で話しかけられて驚いたのか何度も瞬きをしている。確かにツィリルにとって聖堂は蝋燭を取り替えたり掃除をする仕事場であっておしゃべりを楽しむような場所ではなかったのだ。
「リシテア、この本を読めばどうして帝国がレア様を虐めようとしているのか、ボクにも分かるようになる?」
「いいえ、そんなことは書いてありません。そうではなくてこれまで何があったのか、してはならないこと、するべきことについて書いてあります」
 何故騎士たちは熱心に聖典をめくり、女神に頭を垂れているのだろう。
「聖堂でお祈りするのは……しなさいって書いてあるから?」
「そうですね。祈祷、祈りを捧げることは義務……つまりするべきこと、になっています」
 パルミラの祖霊たちの中には祈祷が足りないと言う理由で人間を呪うものも存在する。
「お祈りしないと何か嫌なことが起きたりするの?」
「起きませんよ、安心してください」
 リシテアはそう言って微笑んだ。しかし罰も与えられないような存在にレアや騎士それに学生たちを守る力はあるのだろうか。畳む
6年目のお茶会webアンソロ参加作品「木箱」
#クロヒル #ロレマリ

 光の杭によってメリセウス要塞が破壊され、ミルディン大橋まで撤退した日はそれぞれに釈然としない思いを抱えたまま解散することとなった。
 すぐに受け入れられるものではない、と頭で分かっていてもローレンツの拒絶にクロードは傷ついただろう。ローレンツもひどく驚いて頑なな態度をとってしまったことを今頃悔いているはずだ。ヒルダもまだ戸惑っている。
 だがアンヴァルに向かう前にこの雰囲気はなんとかせねばならない。そんな訳でヒルダはまずローレンツの部屋の扉を叩いた。部屋が片付いていない、という理由で断られたら彼の部屋を使いたい。
「クロードくんと話をしたいから一緒に来て欲しいんだけど」
 扉はすぐに開き、ローレンツは廊下へ出てきてくれた。表情から察するにやはりまだクロードに謝罪していない。ヒルダは続けてクロードの部屋の扉を叩いた。
「私たち話があるの」
「どちらの部屋がいい?」
 ローレンツは完璧にヒルダの意図を察している。意外だがヒルダたちはクロードの部屋に入ることが出来た。それほど床も汚れていない。クロードは来客用の椅子にヒルダを、文机用の大きな椅子にローレンツを座らせた。彼自身は寝台に座るつもりらしい。
「ローレンツ、お湯沸かしてくれ」
「僕を火種扱いするな」
 息を吸うように反発したがローレンツはファイアーの呪文を唱え始めた。卓上でも使えるような小さな焜炉には小さなやかんが載せてある。クロードはお湯をローレンツに任せると棚から箱を取り出した。
「もう隠す必要もないしな」
 どうやら故郷の品らしい。箱からは白い包みが現れた。中には焦茶色の塊が入っている。クロードは板のような謎の物体を机の上に置き、背中を揉むかのように両手を押し付けた。
「あれ?割れないな」
 クロードが手こずるそれ、は何かの葉を乾燥させて板状に固めたものらしい。
「私、やってみてもいいかな」
 ヒルダが力を込めると焦茶の塊はすぐ真っ二つに割れた。
「流石ヒルダだな!」
「そんなに強く押したつもりないんだけどなー」
「ん?これは茶葉なのか?」
 辺りに広がる香りにローレンツが反応する。
「長距離輸送に耐えるように固めるんだ。表面には刃が入らないから最初は割るしかなくてなあ」
 クロードは小刀で茶葉の塊を削って茶器に入れるとお湯を注いだ。少し蒸らしてからそれぞれの器に注ぐ。薄い橙色の液体からは少し湯気がたっている。
「フォドラの紅茶とは少し味が違うが悪くない」
「ほお……古今東西の紅茶を知るローレンツ先生が言うなら間違いないな」
「クロードくん!そこでそういう揶揄い方しないの!二人とも言わなきゃいけないことあるでしょ?」
 ローレンツもクロードが出自を明かせなかった理由は分かっているのだ。だが人間は理屈だけで生きていない。
「クロード、驚いてしまって申し訳なかった」
 ローレンツの謝罪を受けたクロードが安堵のため息をついた。ホルストと彼が受け入れたなら他の諸侯たちもきっとクロードを受け入れる。
「俺も驚かせて悪かった」
 だがヒルダが話したかったのはそんな分かりきったことではない。
「そうだよ!私だっていきなり義兄弟が増えて、とっても驚いたんだから!ナデルさんってどんな人なの?」
 おそらくクロードの心にはファーガスのお家騒動が深く刻まれている。
「確かに血を分けた兄の義兄弟ならその為人が気になって当たり前だな。詳しく話したまえ」
 だが円満な家庭も数多く存在するのだ。
「長くなるぞ」
「それなら茶菓子を持ってこよう」
 本来の姿を取り戻したローレンツは実に頼もしい。そして気の利く彼は焼き菓子が入った木箱をクロードに渡すと自分の部屋に引っ込んでしまった。どちらに恩を売ったつもりだろうか。


 ある朝、身支度を整えたローレンツが扉を開けるとそこには箱が置いてあった。床に置いても平気なようにきちんと布に包まれていて、身に覚えのある大きさをしている。中身を確かめてみるとやはり先日、焼き菓子を渡すのに使った木箱だった。あの時ヒルダが割った茶葉の片割れとクロードからの手紙が入っている。態度のことも茶菓子のこともその他のことも貸し借りなしにしたいらしい。ローレンツは単に引き際を心得ているだけに過ぎないのだが───単純に気分が良くなった。
 珍しい品が手に入ったので、というのは定番の誘い文句だ。マリアンヌは何かに怯えながら暮らしているが、幸運なことにローレンツを警戒しない。
 良いきっかけを得たローレンツはマリアンヌを自室に招き、そっと彼女の前に茶葉の塊を置いた。いつもと趣向が違うせいかマリアンヌは不思議そうな顔で焦茶色の塊を見ている。
「これはクロードからお裾分けされた茶葉だ。だがクロードはこれを割るのに失敗して、結局ヒルダさんに手伝ってもらっていた」
 ローレンツはマリアンヌが持参した焼き菓子に茶葉がかからないようにそっと白い手巾をかぶせ、茶葉の塊に小刀を突き刺した。使う分だけ削り取るべし、茶葉が重なっている向きを見ながら刃を入れないとせっかくの茶葉を切り刻むことになるので気をつけるべし、とクロードの手紙には書いてあった。
「では元は長方形だったのですね。持ち運びに便利そうです」
「産地はクロードの故郷よりかなり東の山奥らしい。きっと道も細いのだろう」
 飛竜や天馬は大規模な輸送に向かない。重くて大きい荷物を持たせるとすぐに疲れて速度が下がってしまう。だから茶葉の産地から一番近い市場や港までは陸路で運ぶしかない。
「港までの距離がある土地ではこのような工夫をしているのですね、勉強になりました」
 つい最近まで茶葉の旬を気にするものなど殆どいなかったらしい。だがエドマンド家は茶葉が旬のうちにファーガスに届けることでその名を上げた。ローレンツの父エルヴィンはエドマンド辺境伯のそれまで対して注目されていなかったものに付加価値をつける技術を警戒している。
 そんなエドマンド家の養女であるマリアンヌの言葉に頷きながらローレンツは茶器に茶葉を入れ、沸かしておいたお湯を注いだ。クロードがどこ出身であろうと彼を見て苛々することに変わりはない。ローレンツはその思いを新たにした。
 少し蒸らしてから白磁の器に薄い橙色の液体を注ぐと辺りにふんわりと異国の香りが漂う。マリアンヌも静かに口をつけ味と香りを楽しんでいた。
「その……先日は見苦しい姿を見せてしまって申し訳なかった」
 ローレンツには友人が沢山いる。だが国と立場を同じくする友人はクロードしかいない。そう思っていたのに出自について隠されたことが悔しかった。
「仲が……よろしいからこそ、だと思います」
 慎重に言葉を選ぶ彼女は本当に美しい。ローレンツはマリアンヌが美の根源であるその身に秘める何か、を穏やかな気持ちで明かしてくれる日をじっと待っている。
「仲が良い、とは……一体、誰と誰の話だろうか?」
「まあ、ローレンツさんったら!」
 マリアンヌは口に手を当てて笑っている。誕生日に扇子を贈ったら彼女は使ってくれるだろうか。ローレンツがまともな買い物をするためにもレスター諸侯同盟に有利な形で早く戦争を終わらせねばならない。
「流石にクロードと言えどもこれ以上の騒ぎは起こせないだろう。いや、起こさないように監視せねば……」
「きっとヒルダさんからも感謝されますね」
 だがクロードはフォドラにいる間中ずっと騒ぎを起こし続け───去った際も蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。そんな未来が来ることをローレンツたちはまだ知らない。畳む
蒼月ルートのクロロレです。「家出息子たちの帰還.13」
#クロロレ #家出息子たちの帰還

───巫者が祖霊に肉体を明け渡している際は暗闇の中にいるようで周囲で何が起きているのかよく分からないし覚えていられず意識も保てないのだという。辺りを見回す目、物音を聞く耳、思考する頭、言葉を発する口を貸し出していると考えれば納得できる。(中略)言葉と思考は切り離し難いものだ。思考だけがあっても言葉がなければその思考は他者から理解されない。思考と言葉は互いに根源にも結果にもなりうる。思考の限界と言葉の限界は一致しているのだ───


 セイロス騎士団は出自を問わない。シャミアのような信徒ではないものも所属しているし、ハンネマンやマヌエラのような帝国出身者も、同盟出身者も王国出身者もいる。だからクロードとディミトリは同じ手法を取っていた。血筋を利用して騎士たちを油断させ、レアの出した箝口令を掻い潜っている。図々しい話だが、女神と教会は無謬だとしても騎士やその実家の面々は俗世間に属しているので責めないでやって欲しいと思う。
 そんなわけで夜中に書庫へ行く目的が増えていた。ディミトリが書庫へ向かうと机上に禁帯出の地図が広がっている。その上には白くて丸い石が置かれていた。《リュファスを見ろ、賢しげなことをいうやつを信用するな》
 ディミトリは懐から黒くて丸い石を取り出した。《本当なものか、あいつも嘘をついている》ファーガス出身の騎士から聞き出した地点にその石を置く。あと何日かすれば法則が掴めることだろう。《どこだ、殺してやる》二点の位置を覚えたので白い石を懐にしまった。

 数日後の朝、ドゥドゥーが朝食を取れというのでディミトリは食堂に向かった。もう何年も食べ物の味がしない。きっと毒を盛られても気がつかないだろう。《あはは、間抜けは死ね》運んでもらった食事を無理やり咀嚼しているとクロードが挨拶をしながら隣に腰を下ろした。彼はドゥドゥーにもきちんと声をかける。
「駒の動きが読めたような気がしないか?」
「何というか……非常に大胆だな。おそ、ぬ成功するが」
「近々出撃することになる。そっちに移った連中を頼むぞ」
 レアさんと連中はこのフォドラを盤上に見立てている───クロードはそういって話を持ちかけてきた。彼は移籍したものたちに愛着を、レアには微かな憤りを持っている。《相応しくない!塔から放り投げろ!》ジェラルドを殺害した一味の駒は目撃情報で、レアの駒はセイロス騎士団だ。空白地帯を作り、そこに嵌った方が負ける。
 彼女はベレトに復讐を禁じることによって彼を守ろうとしているが《ふざけるな、人生を奪うな》同時に彼を何かに利用しようとしていた。


 書庫番のトマシュにクロードは親近感を覚えていた。意外にも大司教座のあるガルグ=マクにはセイロス教に親しみを覚えていないものは割と多い。クロードがさっと思いつくだけで、トマシュを騙っていたもの以外に自分を含めて四人はいた。問題は想像より多かったこと、親しみではなく憎しみを覚えていたこと、だ。あのままトマシュと親しくしていたら白きものの絵以外に何を見せられたのだろう。
 ディミトリは狙い通りベレトと共に出撃していった。クロードは少し彼が羨ましい。クロードの求める真相はレアが握っている。ベレトを使って脅せば打ち明けてもらえるかもしれない。
「下策だな……」
 気を失った状態でガルグ=マクに担ぎ込まれたベレトを見たクロードはぽつりと呟いた。聞き取れたものはいないだろうが、いたとしても意味が分からないだろう。ガルグ=マクに帰還したものたちは珍しく高揚していた。おそらくレアそっくりに変化したベレトの髪の色が関係している。

 知っておくべきだ、と言ってこれまでローレンツが話してくれたことからも分かる通り、青獅子の学級に与えられた課題は気が滅入るものばかりだった。だが今回はレアが帰還したベレトを見てまさに狂喜したのだという。ローレンツは大きなため息をついた。礼儀作法にこだわりのある彼はクロードの部屋以外でこんな態度は取らない。
「先生が本懐を遂げたことも無事であることも喜ばしい。僕も聖典を読んで育った。当て嵌めたい気持ちもわかる。だが……」
 後は寝るだけ、と言った格好をしているローレンツの眉間に皺が寄った。付け焼き刃かつ他人事で聖典を読んだクロードはこんな時にどんな顔をすればいいのか分からない。仕方ないので無表情を保った。
「先生が助かった理由にも髪の色が変化した理由にもならないな」
 ローレンツは寒気を感じたのか両腕を擦り合わせている。隠喩を使って修身をといたもの、と思って読んでいた書物が客観的な事実を買いた歴史書だ、と言われたら困惑するし混乱して当たり前だ。
「僕が目撃したものは一体何だったのだろう」
 クロードは黙って頷いた。こんな風に何かあった時にすぐ腹を割って話せる日々は残り少ない。畳む
蒼月ルートのクロロレです。「家出息子たちの期間.12」
#クロロレ #家出息子たちの帰還

───ダスカーでは葬儀を終えた一週間から四週間後に巫者を呼ぶ。巫者は遺族や故人の友人たちの前で死後の世界へ旅立ったばかりの故人の魂を呼び戻し、己の身体に憑依させる。遺族や友人は故人と生前の思い出話をして死後の世界での暮らしぶりを聞き、何かして欲しいことがないか、言い残したことがないかを問う。この場では遺族と死者との口論が起きることも珍しくない。葬儀は死者を悪霊ではなく祖霊にするための儀式で、巫者による呼び戻しは死者個人のために行われる───

 昨日は本当にいい日で、フェリクスとイングリットがそれぞれに踊る姿を見たディミトリはずっと微笑んでいた。彼の伯父であるイーハ公は絶対に認めようとしないが、ディミトリは他人の幸福に喜びを見出す。それなのに続いて欲しい日常は儚い。
 ディミトリの箍が外れつつあった。父の死、が目の前でくりかえされたからだ。心中で起きていること、と現実で起きていること、の違いとはなんだろうか。たとえ遺言があったとしても死者たちの最後の願いは想像するしかない。きっとそこが生者と死者を分ける最後の一線なのだろう。その空白を事実で埋めるのは不可能だ。
 シルヴァンは兄を自らの手で討ったのでゴーティエ家のものは他人を恨まずに済む。兄の仇はシルヴァン自身で───仇を討とうとするなら自裁するしかないし、当然そんなことをするつもりもない。だからディミトリがひどく遠い。察したドゥドゥーがすぐに寮へ連れ帰っていた。これくらいしか彼のために出来ることがないので同じ武器を扱うシルヴァンとローレンツが彼の槍を手入れしている。魔獣を相手にしていたせいか返り血を拭う感触がどことなく違う。
「これも刃こぼれしている」
 ディミトリは他者と槍の使い方が違った。シルヴァンもローレンツも槍を敵に突き刺すのだが彼は槍を打撃用の武器として使う。敵兵の頭を割り、腕や肋骨の骨を折るのだ。
「こっちもだ。全部ドゥドゥーに研いでもらわないとだめだな」
 傷み方が違うので穂先の汚れを拭き取り、錆止めの油を塗るだけでは足りない。だが単純作業が気を紛らわせてくれる。フェリクスが刀の手入れを好む理由が今更ながらシルヴァンにもわかった。グレンを失った時も一人で刀を研いでいたのかもしれない。
「彼は器用だな。温室で植物の世話しているところを見たことがある」
「料理も上手いよな」
 シルヴァンもローレンツもジェラルド本人とベレトについて話すことが出来なかった。ディミトリたちは今頃どんなことを話しているのだろう。いや、そもそも会話が成立しているのだろうか。


 ローレンツとクロードが下らない意地の張り合いをしていられるのもエルヴィンとオズワルドが健在だからだ。星辰の節が終われば一年の終わりは近い。自領に戻れば周囲から未来の領主としての振る舞いを求められ、こんな風にクロードの私室へ招かれる機会もなくなる。舞踏会の晩のいざこざも子供時代の思い出になることだろう。
「何というか、密偵の報告を受けているような気分になるな……」
 旧礼拝堂の顛末を聞いたクロードはそういうと杯に口をつけた。滅入った気分も飲み込んでいるのかもしれない。酒瓶の残りも想像より遥かに血生臭い学生生活も残り僅かだ。
「それでも伝えないわけにはいかないだろう?」
 クロードは微かに痙攣する瞼を指で抑えている。彼も士官学校で起きた一連の騒動を現在の盟主であるリーガン公に伝えないわけにはいかない。
「……それもそうだな。俺もお前が知るべきだと思うことを話すよ。話すんだが、まずは最後まで黙って聞いてくれ」
 故人の部屋に入り込み、その日記を勝手に読む、という貴族らしからぬ行いが吹き飛ぶほど異常な話だった。お産で亡くなった母、笑わず鼓動が聞こえない赤ん坊。不審な火事に乗じて団長という位を投げ打ち、ガルグ=マクから出奔する父。
 ローレンツも杯に口をつけた。鏡が手元にないから確認できないが、きっと先程のクロードと同じ表情をしていることだろう。
「何をされたのか分からない状態は不気味だ。距離を取りたい気持ちは理解できる」
「俺たちと先生、それにジェラルドさんには共通点がある」
 クロードが指摘した通り四人ともその身に紋章を宿している。ローレンツは黙って彼の言葉を待った。
「俺の身体は俺の持ち物のはずなのに、俺より教会の方が俺の身体についてよく知ってる」
 その静かな怒りをローレンツは理解できる。だが、自分一人分ならきっと押さえ込んでしまう。
「先生はジェラルドさんにとって、一人息子というだけではない。奥方の忘れ形見でもあったから思い切ったことが出来たのだろう」
 ローレンツも自分のためならその怒りを押さえ込んでしまうだろう。だが家族を守るためならきっと躊躇しない。畳む
蒼月ルートのクロロレです。「家出息子たちの帰還.11」
#クロロレ #家出息子たちの帰還

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───魂の抜けた身体は御者のいない馬車に例えられる。馬はあちこち好き勝手に走り回り、方々にぶつかり馬も傷つく。そのうち御者がいないことに気づいた悪霊が馬車に乗り込む。一方で巫者は御者に例えられる。自らの意思で魂を抜いた身体に精霊を憑依させるからだ。だが巫者の内なる世界で何が起きているのか、は彼らを外部から観察するしかない余所者が客観的に判断するのは不可能だ。───

 日頃は施錠されていて出入りの許されない女神の塔はわざとらしく鍵が外されていた。修道院の粋な計らいだろうか。クロードは少し離れた場所から、散り散りに塔へ向かっては見つからないように出てくる学生たちを眺めた。結果として入れ替え制になっていることに皆が気が付かないのは見つからないように必死だからだろう。意識はお相手に集中しているので前後に誰がいたのか、など考えもしない。
 もう少し近寄れば顔も分かるだろうが、そこまで近寄ると人目を避けたい二人がクロードに気がついて塔に入らず去ってしまう。クロードは特別な、今晩だけの時間潰しとして塔の入り口付近にある物陰に一人で隠れることにした。それにローレンツに見つかれば先ほどの件で叱言を言われるに決まっている。早寝な彼が眠ってしまうまで時間を潰した方がいい。寝て起きれば怒りも薄まっているはずだ。
 束の間の自由を楽しむ鳥籠の鳥たちは本当に終生その相手を愛するのだろうか。クロードのどこか他人事な態度は早々に崩れることとなった。長身で性根も髪の毛も真っ直ぐな人物が塔に向かって歩いてくる。
 自分とあんなことをした彼が相応しいと認定した女学生は誰なのだろう。自分から均衡を崩したくせにクロードの心はざわめいていた。ローレンツは通路の真ん中で辺りを見回している。人目を避けているのか、それともお相手が来るのを待っているのか。
 今晩は舞踏会にいた学生たち誰もが歩みを進める夜なのかもしれない。それならクロードはどこに向かっていくのだろう。そして事態は思わぬ方に進んだ。ローレンツがこちらに近づいてくる。
「悪趣味だぞ、クロード」
 影がさしていて彼の表情はよく見えなかった。
「おいおいローレンツ、俺のこと構ってる場合か?お相手のことを考えろよ」
 吹き出た冷や汗が背中を伝っていく。口から出まかせはいくらでも出てくる。故郷ではそうやって危機を回避してきたからだ。だが一体、何の危機というのだろう。単なる色恋沙汰に過ぎないのに。
「全く……君は自分だけが指し手だと思っているようだ。場所を変えるぞ」
 ローレンツは眉間に皺を寄せたままクロードを睨みつけた。


 クロードが舞踏会を引っ掻き回すところをローレンツは呆然と見つめていた。彼は何故、自分の前であんなことをするのか。耳目が集まるような場であんなことをするなら何故、コナン塔から帰還した後であんなことをしたのか。曲が終わったらすぐにクロードの元へ行って───何かを言わねばならない。そう考えて黄色い外套を目で追っていたローレンツは後ろからそっと肘を掴まれた。それが振り払えないほどの力であったので誰なのか察する。
「喜んでお相手するよ」
 ローレンツは振り向いて右手を胸に当て、ヒルダに礼をした。次の曲が始まり、大広間の真ん中に二人で手を取って踊り出る。皆、音楽と相手に夢中で密談するにはもってこいだった。
「ローレンツくん、また騒ぎを起こすのは駄目だよ」
 くるくると回りながらヒルダが忠告してくる。二つ結びにした薄紅色の髪がすれ違うものたちにぶつからないよう、ローレンツが進行方向を調整せねばならない。
「何もかもあの調子でいくと思わせたくない」
「試してもらいたいことがあるから今は堪えてくれるかなー?」
 彼女がそう言った時は半信半疑だった。しかしローレンツが数曲踊った後、確かにクロードはヒルダが誘導した通りに先に引き上げていた。

 真の事情を知らないヒルダは単に友情と善意ゆえにローレンツの名誉を救ってくれたに過ぎない。そんな彼女の手のひらで転がされたことが信じられないのだろう。寮に戻る道中、種明かしをされたクロードはローレンツの部屋で頭を抱えている。
「いや、本当に油断禁物、だな……」
「周りのものたちを甘く見るな。ヒルダさんに悪趣味な好奇心を見抜かれていたではないか」
 恥ずかしさは底を打ったのかクロードは顔を上げた。言うべきことを言おうとする姿は年相応で可愛らしい。
「不安な思いをさせて悪かった」
 ローレンツは今後、この口からこの類の言葉を何度も聞かされそうな気がする。
「分かっているなら結構」
 そして聞かされる度にこんな風に返事をするのだろう。女神の塔に現れた自分を見て、ひどく不安そうな顔をしていた時点でローレンツはクロードのことを許していた。畳む